勢いで大好物の群像劇を…絶品芸達者9人とキュートな3頭というとんでもない布陣で贈るハート・ウォーミング群像劇の大傑作…「ドッグ・デイズ」

 

大手不動産会社に勤めるミンソが自宅の外階段を降りるや否や犬のウンチを踏みつける。ミンソは怒って、一階を大家として貸し出している”ドッグデイズ動物病院”に怒鳴り込む。現れた歯磨き途中、髪ボサボサ女院長の獣医師ジニョンに、賃貸期間は3か月残っているがそれまでに新しい場所を探した方が良い、と言い放つ。気の強いジニョンは、大家の横暴だ、SNSに挙げてやると強気だが内心穏やかでない。犬嫌いのミンソは車で会社に向かうが、信号待ちをしていると隣の赤い車に大きな犬がいる。売れないバンドマンのヒョンとアフリカへボランティアに行ってしまった元カノ、スジョンの置き土産ゴールデンリトリーバーの”スティング”だ。これから二人(一人と一頭)の新生活なのだ。そしてその前の白い車には、音楽屋ソニョンが後ろにうつむく幼い少女ジユを乗せている。長らく子供を授からなかったソニョン夫妻が孤児院からジユを養子として引き取る初日なのだ。家に着くと妻のチョンアが二人を歓迎し、飾り付けた部屋にジユを迎えるがジユは浮かない表情だ。世界的な建築家ミンサンは歓迎レセプションも早々に抜け豪邸に一人戻る。彼女はデリバリーで夕食を頼むが、届けた青年ジヌは突然現れたフレンチブルドッグの”ワンダ”に驚く。ミンサンは、夫を亡くし息子はニュージランド、豪邸にワンダと二人(一人と一頭)きりなのだ。獣医師ジニョンは駐車場の柵の向こうで震えるチワワの”パク(Park)次長”を餌でおびき出して保護しようとしている。何とか餌に近づく”パク(Park)次長”だが突然の車のクラクションに驚いて逃げてしまう。帰宅したミンソだ。そしてここでも口喧嘩だ。こうして9人と3頭の人生(犬生)が動き始める…

 

世界的女流建築家ミンソに、韓国に四人しかいない四大映画祭個人賞受賞女優の一人アカデミー助演女優賞のユン・ヨジョン、不動産会社に勤めながら1階を動物病院として貸し出すミンソに、斬られ役から大スターに駆け上がったユ・ヘジン、ジユを養子として迎えるチョンアに、主演デビュー作「シュリ」から早や四半世紀キム・ユンジン、その夫の音楽屋ソニョンに、ミュージカル「英雄」で見事初主演チョン・ソンファ、身なりに構わずひたすら犬に尽くす”ドッグデイズ動物病院”美貌の院長ジニョンに、『パリの恋人』からずっとファンで文芸・ホラー何でも来いの演技派美形キム・ソヒョン、”スティング”を一緒に飼い始めたスジョンの元カレで韓国系米国人ダニエルに、長身二枚目ダニエル・ヘニー、アフリカにボランティアに行ってしまったスジョンのボーイフレンドで”スティング”を引き取りバンド解散の危機に直面するバンドマンのヒョンに、子役出身で「ドリーム」など清潔感あふれる二枚目イ・ヒョヌ、フードデリバリーのバイトで食いつなぐ貧乏青年ジヌに、「オマージュ」「王の願い」などで印象深い若手演技派タン・ジュンサン、孤児院から養子にくるジユに、2016年生まれまだ7歳ながら巧い子役ユン・ヘナ。特別出演が圧巻で、亡くなったミンソの夫には、韓国芸能史の重鎮パク・イナン、アフリカへボラティアのため旅立ったスジョンに、あの名女優キム・ゴウン。

 

韓国映画ではどのジャンルでも必ず”糞映画”ありますが、不思議に”群像劇”ジャンルでは三ツ星すらない秀作揃いで韓国映画の重要なDNAだと思います。そして本編もまた五つ星にするしかないでしょう。無類の”群像劇”好きだから、というのはあるでしょうが、9人の主人公に何と3頭の犬をからませ展開する12の人生(犬生)の描き方は、あの大傑作「マグノリア」に匹敵するといっちゃいましょう。巧い。それぞれの生き様も、能天気なばかりではなく重く切ないエピソードを交えながら、これぞ”群像劇”、という交わり方をしていきますし、「マグノリア」で使われたアイミー・マン”Wise Up"に乗せ9人を短くつないでいくという傑作シーンも巧みに再現されていて感涙ものだといわざるを得ません。さらに要所で、パク・イナンとキム・ゴウンが印象的に登場してアクセントにする、なんて語り口も泣かせます。俳優陣も文句なしでしょう。単独主演映画が7本8本は作れる布陣で、特にユン・ヨジョンとキム・ソヒョンが泣かせてくれますし、子役ユン・ヘナも見事だと思います。これが初監督作品だとは思えないキム・ドンムン監督の将来作にも大いに期待できるでしょう。

 

”群像劇”のエンディングが幾分能天気な”大団円”となるのには、辛口観客から不評を買う可能性も考えられますが、韓国製”群像劇”のお手本と呼んでも良いと思える傑作ハート・ウォーミング”群像劇”として記憶することになるでしょう。

 

楽曲について。主題歌はJeminの「空の星(하늘 별)」という美しいオリジナル楽曲ですが、劇中、イ・ヒョヌとキム・ゴウンのデュエット、イ・ヒョヌとチョン・ソンファのデュエット、そして本人によるエンディングと、実に効果的に使われてたりします。これも巧い…