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最近Tsutayaを徘徊することが多いのですが、4本1000円のポスターに誘われ借りた1本です。とある先入観から観るのを憚(ハバカ)られてたんですが、やはり映画は、観てなんぼ、でした。コリアン・エロス作品みたいな邦題ですが、「ウンギョ (邦題:ウンギョ 青い蜜)」。

緑に覆われた古めかしい豪邸。韓国の国民的老詩人イ・ジョギョの私邸だ。書斎では、老詩人は、送られてきた数多くの郵便物を開けていくが、出版社社長パク・ヒョンジュンの詩集もある。老詩人は炊飯器に残った飯を食べ、鏡の前で全裸になり衰えた自らの体に嘆息する。老詩人の若い書生ソ・ジウは、処女作である詩小説「心臓」出版イベントで笑顔を見せている。ある日、老詩人と書生が屋敷に戻ると、庭のロッキング・チェアに見知らぬ若い女が、軽やかな短パン、Tシャツ姿で寝込んでいる。書生が問いただすと、ウンギョと名乗り、この椅子に座りたかったんだ、と平然と答え、塀にかかった梯子を超え、林の中へ去って行く。書生は、スープを作るが、味が濃く老詩人は一口飲んで去り、書生は掃除機をかける。夜、二人は酒を酌み交わす。書生は、処女作「心臓」がネット、書店で1位の売り上げを記録したと自慢し、老詩人は「これからは自分の言葉で書け」と諭す。新しい原稿を依頼されている書生は、老詩人の家事手伝いに、せんだっての女子高生ウンギョを雇わないかと提案し、老詩人も納得する。そしてその日、女子高生ウンギョは、林へ続くあの梯子から軽やかに現れる。ウンギョは掃除機をかけ、拭き掃除をし、背伸びして大きな窓を拭くが、老詩人はその若々しい姿から目を離せない。一方、書生はサイン会で笑顔を振りまいている。ウンギョは、制服屋で、ブラウスはきつめに、スカートは短めに、と注文する。書斎を片づけるウンギョだが、先の丸まった鉛筆を見つけ、削ろうかと老詩人に訊くが、老詩人は、尖った鉛筆は悲しい、と答え、その訳を話す。高校では、ウンギョが先の丸まった鉛筆を見つめ、思いにふける。ある夜、突然振り出した雨に、びしょ濡れになったウンギョが老詩人を訪ねる。ウンギョは母親に殴られ一晩泊めて欲しいと懇願する。老詩人は、彼女を着替えさせ、濡れた制服にドライヤーをあてる。ソファで眠った筈のウンギョだったが、翌朝、老詩人が目覚めると、彼女は老詩人の足元で丸くなって眠っている。その時、書生がやってくる。書生は、しどけない姿で現れたウンギョを見て、激しく動揺する…こうして、三人の難しい関係が転がり始める…

韓国の国民的老詩人イ・ジョギョに、一見童顔ながら奥行きの深い演技で魅了してくれるパク・ヘイル、老詩人の若き書生ソ・ジウに、注目の若手で「犬たちの戦争」では主演も果たしたという大好きな演技派キム・ムヨル、そして注目の女子高生ウンギョに、彗星のように現れ本作で大鐘新人女優賞をかっさらった期待の新人キム・ゴウン、老詩人に入れ込む出版社社長パク・ヒョンジュンに、名脇役チョン・マンシク。

地味な作りながら100万人を悠々超えた、とは聞いていましたが、若い女優の裸を売りにしたB級作品かも、と勘繰っていた作品です。原作に基づけば、70代の老詩人、30代の書生、17歳の女子高生、によるドロドロ劇は、日本では、谷崎潤一郎とか結構お得意の世界観で、あまり期待できない、と思っていたのは事実です。でも、やはり、映画は観なくちゃ分かりません。これが実に良くできています。人によるでしょうが、ウンギョが登場する出だし数分を観るだけで、映画に引きずり込まれる感じです。さらに、序盤から中盤での三人の関係性の描き方は、原作の魅力もあるんだとは思うものの、やはり映画の力を感じます。終盤の展開は、個人的には、かなり在り来りなので評価はできませんが、底力を感じる映画だと思います。もうちょっと云えば、この作品は、基本的に三人だけの物語です。「三人寄れば派閥ができる」という言葉を聞いた気もしますが、この作品も、美しくも禍々しい三角関係の物語です。つまり、誰が派閥から弾き出されるか、そこが問題です。老いているゆえの老詩人、女ゆえの女子高生、長年尽くした立ち位置から疎外される書生…これが、この物語の本質かもしれません。けれども、やっぱり、役者でしょう。驚くほど精緻な老人メイクのパク・ヘイル(多分40代半ばでしょう)ですが、ウンギョの膝枕でヘナタトゥを書かれながら、若き青年時代を妄想するシーンなんかで、パク・ヘイルの魅力炸裂です。キム・ムヨルも見事です。才能と現実の狭間で呻吟する文学青年を実に生々しく演じてます。けれども、やはりキム・ゴウンの魅力に尽きるでしょう。20代前半の女優で、しかも、決して美形と云う感じではないんですが、17歳という女子高生の持つ、余りに清冽でいて、かつ、余りに残酷な存在感を演じる姿は、絶品です。早速「モンスター」という作品でも主役に抜擢されているようで、期待感最大限って感じです。

特に還暦を間近にした初老の男には、実に生々しいメッセージを発している、と云うのが正直な感想なので、幅広い世代の観客に受けるのは難しいのかもしれません。ただ、人生のある時期の、ある断面を、美しく、そして、残酷に切り取った名作だとは云えるでしょう。個人的には、相当に打ちのめされた、って感じです。若い人や女性には、理解いただけないのかもしれません。