ハワイ滞在中にクラシックの番組を録画予約しておりまして、先程、やっと見終わりました。興味深かったのは、4/21(日)の21:00-23:00にEテレ「クラシック音楽館」でソヒエフ指揮・N響によるベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」が放映された後、同じ日の23:20からBSP4Kの「プレミアムシアター」でマケラ指揮・コンセルトヘボウによる「英雄」が放映されていました。こんな短い時間差で、クラシックの番組が同じ曲を取り上げるのは珍しいと思いました。余談ですが、NHKは昨年、BSの2Kの「BS1」とクラシック番組を放映していた「BSプレミアム」の2つのチャンネルを一つに統合し、「NHKBS」と言うチャンネルになり、他にBSP4KとBS8Kがあります。クラシック・ファンであれば、この4Kと8K放送は必須だと思います。毎日のようにクラシックの番組をやっている上に、映像と音が素晴らしいです。4Kと8K放送を見るには、対応するTVを購入する必要がありますが、少し高いので躊躇する方もいるかもしれません。しかし、NHKのBSチャンネル(2K)が減ったので、4Kや8K放送を見れる方がクラシック番組をより沢山見ることができますし、NHKは8Kカメラでコンサート収録をしていることが多いので、やはりTVに投資する価値はあります。


話をソヒエフとマケラ指揮の「英雄」に戻しますが、今年1月のソヒエフ指揮のN響定期での英雄は、好演でしたので、その時のブログには書きました↓。

昨年のソヒエフのベト4はイマイチだったのですが、今年の英雄が良かった理由は、ソヒエフの番組内でのインタビューで理解できました。ソヒエフは「ベートーヴェンの本当の姿が見えてくるのは、第3番からだと思います。(ソヒエフが学生時代に)ベートーヴェンの第1番を最初に取り組みましたが、その後、第2番を飛ばして、第3番に取り組み、他の指揮者は第5番や第4番に進むのに、私は第3番にかなり長い時間をかけました。この時はイリヤ・ムーシン先生に師事していた頃ですが、この作品を理解するために、先生と一緒に長い時間をかけたのを覚えています(この曲の構造、性格、リズム、この交響曲の文脈)。それでも演奏するたびに、新たな発見があります。N響がベートーヴェンに精通しているので、新しい発見があると期待していましたが、私とは異なった視点がいくつもありました。今日のリハでこれまで思いもしなかったアイデアをN響メンバーからもらいました。(例えば)ソロのメロディのための準備として、楽譜にないクレシェンドが必要だと思ったのです。そういったことが音楽をカラフルに生き生きとさせます」と語っていました。さすが「音の魔術師」と言われるソヒエフの素晴らしい音楽観です。このような深い洞察と思考過程がきちんと演奏に現れていました。ソヒエフは最小限のタクトで指示を出しながら、N響との化学反応があり、前回の素晴らしい英雄に繋がったことをNHKの放映で確認できます。ソヒエフのカーテンコールはN響サントリー定期では珍しく盛り上がり、ソロ・カーテンコールもありました(サントリー定期は昔からの会員さんが多いので、酷い公演ではさっさと帰る方が多い印象があります)。


では、この後に続く、マケラ指揮のコンヘボの演奏はと言うと、マケラは相変わらず、激しめの縦線のタクトで、強弱と緩急を極端に強調するだけでした。この方はやはり、お祭り的に盛り上げるだけの指揮者感が否めないです。ソヒエフが描いていた独特の音色やルバートをあまり感じませんでした。マケラの指揮が終わるとコンヘボの会場はスタンディング・オベーションになるのですが、この会場は昔から何の公演でもスタンディング・オベーションになります。オランダの地方オケで大した演奏でないのに、スタオベが起こるのは、この会場の風習なのでしょう。このコンサート映像の後に、マケラのドキュメンタリー「クラウス・マケラ ほとばしる情熱」と言う番組がありました。マケラの幼少期からコンヘボ首席就任決定までの過程が描かれてますが、彼は指揮よりチェロ奏者の方が合っているのではと感じました。彼の師であるヨルマ・パルマは「指示は最小限でいい。講釈は必要ないのです」と言ってましたが、マケラの指揮では前者については師の指示を従っているとは言えません。彼のリハは講釈はあまりなく、それぞれのパートに強弱などのシンプルな指示を入れていくだけで進みます。筆者はマケラの指揮には懐疑的なのですが、彼がオスロ・フィルの首席に決定した時は初共演の後で、コンヘボの首席に決定した時も、2回目の共演直後に決まっています。かなり早すぎて軽率な判断のように思えますが、何か裏で大物英国プロデューサーが動いていたのではと察します。マケラはシカゴ響のシェフにもなりましたが、シカゴ響はムーティ時代になってから2019年の来日公演までで、オケのレベルが落ちたと思いましたので、あまり興味はありません。コンヘボもシカゴも金融資本主義の都市にありますが、客寄せになる指揮者を選んだのだと理解しております。ガッティが辞任後、コンヘボの首席にソヒエフやパーヴォの線もあったようですが、コンヘボも昨年の来日公演で特徴が薄れたオケになってしまいましたので、コンヘボもそんなに期待はしていません。来年の秋のコンヘボ来日公演は、マケラ指揮ですが、ガールフレンドのユジャ・ワンが共演する予定なのが興味深いです。また、昨年4月にベルリンでマケラの楽屋に行きましたが、人柄が明るくて親しみやすい点は認めます。引き続き、ソヒエフがN響のシェフになることを願います。