【重要なお知らせ】もう一本、日本では全く公開される見込みのない筋金入り「反日映画」を取り上げます。わが国の元宰相伊藤博文を暗殺したアン・ジュングンを祭り上げる「英雄」です。やはり、感想だけだとしても、政治信条や民族感情から来る生理的嫌悪感や苦痛を感じる方が出るのは避けられませんので、予めお知らせします。ミュージカルという韓国映画では極めて特殊なジャンルの作品で本国でもあまり高く評価されなかったようですが、いずれにしろ、読み進むかどうか、熟慮して判断されるようお願いします。

 

最も尊敬する名女優ナ・ムニが出ているので…ミュージカルという韓国映画としてはかなり特殊な形式で伊藤博文暗殺犯の後半生を描く…「英雄」

 

”本映画は事件に想像力を加えて再構成したもので、登場人物に関する具体的な内容は実際の歴史的事実と異なることをお知らせします(機械翻訳)”…1909年3月、ロシア沿海地方ヨンチュ(煙秋:現クラスキノで韓国人集落があった)、大雪原を一人の男が進む。男はアン・ジュングン(安重根)。十人ほどの仲間と合流したアンは、ナイフで左手薬指を切り落とす。そしてその血で”大韓独立”と記した旗を掲げ、独立を誓い合う(歌)…2年前。平安(ピョンアン)北道チンナムポ(鎮南浦:現在の北朝鮮中央西岸部、大同江河口にある南浦)。アンは母、妻子にローマへ旅すると告げる。しかし妻はそれが嘘で危険な独立運動への参戦だと気づいており狂乱して止めるが、アンは聞かない。朝鮮独立軍は、1908年6月咸鏡(ハムギョン)北道キョンフン(慶興)、7月シンアサン(新阿山)と日本帝国陸軍を退けるが、8月ヘリョン(會寧)で日本軍の総攻撃を受け敗退し散逸する…日本。伊藤博文はユキという一人の芸者に目を止める。しかし彼女は10年余り前に暗殺された明成皇后の宮女ソルヒで、復讐を誓い日本に渡った女だ(歌)。ソルヒは日本の情勢を密かに独立勢力の情報網ウラジオストックの大同公報社へ知らせている。そしてそのウラジオストックでは、かつての独立戦闘の生き残りがマ・ドシクの中華料理屋を根城に、反撃の機会を窺がっていた…運命の日まで1年も残されていない…

 

主人公アン・ジュングン(安重根)に、映画では脇役が多いながらミュージカル界では有名と聞くチョン・ソンファ、芸者として情報を集めるソルヒに、「ウンギョ」で衝撃デビュー後名作が続くキム・ゴウン、アンの母親チョ・マリアに、韓国最高の老女優ナ・ムニ、独立運動仲間ウ・ドクスンに、「犯罪都市」などお笑い担当が多いチョ・ジェユン、同じくチョ・ドソンに、肉体派ペ・ジョンナム、同じく若いユ・ドンハに、最近では「ドリーム」など子役出身イ・ヒョヌ、ドゥシクの妹ジンジュに、独特の存在感パク・チンジュ。特別出演では、マ・ドゥシクに、主演作あまたのチョ・ウジン、妻アリョに、大ファンのチャン・ヨンナム、閔妃(明成皇后)に、美熟女イ・イルファ。

 

<まずは、主題・主人公を無視して映画技術的な感想から…>この映画は、2009年に初演されたミュージカル舞台に惚れ込んだ五つ星「国際市場で逢いましょう」「コンフィデンシャル/共助」のユン・ジェギュン監督がかなり忠実に映画化したようですが、そのことが結果的には裏目に出たんだろう、というのが素直な感想です。二つあって、一つは”スケール感”。映画には、荒野を埋め尽くす日本帝国軍とかウラジオストックの街並みを使った派手なチェースとか原野を疾走する満州鉄道とかスペクタクルなシーンが当然登場しますが、これが”歌”のシーンと全く波長が合いません。限られた舞台空間と何でも描ける映画空間は全く別物なんだ、と思い知ることが出来ます。もう一つは”写実性”。劇中、拷問されながら、或いは、銃で撃たれ瀕死で歌うシーンがありますが、生々しい血糊や傷を間近で見ながら”歌”を聞くのはそれこそ一種の拷問で、歌う暇があれば早う病院行けよ、的な怒りすら覚えたりします。恐らく舞台なら一定の距離をもってある程度抽象化された暴力・断末魔なので歌が感動をもたらすこともあるでしょうが、映画の写実力の前では使う場面によって”歌”は無力だと思い知ります。ということで、この舞台から映画への移植はとても評価できるものではなく、やはり舞台で演じられるべきだというのが素直な感想です。ただ役者は見事で、唯一舞台から続投して主人公を演じるチョン・ソンファの歌唱力は圧巻ですし、キム・ゴウンの歌も、(演出的に)正視に堪えない日本舞踊は別として、どこにそんな才能があったのかと驚くレベルです。個人的には、ナ・ムニが獄中の息子への手紙を書きながら涙ながらに歌うシーンには打ち震えるものがあったりします。

 

とまぁ、ミュージカル映画として到底評価は難しいと思われる上、隣国の要人(暗殺時伊藤博文は勿論首相でもなければ朝鮮統監府統監も辞した後なので単なる復讐だと思われますが…)を暗殺した犯罪者を英雄と讃えるなど、到底甘受できる作品ではないでしょう。韓国内でも結構評価が割れていて、340万人といわれる損益分岐点に対し180万人程度と下回っていて、外国映画も入れると10位にも入らない惨敗といえる状況です。テロ、要人暗殺が歴史を好転させた例などなく、大抵、戦争勃発か泥沼化につながるのは明らかで、観るだけ時間と労力が無駄な作品だと思います。