渋め脇役チェ・ドンムンつながりで…ウイスキーと煙草と彼氏さえいれば良い、という貧しく自由なアラサー女性が泊まれる場所を探して厳寒のソウルを彷徨うプチ・ロードムービーの秀作…「小公女」

 

2014年の暮れ、アラサーのミソは豪華な部屋で掃除に勤(イソ)しみ、手当を貰う。帰り道、いつものバーに寄り煙草を吸いながら一杯のウイスキーを飲むのが楽しみだ。狭いミソの部屋には彼氏のハンソルが遊びに来ている。久しぶりに愛を交わそうと服を脱ぎ始めるが暖房もない部屋は寒すぎて断念する。「春までお預けにしよう」。ミソは家計簿をつけているが、出費は家賃と煙草とウイスキーと白髪症改善のための漢方薬くらいだ。そこへ大家がやって来て家賃を50000ウォン上げたいと言い出す。街は大みそかで大盛り上がりだが、ミソには一杯のウイスキーだけだ。年が明け2015年を迎えるが、コンビニに煙草を買いにいくと2倍以上値上げしたと言う。ミソは安い銘柄に変える。家計簿を見直すが、とても家賃を払える状態にはない。こうしてミソは昔の”The Cruise”というバンド仲間を頼って泊まる部屋を探す放浪の旅に出る…

 

ミソに、「愛のタリオ」「サムジン カンパニー」で名演イ・ソム、彼氏のハンソルに、ホン・サンス作品もエンタメもこなす柔らかな演技派アン・ジェホン、大企業に勤めるムニョン(ベーシスト)に、キュートなカン・ジナ、専業主婦として悩むヒョンジョン(キーボード)に、「ユ・ヨルの音楽アルバム」で好演キム・グッキ、新婚早々新妻に逃げられるテヨン(ドラマー)に、お馴染みイ・ソンウク、両親と暮らす独身男ロギ(ギター)に、存在感たっぷりチェ・ドンムン、夫の豪邸に暮らすチョンミ(ギター)に、印象的な脇役キム・ジェファ、ロギの母親に、怪女優イ・ヨンニョ。特別出演では、チョンミの夫に、今や主演級キム・ヒウォン、不動産屋に、今回は笑える美魔女パク・チヨン。

 

昔のバンド仲間5人のメモ一枚を頼りにボロアパートを出て宿を求めて厳寒のソウルを彷徨い歩くだけの物語ですが、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督には叱られるでしょうが、ちょっと「舞踏会の手帖」思い出させる独特のペーソスを感じさせる秀作に仕上がっています。訪ねていく昔の仲間5人の造型が見事で、笑って泣かせる、ちょっとした群像劇の味わいがあって好感ですし、工場の寮住まいでやはり貧しい彼氏とのデートが献血の謝礼に貰える映画券だったり、と細かいエピソードも、巧い、と唸らせてくれたりします。役者がまた良くって、個人的にはキム・グッキ、イ・ソンウク、キム・ジェファは相当に名演だと思います。

 

インディーズ風のチープな感じがないといえば嘘になりますが、それでも、格差社会を糾弾するんだ、みたいに肩に力を入れることなく、淡々と貧しく自然なアラサー女性の彷徨を追う物語は秀逸だと思います。ちょっとシュールでいて芳醇な香りを残すラストシーンの出来栄えも大のお気に入りで、その後味の良さも考えると五つ星にしたいと思います。