さすがにホラー連続4本目ともなると脳が痺れてきますが、それでも…悪夢に苦しむ若い女性がその原因を求めて訪ねる山荘で待ち構える衝撃の真実を描いて強烈で圧巻、文芸ホラーの大傑作…「アリス:ワンダーランドから来た少年」

 

4歳までの記憶がないヘジュンが草むらに横たわっている。涙を流しながら彼女は呟く「私は一度だけ人を殺した」…巫女ハランは悪夢に苦しむ友人ソンミの姪ヘジュンのために祈祷する。聖水にお札を浸すと文字が浮かび上がってくる「卯(ウサギ) 花 血」そして「三 二八 二四」。朝ヘジュンが目覚めると叔母ソンミがベッドに寄りかかって眠っている。叔母の仕事を心配するヘジュンだがそれは三日前の予定だ。悪夢に苦しむヘジュンは悪夢を見るたびに何日も疲れ果て眠り続けるのだ。苛められた女教授を殺す夢を見たヘジュンは今度は一週間眠り続ける。助けを求められた巫女ハランは彼女に憑く血まみれの霊を見る。ハランは、時間がない、ヘジュンは無くしたものを探さなくてはならない、と言う。それは昔住んだことのある山奥のファリョン里(村)の屋敷にあるようだ。今は、”ワンダーランド”というペンションになっている。ハランは、ヘジュン一人で見つけるしかない、とヘジュンをファリョン里に連れていき、一人残して帰る。ヘジュンがペンションに向かうと美しい青年が迎える。こうして”ワンダーランド”を舞台に、残酷な過去と向き合う日々が始まったのだ…

 

悪夢に苦しむへジュンに、「パパとムスメの7日間」「オオカミ狩り」とかの芸達者美形チョン・ソミン、”ワンダーランド”謎の美青年ファンに、「危険な顔合わせ!?」の二枚目ホン・ジョンヒョン、”ワンダーランド”謎の美女スリョンに、「ビューティフル・ヴァンパイア」での美貌の女吸血鬼が魅力的チョン・ヨンジュ、ヘジュンの叔母スンミに、最近では「告白、あるいは完璧な弁護」などお馴染みパク・ヒョンスク、巫女ハランに、私生活ではお騒がせのようですが抜群の存在感イ・スンヨン。

 

あらかじめ書いておきますが、エンディングにテロップが出るように、この映画はとある実話にインスパイアされたもので、そしてその事件は目を背けたくなるほど哀しく悲惨なものですので、よほどの覚悟を以て臨むべき作品だということは肝に銘じるべきだと思います。それはそれとして、映画の出来としては圧巻でしょう。哲学的で幻想的な台詞で語られる脚本、美男美女や山奥の圧倒的な映像美、そして役者、文句のつけようがありません。特に脚本が見事で、序盤に雑然と並べられた伏線や記号、例えば、手話や兎や日記などが、終盤あまりに狂おしく残酷に収斂してくのはまるで魔法を見ているようです。台詞が実に煉られているので、個人的には、怪奇幻想小説か怪奇舞台劇の方が似合うかと思うくらいです。またとある日付に向かうカウントダウン・ムービーでもあり、その緊張感の盛り上げ方にも凄まじいものが感じられます。役者では、主演の若者三人が美しい熱演を見せてくれますが、個人的には、一人オチャラケながらもヒロインを怜悧に真実へと導く巫女を演じるイ・スンヨンが、彼女がいなければコキ下したに違いない、と思えるほど作品の世界観のバランスを保つのに重要な役割を果たしていると思われてなりません。

 

とはいえ、物語の根っこが余りにも受け入れがたいことから、五つ星は逡巡せずにはおられませんが、構築された映画としての世界観が余りに完成度が高く、五つ星にしない選択肢も考えられない、とも思います。はてどうしたものか、もうしばらく悩んでみたいと思います。人にお薦めすることは絶対に不可能な大傑作であることは間違いないでしょう。ちなみに、監督はホ・ウニという女性ですが、その恐ろしく研ぎ澄まされた感性にはただただひれ伏すだけです。