今日は久しぶりのN響Bプロに行きました。10月から12月は海外オケの来日公演が多かったですし、Bプロはイマイチな選曲が続いていたので、スキップしていました。今日のソヒエフによるモーツァルトとベートーヴェンの古典派音楽はあまり期待していませんでしたが、とても良い意味で裏切られました。昨年から不調だったBプロは今日のコンサートで完全に復活しました。ソヒエフはロシアやフランス音楽を得意とし、マーラー2番あたりは良かったのですが、その他のレパートリーが少ない、またはパッとしないイメージがあります。昨年1月のソヒエフ指揮・N響のベト4はイマイチでしたので、今日は期待半分でサントリーホールに行きました。コンミスはトゥールーズのコ・コンミスの藤江さんで、ソヒエフの音楽を演奏したいと言う理由で、トゥールーズに行ったそうですが、地味で派手さのないコンミスでした。


前半のモーツァルトの協奏交響曲は、弦は8-6-4-3-2の小編成で、N響の郷古さんと村上さんによる2人によるソロで、郷古さんがコンミスと握手した後に、村上さんはコンミスとグータッチでした。ヨーロッパの一部の人は今でもグータッチの人がいます。昨年11月にエマニュエル・パユに会った時は今でもグータッチです。郷古さんと村上さんのお二人は本当に息のあった演奏でした。楽園的なモーツァルトをソヒエフがうまく処理していて、この点が想定外でした。第1楽章はソヒエフが指揮棒無しで、あまり拍を取らずに、音色を出すようなミニマルな指示が中心で、感情豊かに美しい旋律を紡いていきます。郷古さんと村上さんのソロはキレのある演奏で、郷古さんはクールでスマートな弾き方ですが、村上さんは葉加瀬太郎さんみたいに暴れながら演奏しているのが対極的でした。村上さんの方がソリストとしての場数を踏んでいるためか、ソリストとしての風格を感じました。こういう方がN響の首席のポストにいるのは素晴らしいことです。第2楽章は、しんみりとゆっくりとしたテンポで進み、第3楽章では一転して、軽快な演奏になります。ここでも郷古さんは真面目に弾いてますが、村上さんは笑顔を交えながら楽しそうに演奏していました。2人によるアンコールもモーツァルトの二重奏曲で、これは初めて聴いた曲です。


後半の「英雄交響曲」でも、ソヒエフはやや力を抜きながら、拍は最小限でN響に任せて、重要なポイントを中心に大振りの指揮になります。第1楽章の冒頭からアコーギクを感じ、ソヒエフの構成力が光ります。完全に自分の音楽として身についているかのような指揮で、例えば、第1主題などは快活に展開され、展開部ではかなりの雄大さを感じまして、ソヒエフの創意あるベートーヴェンを聴けた点が素晴らしいです。第2楽章の葬送行進曲は、能登半島の犠牲者の方に捧げる音楽なのか、かなり重みのあるテンポで始まり、絶望感と悲壮感が深い演奏になります。第3楽章は、通常のテンポで標準的な演奏で始まりましたが、中間部のホルンを強調することで、アルプス山脈地帯の狩りのシーンが描かれていて、「音の魔術師」のソヒエフらしい解釈です。第4楽章ではかなり速いテンポで展開されますが、ここでも、3人のホルンによるブルックナー並みの音量で、神聖な英雄が描かれているような気がします。久しぶりに新鮮なアプローチの英雄交響曲を聴きまして、明日もサントリーホールで聴きたいくらいです。

今月のソヒエフによるA, B, Cの3つのプログラムはいずれもハズレがなく、進化したソヒエフが聴けて、全て最高評価の五つ星または四つ星の評価です。カーテンコール中にソヒエフがN響メンバーをPブロックに向けるシーンがありましたが、これもN響としては珍しく、ソヒエフとN響の良い関係性がうかがえます。今月のN響定期の映像はNHKで早く観たいですし、ソヒエフのインタビューにも注目したいと思います。昨年の彼のインタビューでは「音楽づくりで、ルバートを最も重視する」と言うような話をしていました。何度も申し上げてますが、やはり、ソヒエフがN響の首席になって欲しかったです。次回のソヒエフ来日は11月末のミュンヘン・フィルですが、1月にもN響定期で3つのプログラムがあり、11月から1月はソヒエフ月間になりそうです。


(評価)★★★★ ソヒエフによる素晴らしい古典派音楽を堪能できました

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演


出演
指揮:トゥガン・ソヒエフ
ヴァイオリン:郷古廉
ヴィオラ:村上淳一郎
NHK交響楽団
曲目
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K. 364
ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 Op. 55 「英雄」
《アンコール》
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲第2番 変ロ短調 K. 424 から第3楽章「主題と変奏」