本日は今年の最注目の第九公演と言えるギルバート指揮・都響のコンサートに行きました。ギルバートと都響の関係はかなり良いと思いますし、ソロ歌唱陣4人全員が欧米勢なのは都響だけです。ソプラノのニルソンはスウェーデンの歌手でギルバートのお気に入り、テノールのヴェイニウスは昨年の東響のサロメに出演していましたがあまり印象はなく、バスのロビンソンは実力派で、NYのMETで何度か聴いたことがありますが、メゾのシャハムは知りません。全て欧米の歌手だから良いとは思いませんが、23日のN響の第九をBSの4K放送の生中継で観ましたが、イタリアで大活躍の脇園さんはずば抜けて素晴らしい歌唱でしたが、テノールとバスの声が細く、特にバスの河野さんのドイツ語の発音は微妙で、このような点で欧米勢と日本勢の差を感じることがあります。今日も如実にソリストによる歌唱の圧倒的なパワー面を見せつけられました。やはり、先日のブログに書いたように、今年の第九は都響がベストで、もう一度聴きたいくらいです↓。N響の第九は予想通り、あまり創意のない下野さんの指揮で、「千人」の時の同じような汚いフライイング・ブラボーがあり、行かなくて正解でした。

さて、本題の今日の第九は、ギルバートが「Right tempo」(正しいテンポ)で指揮するよと予告していましたので、この点が注目です。第1楽章では、ギルバートは暗譜・指揮棒無しの迫力のある指揮で、第1主題で低弦パートとホルンを強調します。今日のホルンは第1楽章から第3楽章まで活躍しており、この楽章では1stVnとHrnが同じ旋律を音量で演奏する部分もありました。テンポは標準的でしたが、展開部と再現部ではややテンポを落とし、低弦パートをさらに強めて重厚感を出していました。第2楽章ではやや遅いテンポで始まりました。この楽章ではTrpとHrnを際立させながら進めていきますが、今まで聴いたことのないTimpの音も強調されていて、新鮮な第2楽章でした。再現部に入るにつれて、テンポが早くなり、演奏の激しさも強くなりました。第2楽章が終わると、4人の歌手陣がPブロックの最前列に座ります。ソプラノが緑のドレス、メゾが赤のドレスで、クリスマス感があります。先日のN響は第1楽章から歌手が板付いてましたが、脇園さんが口の中を調整しているシーンや第3楽章まで黒のカーディガンを羽織っているシーンが映っていて、やはり、第3楽章前に歌手を入れ込むのが良いのではと思いました。第3楽章は、天国を描いているかのような美しく優しいアプローチの演奏です。アコーギクはほとんど無く、美しく演奏する点に焦点を当てているような感じがしました。第1楽章から出番が多かったHrnに少しキズがあったのは残念でしたが、この楽章の魅力を再発見できました。この楽章で、バスのロビンソンがPブロックの鉄柵を触ったりしていたり、あちらこちらを見ていて、落ちつかない表情で、早く歌いたかったのでしょうか。第4楽章が始まり、快速なテンポで歓喜の旋律まで演奏されますが、その後、バスのロビンソンは強烈な「おお友よ、」と歌い出します。ワーグナーのヴォータンのような大迫力と深みのある歌唱で、ロビンソンによるこの部分の歌声が今日のハイライトでした。他の3人の歌手はスコアを見ながらでしたが、ロビンソンだけ暗譜で歌っていました。テノールのヴェイニウスの「歓喜」の行進曲の歌唱は弱くて、スコアを必死に見ながらでしたので、ロビンソンに比べると迫力が残念ながらありません。新国立劇場の合唱団はN響公演よりはやや少ない人数で(今日は60人位)、人数が少ない方が筋肉質で歌唱がきちんと揃いますし、ソロパートが際立つので良いと思いました。合唱パートでは、ロビンソンがバスの合唱部分を座りながら口ずさんでいて歌っていて、この人は歌うために生まれたきた方なのだと感じました(ロビンソンは大学まではアメフトの選手だったそうで、かなりの大柄です)。ロビンソンには、ワーグナーや第九などで再来日して欲しいです。ソロ4人によるフーガ風の最後の歌唱はバランスが取れていて、とても素晴らしく、静かに終わる箇所では、4人でぴったり合わせるのは難しいので、ソプラノに合わせたりすることがあるですが、今日はロビンソンの声でフィニッシュしたように見えました。ちなみに、先日のN響公演の独唱4人の歌唱はズレて終わっています。第4楽章のクライマックスはテンポを上げて、合唱のラストの部分("Freude, schöner Götterfunken")は4人のソリストも参加して、大団円となりました。ギルバートが言っていた「Right Tempo」を実感する演奏で、聴いていて自然と納得してしまうテンポでしたし、新鮮で興味深いコンサートでした。今日のような第九はなかなか聴けないですし、かなり貴重な機会だったと思います。

今日の合唱指揮は冨平さんですが、N響第九公演の合唱指揮も兼任しており、今日のカーテンコールでは富平さんが登場しましたが、同じ時間にNHKホールでやっているN響第九では、別の合唱指揮の方が合唱団のウォームアップなどをしていたのでしょうか。

ソロ・カーテンコールでは、ギルバートが登場し、上手側に戻っていたソリスト陣を招いてのカーテンコールでした。第九のソロパートは少ないですが、今日の歌手陣は素晴らしかったので、このカーテンコールには納得です。ギルバートは毎年7月(都響と大友さんのプロジェクト)に来日する年間スケジュールになっているのですが、今年は7月都響に加えて、11月のNDRエルプフィル、12月の第九の3回聴く機会がありましたが、来年以降も来日回数を増やしてもらいたいと思いました。この公演はクリスマスを挟んだ期間でしたので、ギルバートやロビンソンらは家族らと一緒に来日していましたが、東京のクリスマスのイルミネーションは海外からはかなり評価されていて、家族同伴ですと東京のクリスマスは過ごしやすいですので、この時期に欧米からの歌手が来年以降も第九に出て欲しいです。次回はノット監督・東響の第九で今年のコンサート納めになります。


(評価)★★★★ 納得感の高い第九でした!

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演


指揮:アラン・ギルバート
ソプラノ:クリスティーナ・ニルソン
メゾソプラノ:リナート・シャハム
テノール:ミカエル・ヴェイニウス
バス:モリス・ロビンソン
合唱:新国立劇場合唱団
東京都交響楽団
曲目
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 Op. 125 「合唱付」