今日はサントリーホールでマーラー9番を鑑賞しましたが、この交響曲はマーラーの全交響曲の中でも異次元だと思います。録音では、ワルター、バルビローニ、カラヤン、バーンスタインなど様々な名指揮者によるものを聴きましたが、どれも名演であることは間違いないです。マーラーが「交響曲を書くことは、私にとって、あらゆる手段によって世界を組み立てることである」と言っているくらい交響曲へのこだわりがあります。あらゆる手段とは第2、3、4番と8番の声楽や、第6と7番の特殊な打楽器などを使って表現すると言う意味でしょう。彼が追求していた人生観や死生観の究極形が、純粋な器楽による第9番だと思います。筆者が鑑賞した実演の最高峰がアバド指揮のベルリン・フィル(1999年、ベルリン)とルツェルン祝祭管(2010年、ルツェルン)の公演です。1994年のベルリン・フィルの来日公演でのマラ9はまだアバドが若かったからか、微妙でした。しかし、1999年のベルリン公演は翌年にアバドが胃がんの手術を受ける前の年で、死や天国を意識したのか、別次元の名演で、拍手が鳴るまで、1分以上かかっていることがライブ録音で収録されているので確認できます↓。



その後、アバド(2014年1月没)の最期の公演となった2013年の8月のルツェルンも鑑賞しましたが、その3年前の2010年のルツェルンのマラ9が圧倒な名演が映像で残っています↓。

この時の映像を改めて観ると、アバドの指揮と表情には全くの無駄が無く、特に最終楽章は圧巻です。オケのメンバーが人生の全てをかけたような壮大で重厚な音を出しています。アバドは最終楽章で曲を終える時に指揮をせず、息を引き取るような表情と仕草で演奏を終えて、1分半以上の静寂のまま拍手になります。まさに、最後のパートの”Ersterbend”「死に絶えるように」の瞬間を体現しているようで、この神聖なシーンの映像を見ると、涙が出てきます。もし、宜しければ、第4楽章だけでもご覧になってください。この公演は文句なしの最高評価の五つ星になり、一生の思い出に残っています。今日のカーチュン・ウォンのマラ9は早計だった思わざるを得ないですし、評価が二つ星は妥当な相対評価だと思います。カーチュン・ファンの方は↓下記の5/10のカーチュンの映像と上記のアバドの映像を比較すれば、理解して頂けるでしょう。


このアバド・レベルのマラ9を指揮できるのは、現役の指揮者ではビシュコフまたはソヒエフあたりではないでしょうか。メータのマラ9も聴いてみたいところですが、既に耳がよく聞こえないらしく、2015年に世界一の弦と言われたイスラエル・フィルとのマラ9を聴いたので、これで十分です↓。


筆者が生きている間にアバドのような名演を出会えることを祈念しています。