チョ・ソンギュ監督を続けますが…廃業の危機にあるうら若き製パン職人と、入った会社の廃業が続き公務員を目指す青年が出会って、みたいなグルメ系お仕事ムービーの小品…「クロワッサン」

 

小さな工房。ソンウンが丁寧にクロワッサンを作っていく。焼き上がりを一口頬張ると幸せそうだ…ソンウンが喫茶店兼パン屋”Button”の陳列台に出来立てのパンを並べていると、ウィンドウの外から物欲しいそうに眺めている青年がいる。ソンウンが挨拶すると青年はそそくさと立ち去り、コンビニで不味そうな菓子パンを頬張る。彼はヒジュン、勤めた会社が次々と廃業し、廃業の心配のない公務員を目指して二年目の公務員浪人だ。彼はその足で病院に向かい採血を受ける。生活が苦しく、小金のために新薬治験に参加しているのだ。一方”Button"ではソンウンの恋人で共同経営者のジュヒョクが今日も早退すると言う。彼は美人講師のいるヨガ教室に入り浸りなのだ。不満げなソンウンが一人で後片付けをしていると、重い釜を運ぼうとして足を滑らせ靭帯を痛めてしまう。何とか整形外科に辿り着くと、そこで昼間の青年が手助けしてくれる。ソンウンは後で礼がしたいと店の名刺を渡す。こうして廃業の危機を迎えようとしている製パン職人と、”廃業の助っ人”とあだ名される公務員試験浪人が出会ったのだ…

 

公務員から心機一転パン作りの世界に飛び込んだうら若きパン職人ソンウンに、10年ほど商業映画から距離を置いていたんではないかと思われるアラサー童顔美形ナム・ボラ、自分を”廃業助っ人”と自虐する公務員試験浪人ヒジュンに、ボーズグループ<VIXX>ヒョギことハン・サンヒョク、喫茶店を営むヒジュンの女友達ヨンジュに、映画はほぼデビューらしいキュートなユンジェ、ソンウンの共同経営者ジュヒョクに、始めて見るチャン・ヒョソク。

 

チョ・ソンギュ監督のことですから、きっと毒気や裏技が潜んでいるだろうと身構えて観たわけですが、今回は、下半身ネタも妄想も登場しないままストレートな語り口が続きます。果たして最後までこのままなんでしょうか…廃業の危機にあるナム・ボラ、なりたい職業もなく公務員試験に挑むヒョギが描く物語は、基本的にはお仕事物語の体裁を取っていて、パン、特にクロワッサンの製造過程が綿密に描写されていきます。監督デビュー作「おいしい人生」や「各自の美食」でもそうですが、”グルメ”もこの監督の重要なテーマなんだろうと思われます。

 

昨今の韓国映画のようなアクの強い映画的展開や描写があるわけではないので、刺激不足の感は否めませんが、かつて「コ死2」「ホラーストーリーズ」とかで印象的だった美少女ホラー演技からは久しぶりナム・ボラの自然な演技と焼き立てクロワッサンの香りが際立つ、ナチュラルな作品とはいえるでしょう。

 

どうでも良い余談。劇中パン屋の宣伝にユーチューバーを呼んで宣伝動画を撮ろうとするシーンがありますが、彼のTシャツにどでかいモザイクがかかっていて”後で調べよう”と身構えたわけですが、何のことはない、エンディングで役者やスタッフがクロワッサンを持って登場する紹介画像が流れる際にはモザイクがなく、問題のTシャツに描かれているのは日本語で”ワンパンマン”とのタイトルと主人公だと分かります。知りませんでしたが、『ヤングジャンプ』ウェブコミック配信サイト『となりのヤングジャンプ』で2012年から現在もなお連載されている村田雄介のウェブコミックだそうです。権利関係のためなら、最後まで消せよな、とか思ったりした次第です。