今日は中川優芽花のリサイタルを聴きに三鷹まで行きました。筆者はもっぱら千代田区、港区、渋谷区で生息しており、新宿・歌舞伎町よりザルツブルクの方が行った回数が多いです(^^)。三鷹を訪問するのは人生初めてで、三鷹市芸術文化センターはアクセスが良くないのですが、今日の公演が完売しています。ショパコンの結果は残念でしたが、2週間前に中川は「岩谷時子賞」の授賞式でさだまさしと同じタイミングで、若手音楽家部門で受賞しています(クラシックでは佐渡裕、辻井伸行が過去に受賞しています)。

当ブログでは中川さんについては何度も取り上げてますが、彼女が全国的に注目されたのは、先月のショパコンの「NHKスペシャル」で中川さんがフィーチャーされていたからでしょう。彼女のドイツでのレッスン風景、インタビュー、本番直前などのシーンは印象的でしたし、2次予選での《24の前奏曲》で涙を溢れさせながら感情をむき出していた《雨だれ》やラストの強烈なD拳強打が放映されていました。彼女のショパコンで強烈な存在感を出していた箇所で、短い番組なのに素晴らしい編集でした。

(ショパン国際ピアノコンクールの2次予選)

彼女の良さはリスクを恐れず、自分らしい表現性に徹底的にこだわる点でしょう。今日のリサイタルも中川の個性が発揮されていました。


【前半】

いつものように笑顔で登場しますが、衣装は黒のセットアップではなく、黒のジャケットにクリーム色のパンツルックで登場しました。モーツァルト「ピアノ・ソナタ第3番」の第1楽章から明るい表情豊かなモーツァルトで、しっかりとしたタッチでクリアな音を出し続けていました。第2楽章はクリスタルのような透明度の高い音が惜しみなく出ていて、天上の音楽のように神聖な雰囲気になっていました。第3楽章は遊び心を入れながら、しっかりしたフォルムの演奏で、中空を見ながら、ベストな表現を探っているようなすがたが印象的でした。モーツァルト「ピアノ・ソナタ第17番」の第1楽章は丁寧な音楽づくりで爽快な部分と物悲しい部分をうまく切り替えながら演奏し、第2楽章では堂々とした構えで、しみじみとした心に入ってくるメッセージ性のある表現でした。第3楽章は一転して軽快で飛び跳ねるようなアプローチで、奥深い音も出しながら、ピアノを自由自在に操っているところを観ると、中川はモーツァルトを得意としていることが分かります。モーツァルト「アダージョ」は初聴の曲ですが、左手がロシア人ピアニストのように力強く、徐々に深刻度の高い演奏になり、後半にかけては悲劇性も感じられ、表現のグラデーションの大きさを感じました。モーツァルトはあと1曲あるのですが、ここで休憩を入れるのは正解で、「アダージョ」と次の「ピアノ・ソナタ第2番」&ショパン「4つのマズルカ」は舞踊風になるので、休憩をおいた方が良いでしょう。


【後半】

後半のモーツァルトからショパンにかけては連続して演奏されました。モーツァルト「ピアノ・ソナタ第2番」の第1楽章はモーツァルトのスコアに書いてあること以上のことを表現する中川らしい演奏で、第2楽章はしみじみとした短調へ切り替えて、思いにふけながら、ゆったりと柔らかい音楽でした。第3楽章は踊るような演奏で、聴いていて愉快になるものでした。ここからショパンになりますが、「4つのマズルカ」のうち第21番とそれ以降の「ノクターン」「英雄ポロネーズ」はショパコンで披露された曲目です。ショパン「4つのマズルカ」では重心をきちんと取った演奏で優雅さを感じる第18番、大粒の音がゴージャスに鳴り響く第19番、泣きそうになりながら感傷的な表現の第20番、ポーランドの民族舞曲が華やかに演奏された第21番と中川の多種多様なパステルからカラフルな表現が存分に出ていました。ショパン「ノクターン第17番」も感傷的でしんみりとした曲想をキーシンのような強固なタッチで演奏していました。ショパン「英雄ポロネーズ」は2次予選で演奏されましたが、堂々とした弾きっぷりは良かったものの、ミスタッチが目立ち、これが3次に進めなかった1つの要因かと思いましたが、今日の演奏ではミスは感じられませんでした。コンクールの独特な空間で緊張していたのでしょうか。強靭なタッチで豪壮にスタートさせた中川は、あまりタメずに、突進していく感じで進めていきます。ここでもロシア人ピアニストのような強靭な左手の打鍵によって、日本人とは思えないスケールの大きな音楽になっていきます。豪快な音楽がホールの床まで響いていて、これを聴きに三鷹まで来た価値のある凄い演奏でした。


アンコールは中川が曲目を紹介し、今回はデビュー・アルバムからの2曲が演奏されました。

特にラフマニノフのプレリュードは昨年の浜離宮でのリサイタルでも演奏されましたが、強靭で激しい中川ワールド全開の演奏で強打が続き、圧巻のラストでした。これを観ると、中川のラフマニノフのコンチェルトを聴きたくなります。やはり、このピアニストは只者ではありません。今年のショパコンを全部は観ていないですが、筆者はヴィンセント・オンと中川優芽花を推しております。優勝したエリック・ルーの淡白でAIのような演奏は好みではないのですが、来週の実演で感想を書きたいと思います。終演後のサイン会(CD購入者限定)は多くの方が並んでいました。


(評価)★★★★ 中川らしい個性の出ていたリサイタルでした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 

(★五つ星は年間10回以内に制限しております)


【アンコール】シューマン: トロイメライ ラフマニノフ: 前奏曲第5番


出演中川優芽花(ピアノ)
曲目モーツァルト:ピアノ・ソナタ第3番 変ロ長調 K.281
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番 変ロ長調 K.570
モーツァルト:アダージョ ロ短調 K.540
***
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第2番 ヘ長調 K.280
ショパン:4つのマズルカ op.30
     I 第18番 ハ短調、II 第19番 ロ短調
     III 第20番 変ニ長調、IV 第21番 嬰ハ短調
ショパン:夜想曲第17番 op.62-1
ショパン:ポロネーズ第6番 変イ長調 op.53「英雄」