残る1本の2022年集客ランキングTOP10作品…宮廷ドラマを殆ど観ないので知りませんでしたが、第16代王インジョ(仁祖)の皇太子ソヒョン(昭顕)セジャ(世子)の死を巡る重厚な宮廷ミステリー…「フクロウ(梟)」

 

「世子は本国に帰ってからしばらくして病いとなり数日で死んだが、耳目口鼻など七穴から鮮血が流れて出てまるで毒薬で死んだ人のようだった。インジョ(仁祖)実録23年6月27日」…仁祖23年(1645年)。夜が明け始める宮廷、鍼医(はりい)チョン・ギョンスはぐったりする幼い少年を背負って一身に走るが、門を押し開ける頃には陽が昇り始めギョンスは何も見えなくなる…町の医院を宮廷医イ・ヒョンイク(李馨益)が訪れる。色々な医者の治療を見るが、若き盲目の鍼医チョン・ギョンスの技量に目を付け宮廷医院に召し抱えることにする。ギョンスには心臓に病を抱える弟がいるが、何とか一か月分の薬を手に入れ弟に渡し宮廷に入る。ギョンスの鍼の腕は天才的であり、さらに、昼間は盲目だが夜の暗闇では何とか文字が見えるくらいの特異な視力を持っている。そして間もなく、南漢山城(丙子の乱:「天命の城」参照)での大敗北以来8年間清の人質となっていた時の王インジョ(仁祖)の皇太子ソヒョン(昭顕)セジャ(世子)が帰朝するのだ。そしてこの悲劇のセジャ(世子)の末期を見ることになるのを、ギョンスはまだ知らない…

 

若き天才鍼医(はりい)チョン・ギョンスに、もう30代半ばなので若手は呼びにくいながら将来の映画界を背負って立つに違いない演技派リュ・ジュニョル、第16代王インジョ(仁祖)に、もはや名優と呼ぶべきでしょうユ・ヘジン、宮廷鍼医イ・ヒョンイク(李馨益)に、チェ・ミョンスの時代からその存在感で尊敬し続ける名脇役チェ・ムソン、チェ大監(テガム:最上位官僚)に、渋い脇役チョ・ソンハ、劇中ただ一人の息抜きでギョンスの面倒をみる医官マンシクに、「パラサイト」で注目される存在感パク・ミョンフン、仁祖の悲劇の息子ソヒョン(昭顕)セジャ(世子=皇太子)に、ミュージカルが本職らしい二枚目若手キム・ソンチョル、仁祖の側室ソヨン(昭媛=側室の称号)チョ氏に、銀幕デビューのキュートなアン・ウンジン、ソヒョン(昭顕)セジャ(世子)の妃カン嬪に、伸び盛りらしい若手美形チョ・ユンソ、同じく息子(皇太孫)ソクチョルに、「幼い依頼人」などベテラン子役イ・ジュウォン、マンシクが片思いする世子付き女官ソ尚宮(サングン)に、「小公女」などのキム・イェウン。

 

韓国宮廷ドラマを殆ど観ないので詳しくなかったのですが、このインジョ(仁祖)という王、仁祖反正というクーデターでの即位、丙子の乱(清の朝鮮侵攻)での大敗北、息子昭顕世子の謎の急死、などそのドラマチックな人生は様々なドラマで取り上げられているようです。大敗北からのトラウマによるインジョ(仁祖)の反清感情と、セジャ(世子)が清での8年間の人質生活を通じて得た西洋文化への開化的姿勢という従来から語られる対立関係に、ギョンスという天才鍼医を”目撃者”として加え、暗闇ではある程度視力が効く、という特異な体質を巧く組み込むことで見事なサスペンスに仕上げているでしょう。そして役者が巧い。一介の町医者が宮廷の悲劇を”目撃”して呻吟する恐怖を演じるリュ・ジュニョル、疑心暗鬼に狂っていく王を一切の笑いを封印して演じるユ・ヘジン、実在するといわれる宮廷医イ・ヒョンイク(李馨益)を重厚に演じるチェ・ミンスは圧巻といえるでしょう。

 

主人公ギョンスの特異な視力の関係で映画の半分ほどが暗闇を舞台としているので、独特のサスペンスを盛り上げる反面、観客としては、目が疲れる、といったしんどい側面はありますが、見ごたえある時代サスペンスの秀作といえるでしょう。320万人超を集め2022年第5位の集客力はダテではないと思います。

 

ちなみに、チョ・ソンハ演じるチェ大監(テガム:最上位官僚)ですが、後で「天命の城」でイ・ビョンホンが演じた清との和睦を勧めるチェ・ミョンギル(崔鳴吉)ではないか、と思い至りましたが裏を取ることはできませんでした。

 

尚、これで2022年の観客動員数TOP10を網羅したので、記事「2016年以降の観客動員数ベスト10のまとめ」を更新しておきます。