美熟女ユソンつながりではありますが、長らく再生ボタンが押せなかった作品を…実話をもとに苛烈な児童虐待に一石を投じる社会派ドラマの良作…「幼い依頼人」
大手法律事務所の採用面接。面接官は、1964年のキティ・ジェノヴィーズ事件について路上衆人環視下で強盗殺人が起こったがそれを傍観していた目撃者38人は有罪か無罪か、と質問する。4人は有罪と答えるが、一人だけ法的責任は問えず無罪と答える。男はユン・ジョンヨプ。就職試験に落ち続ける弁護士だ。地方都市の団地では、10歳の姉ダビンは洗濯しながら7歳の弟ミンジュンの面倒を見る。母親を早くに亡くしシングル・ファーザーと暮らしているのだ。父親が持つ写真からは死んだ母親の顔の部分が破り取られ、二人の姉弟には母親の顔が分からない。ある日父親に呼ばれ料亭に向かうと見知らぬ女が現れ、父親は新しいママだと紹介する。女はカン・ジソク。しばらくは普通の暮らしが続くが、ミンジュンが上手く箸を使えないことに腹を立てたことからジソクの折檻が始まる。一方姉一家に居候して大手ローファームにしか行く気がなく就職先の決まらないジュンヨプは、毎日姉から、働け、と責め立てられ、止む無く未来児童福祉機関で仕事することとなる。間もなくダビン、ミンジュン姉弟が彼に必死の助けを求めに来ることを、彼はまだ知らない…
弁護士として就職先が見つからず一時しのぎとして未来児童福祉機関に勤めるユン・ジョンヨプに、30代も後半になってますます演技に磨きがかかるイ・ドンフィ、虐待継母カン・ジスクに、ユソン、10歳姉キム・ダビンに、巧いと唸るチェ・ミョンビン、7歳弟キム・ミンジュンに、この後も活躍が続くイ・ジュウォン、口うるさいチョンヨプの姉に、ちょっと太目のコ・スヒ、チョンヨプの友人弁護士ムンジョンに、知的な感じが心地良いソ・ジョンヨン、タビンの担任に、「少女」で印象的な清楚な感じイ・ボム。特別出演では、公判の裁判長に、とても60代には見えない美熟女キム・ボヨン、大手ローファーム代表に、二枚目中年脇役チョ・ドッキョン。
監督はチャン・ギュソンで、「おもしろい映画」「ぼくらの落第先生」「ラブリー・ライバル」「里長と郡守」「私は王である!」を撮っていて、感想を読み返すと、概ね喜劇7~8割、人情劇2~3割でほぼ絶賛してきたようですが、本作はそうはいきません。詳細を調べる気にもならないほど過酷な事件を基にしてるようですが、児童虐待を真正面から見つめる作品となっています。その特徴としては、虐待そのものも無慈悲に描きはしますが、むしろ冒頭のキティ・ジェノヴィーズ事件に象徴されるように、知っていて或いは見ていて知らぬふりをする”傍観者”に力点を置いている点でしょう。アパートの住人や警官、教師などですが、大手ローファームへの就職しか頭になく一時的な腰掛としか児童福祉を見ず、助けを求める姉弟を鬱陶しいとしか感じないイ・ドンフィ演じる主人公の人物造形が最たるものです。”正常性バイアス”に捕らわれている間に事態は取り返しのつかない所まで行きつくわけですが、そんな悲劇を描きたかったんだろうと思います。コメディを本領とする監督なので柔らかいシーンも少なくありませんし、母の写真とかゴリラの縫いぐるみとかハンバーガーといった小道具も巧いとは思いますが、かなり気合を入れて観る必要があるでしょう。そこが評価を分けると思います。役者では、主人公イ・ドンフィも幼い姉を演じるチェ・ミョンビンも頭を抱えるほど巧いですが、鬼継母ユソンの怖さは圧巻であの美貌で夢に出てきそうな演技です。個人的には、表裏なく生きる主人公の姉を演じるコ・スヒが救いとなっているのは間違いないでしょう。
監督の思いは痛いほど伝わるので良い映画であることに異論はありませんが、わざわざ観るか、については百人いれば百通りの感じ方があるんだろうと思います。U-NEXTなら定額見放題ですが、当方同様十二分に悩んでいただくしかありますまい。
ちょっとホッとする余談。悲劇的な虐待被害児を演じた二人の子役について、トラウマになったりしないだろうか、と心底心配したわけですが、そんなことはないようです。その後、姉役チェ・ミョンビンは五つ星「雨とあなたの物語」ラストシーンでチョン・ウヒの少女時代を明るくキュートに演じていますし、弟役イ・ジュウォンは「フクロウ(梟)」でリュ・ジュニョルにおぶわれ映画の冒頭を飾っていて、安堵の極みだったりします。