2017年3,849,087人を集めて10位、1936年丙子胡乱(ピョンジャホラン:清による朝鮮侵攻))の南漢山城(ナマンサンソン)籠城戦の悲劇を圧倒的な映像美で描く重厚な叙事詩…「天命の城(南漢山城)」

 

1936年12月、清の大軍団は、再び国境を越え朝鮮に侵攻し大雪原に展開している。その前に一人の朝鮮官吏が歩み出る。男は吏曺判書(イジョパンソ)チェ・ミョンギルだ。清の将軍ヨンゴルテに面会したいと言う…凍りついた松坡江(ソンパガン:漢江の旧流名)。一人の朝鮮官吏が年老いた船頭の案内で凍った川を渡る。川岸では老人の幼い孫娘が二人を見送る。老船頭は、昨日、都の漢陽(ハニャン:現ソウル)から敗走する朝鮮王仁祖一行を案内したと言い、明日、頼まれれば清の軍隊でも道案内すると言う。官吏は老人を一太刀で斬る。男は礼曺判書(イェジョパンソ)キム・サンホンだ…南漢山城(ソウルから南東25kmくらい)に籠城する仁祖の前で清への対応について激論が交わされている。明への恩義を重視し戦うべきとする主戦派の代表は礼曺判書キム・サンホン、和睦の道を探るべきとする主和派の代表は吏曺判書チェ・ミョンギルだ。10倍の戦力を持つ清の大軍を前にして、厳しい寒さと残り少ない食料、彼らに残された時間は短い…

 

吏曺判書(イジョパンソ≒総務大臣くらい)チェ・ミョンギルに、初代韓流四天王イ・ビョンホン、礼曺判書(イェジョパンソ≒文科大臣くらい)キム・サンホンに、ドル箱スター、キム・ユンソク、16代朝鮮王インジョ(仁祖)に、もはや貫禄の名優パク・ヘイル、城の鍛冶屋ナルスェに、二枚目コ・ス、キム領議政(ヨンウィジョン≒首相くらい)に、名脇役ソン・ヨンチャン、イ守禦使(スオサ≒歩兵隊長くらい?)に、大ファンのパク・ヒスン、鍛冶屋ナルスェの弟子チルボクに、子役出身イ・デビッド、清国ヨンゴルテ将軍に、迫力のホ・ソンテ、清国の通訳官チョン・ミョンスに、巧いチョ・ウジン、イ哨官(チョグァン≒偵察士官くらい?)に、このブログでも出ずっぱりチン・ソンギュ。ちなみに音楽は坂本龍一。

 

監督はファン・ドンヒョク、最近では『イカゲーム』で名を馳せましたが、このブログでは「マイ・ファーザー」「トガニ(るつぼ)」「怪しい彼女」観た映画3本全て五つ星、しかも、父子もの、社会派、コメディとジャンルが異なるという稀有な監督です。そして4本目、本作時代絵巻でも五つ星ということになります。とにかく、巧い、反りが合う、そんな監督です。本作も、驚くほどのスペクタクルを展開しながら、そんなのは刺身のツマだと言わんばかりに、重臣二人の哲学的ともいえる激論や市井や兵士の苦しい息遣いに精力を注いで重厚な人間ドラマに仕上げる腕前には完全に脱帽です。本作では、勿論、イ・ビョンホンとキム・ユンソクの主張が真っ向から異なりながらもどこか理解しあう論戦がメインではありますが、丁卯胡乱(9年前の第一次侵攻)で妻子を殺された鍛冶屋、本人は知らないながら自国の重臣に祖父を斬り殺された幼女、祖国朝鮮で下流民として迫害され敵国のため働く通訳官などの存在が、物語に得も言われぬ陰影を与えていて見事としかいいようがありません。さらに、壮大な悲劇でありながら、彼らを通じて微かに希望の光を残すあたりも唸ります。

 

描くべきことを最も観客に深く刺さる様式で一本のフィルムに仕上げる、脚本、演出、役者、それらを一つの設計図にきちんと嵌め込む、監督の仕事を最もきちんとこなす職人監督だと思います。五つ星です。