妊娠が分かる少し前、私は友人と郵便局のアルバイトの面接を受けていた。


私の高校は基本的にアルバイト禁止としていたが、短期間ということもあり黙って面接を受け、見事採用の言葉を頂いた。




お正月の郵便局バイト内容は簡単なもので、決められた場所に年賀状を入れていくもの。

アルバイト未経験だった私は張り切って仕事に臨んでいた。

出勤はほぼパーフェクトキラキラ




だが元旦から状態がガラリと変わった。




友「大丈夫はてなマーク具合悪いのはてなマーク

私「うん…ちょっとねあせる大丈夫…」




体調は最悪。ひどいつわりが襲って来ていた。


家ではずっとベッドに横になり、食事もまともにとれない状態。

家にいたらいつか家族に気付かれてしまう…。


フラフラになりながらも笑顔で家を出て、バイトへ向かった。




初めは順調に仕事をこなしたが、お昼過ぎぐらいから調子が悪くなる。

立っていることさえ辛い…。でも仕事はまだまだある…。

郵便局のアルバイトは私語厳禁注意だった。
配属される場所によって担当者が優しい人もいたらしいが、私の配属先は怖い男性爆弾で、一切の私語を禁止した。

朝から夕方まで1人で黙々とひたすら同じ作業をしなくてはならない。
話などしていれば気分も紛れるというのに…にゃ

年賀ハガキとつわりとの真剣勝負だった。


その中で、お昼休憩が一時間腕時計ある。
それが唯一友達と一緒にいられる時間だった。

友「大丈夫はてなマークはてなマーク顔色悪いよあせる

私「…ダメかもガーン


私は責任感が強く、頼まれた仕事や引き受けた仕事はきちんとやらなければ気が済まない性格だ。

そんな私がまさかの「ダメかも」発言。
友人はビックリえっした様子で早退を勧めた。


お昼休憩だというのに食事が取れない。
水を飲むことさえ出来ない状態だった汗


でも母が作ってくれたお弁当ナイフとフォークだけは無理矢理お腹に押し込んだ。
それはバレてはいけないという思いからの行為だった。

食べた後はトイレに駆け込む。
吐きこそしなかったが、辛くて辛くて涙が出た。


しかし無駄に責任感が強い私…絶対に早退だけはしたくない。

無理をして続けていたが限界はすぐにきてしまった。


私は郵便局員に連れられて仮眠室で横になった。


郵「ここで安静にしてなさい。無理しなくていいから」


私「すいません…」


妊娠しているなんてことは言えなかった。

言って何かの拍子に親に伝わることを恐れたからだ。

隠してもどうにもならないのに…しょぼん



この日を最後に郵便局へ行くことができなくなってしまった…。

ペタしてね

家に帰った私を、家族はいつものように迎える。

空気が悪いとはいっても龍の名前が出なければ何も変わらない。


私「ただいま」


母「おかえり、もうすぐご飯だよ」

「蕎麦にするはてなマークうどんにするはてなマーク


私「…うどんがいい」


大晦日の夜は毎年年越し蕎麦かうどんを食べる。

今年も例外ではなく、母は家族の希望どおり蕎麦とうどんを作っている。

父は母の料理を手伝いながらテレビを見て笑っていた。


蕎麦かうどんかなんてどちらでもいい。そんなこと悩んでいる場合ではないのだ。


私のお腹の中には赤ちゃんがいる。


実感もないし、なにかの間違いではないかと願う気持ちもあるけれど、さっき…数時間前に目にした現実は嘘じゃない。でも…


まだ現実をうまく受け入れられない。

とにかく家族にはバレちゃいけないということだけ考えていた。

このお腹にいる赤ちゃんの父親は間違いなく龍なのだから。


両親は私と龍の付き合いを反対していた。

こういうことが起こる可能性もあるからだろう。

というか、それが一番最悪な可能性だ。


けれど私はその一番最悪な結果に辿り着いてしまった。

なんという親不孝な娘だろうしょぼん

だがそんな状態でも私はまだ龍とのことばかりを考えていた。


『この状態がバレたら龍といられなくなるどころか、もっと大変なことになる。絶対に隠さなければ』


この時はまだつわりもなく、体の変化もなかったので普通にしていればバレることもない。

私は家族と一緒に母の作ったうどんを食べ、年越しのテレビを見た。


テレビではお笑い芸人が楽しそうにはしゃいでいる。

カウントダウンが始まった。


「5」


「4」


「3」


「2」


「1」


「あけましておめでとう!!


2001年の幕開け。家族と一緒に笑った。

心の中ではとても複雑な感情で埋め尽くされていたものの、それを悟られてはいけない。

一世一代の大芝居。


思った通りなにもバレることもなく、その日は眠りについた。

しかし元旦の朝、目覚めと共に私の体調は一気に崩れて起き上がれなくなってしまった。

ペタしてね

トイレで陽性を確認した後、少しの間放心状態だった。



まさか自分が…。
危険なのは分かっていたつもりだが、実際妊娠というものは自分とは別世界のものだと思っていた。

誰しも身をもって体験しなければ分からない。
それくらい妊娠は現実味がない出来事なのだ。

我に返ると今度は一気に涙が出る。





トイレのドアを開けて飛び出すと、私は部屋で座りながら待っている龍にすがりついた。




私「どうしよう…っビックリマークどうしよう…っっ!!




パニックに陥り、声を上げて泣いた。






年齢のこと(当時15歳)、学校のこと、親のこと…全てのことが一気に怖くなる。


産むとか産まないとかそういうこと以前の問題で、全部がぐちゃぐちゃになり考えることができない。


冷静になることなんて出来なかった。




龍は検査薬を見ると、すがりついて泣く私を強く抱きしめた。


そして何も言わずに私が泣きやむまで待っていた。






しばらく泣いて落ち着きを取り戻した私は、龍から体を離して涙を拭いた。


まだ頭は混乱しているが、泣いていても何も変わらない。


これは現実なんだと無理やりにでも頭を働かせる。




私「ごめんね…」




自分が何に対して謝っているのか分からないが、龍の顔を見ながら呟く。


龍は目線を落としたまま何も言わない。




私「今日は…帰る」




とにかく帰りたい。それしか浮かんでこなかった。


カバンをたぐり寄せてバタバタと玄関へ向かうと、龍は「気をつけて」とだけ私の背中に投げかけた。




『こんな時でも見送ってさえくれないんだ…』




家の扉ドアを閉める。別の意味で涙が出そうになった。


大晦日の夜は寒く、家に帰るまでの電車電車がとても寂しく辛い。




逃げるようにして龍のいる街を離れた。


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