アマプラ謎のチョ・ソンギュ監督特集に戻りますが…監督お得意の韓国東北海岸、グルメ、そしてマルチバース的オムニバス、三つ揃って大好物…「長い一日」

 

【エンドロールを見てぶっ飛びましたが、何と、ヒョンス、ユンジュ、ジョンユンに各俳優3人、ソヨンに俳優2人というとんでもない配役なので一部役名に俳優名を付記します】<1番目の話 大きな柿の木がある家>郊外の一軒家に引っ越してきた作家ハン・ジョンウ、本名ヒョンス(キム・ドンワン)が荷物を解いていると若い女(ナム・ボラ)が訪ねて来る。ここに住んでいたが忘れ物があるから探させてほしいと言う。どうやら一緒に住んでいた男に逃げられたらしい彼女は家や近所のことを馴れ馴れしく説明してくれるが、そんな彼女と一緒にヒョンスも何か分からない忘れ物を探すが見つからない。そして、お腹が空いた、という彼女と共にヘジャングク(解腸スープ:二日酔いに効くといわれる具沢山スープ)屋に向かう…<2番目 汽車が通り過ぎる食堂>カンヌン(江陵)の鏡浦海岸に着いたのは、自主映画ロケハンに来た伊丹十三「タンポポ」が好きだというジョンユン(ソンミン)と彼氏で運転手のヒョンス(ソ・ジュニョン)だ。二人は海岸をうろつくが、飯にしよう、とKorail東海線沿いの洒落た海鮮屋に向かう。二人はそこでソプクク(ムール貝スープ)とムルフェ(水刺身:刺身入り冷たいスープ)を頼むが、こんな美味い店を何で知ってる、と聞くヒョンスにジョンユンは、監督のハン・ジョンウ、と恥ずかしそうに答える。その一言で場の雰囲気が一気に変わる…<3番目 海が見えるアトリエ(作業室)>カンヌン(江陵)を見下ろす瀟洒なペンションをヒョンス(キム・ヒョンジェ)が訪ねる。出迎えたのは妖艶なユンジュ(キム・ヘナ)だ。先週ヒョンスの妻でシナリオライターのソヨン(ミン・チェヨン)とユンジュの監督の夫が交通事故で亡くなって、監督のアトリエに妻の私物を取りに来たのだ。二人は近くの洒落たレストラン”小さな食堂835”(実在します)で食事することになるが、監督の妻ユンジュは衝撃的な話を始める。傷心を抱えたヒョンスはその足でオデサン(五台山)ウォルジョンサ(月精寺)を訪れるが、そこでジョンユン(イ・ダヘ)という監督の卵を見かける…<4番目の話 長い一日>ユンジュ(シン・ソユル)のカフェに旧友ジョンユン(チョン・ヨンジュ)がソヨン(キム・ハナ)という監督を連れて訪ねて来る。ジョンユンが書いた小説の映画化の話が出ていて、モデルの一人ユンジュの許可を貰いに来たと言う。ユンジュとジョンユンは、レストラン(2話で出たレストラン)でソプククを食べ、カフェ(3話で出たペンションの1階)でコーヒーを飲みながら話し合うが…

 

キャストは役名で整理しちゃいます。作家でしょうかヒョンスに、1話では歌手で二枚目キム・ドンワン、2話では監督作「サヨナラの伝え方」主演の二枚目ソ・ジュニョン、3話では<超新星>の二枚目キム・ソンジェ、監督の妻とか謎のユンジュに、1話では監督作「クロワッサン」の美形ナム・ボラ、3話では、「Mirror 鏡の中」の昔から大ファンのシャープな美形キム・ヘナ、4話では、「オクス駅お化け」などこれまた大ファンのシン・ソユル、監督の卵か作家ジョンユンに、2話では、実力派美形歌手ソンミン、3話では端役でしか見てませんがベラボーにキュートなイ・ダヘ(有名女優とは別人)、4話では、「アリス:ワンダーランドから来た少年」「ビューティフル・ヴァンパイア」で実に印象的個性派美形チョン・ヨンジュ、シナリオ作家か監督のソヨンに、3話では、出演歴は見当たりませんが適役ミン・チェヨン、4話では、一度見たら忘れないキュートな個性派脇役キム・ハンナ。

 

ある種のネタバレになるかもしれませんが、この映画の面白みは、複数の登場人物のアイデンティティなんでしょう。観ている間は、殆ど役名が出て来ないのでちょっと怪しいとは思いながらも比較的独立したオムニバスとして観ていた訳ですが、エンドロールの役名を見てびっくり仰天、彼も彼もヒョンス、彼女も彼女もユンジュ…と寝込んでしまいそうになります。ただ微妙にエピソードが交錯していますし、登場するレストランやカフェ、居酒屋、家、松林、踏切、或いは御飯を入れて食べるソプクク(二人のジョンユン)、趣味の鉄道写真(ジョンユンとユンジュ)などが被っているので、まぁ監督お得意のマルチバース的物語空間だと思うのが比較的ストレスが少ない観方ではないかと思われます。恐らく全ての辻褄を合わせようとすると無間地獄に堕ちる羽目になるんじゃないか、と冷めた目で観るのが正解かもしれません。

 

とはいえ、一つ一つの物語は在り来たりながら男女関係と映画製作に纏わる適度な緊張感を感じる切れ味を持っていますし、演じている役者が実にビジュアル、さらに東北海岸のグルメ・観光地が堪能できるとあって、この監督でしか味わえないお得感満載の映画、とはいえるでしょう。余り真剣になりすぎず”遊び”をもって物語と向き合うのをお薦めします。お気に入りです。

 

ちなみに結構洒落た会話が多く、一部を備忘録として…月精寺の僧侶の話としてソヨン(3話)が語るのは、”澄み切った青空(창공:蒼空)に雲が一つ生まれる。その時初めて空(하늘)になる”。4話でジョンユンがユンジュに、何故列車写真を辞めたのか聞く。ユンジュの答えは”通り過ぎるものを撮っても仕方ないじゃない”結構身に沁みたりします…