過去記事 「オーガズムとは(10)」 の続きです。

 

まだ魔女狩りなどが行われていた16世紀のヨーロッパ。

日本で言えば、ちょうど安土桃山時代の初期。

ヨーロッパでは、その頃になってようやく女性の 「ク/リトリス」 が、女性の身体の器官であるらしいことが発見されたそうです。

 

「それは『悪魔の乳首』として恐れられた─クリトリス小史【前編】」

 

 

フロイトが説くオーガズム論

 

そして、それ以来続く 「ク/リトリス」 に関する多くの論争がありますが、その中でフロイトは次のように言っています。

 

「男性はたった一つの性器しか持たないが、女性には2つの性器がある。

ヴァギナ──本来の女性器──と、男性器の相似器官であるク/リトリスだ。……

(女性の)性生活は、一般的に2つの段階に分かれる。第一段階は男性的な性格を持ち、第二段階だけが特に女性的性格を帯びるのだ。
つまり、女性の成長過程には、ある段階からもう一つの段階への移行プロセスがあり、これに類似するものは男性には存在しない」

 

フロイトによると、「ク/リトリス」 は未熟な、女性の男性的段階に属するものであって、女性として成熟した、真の性的絶頂である 「膣オーガズム」 という 「聖杯」、あるいは、「金の羊毛」 にたどり着くためには、それを捨て去るべきものだという考え方。

 

これについては、過去にも読んだ記憶がありますし、「ク/リトリス」 という女性の性/器について、まだ論争が絶え間ない時代に、「外イキ」 と 「中イキ」 について言及していることも驚きですが、もうひとつの驚きは、女性の 「ク/リトリス」 は 「男性/器」 の相似器官であるのに対し、女性の 「膣」 は、女性固有の本来の 「女性/器」 とし、双方の 「オーガズム」 を区別しているように解釈できること。これらの説明は、あまりにも先鋭的過ぎます。

 

何故ならば、男性の 「オーガズム」 もそうですが、「ク/リトリス」 における 「オーガズム」 で 「意識」 が飛んだ状態になる人はいません。これに対して、フロイトが真の性的絶頂であるとする 「膣オーガズム」 の場合は、「オーガズム」 の反応も激しく時間も長くなり、女性のそのときの記憶は定かでなくなるのが一般的です。

 

フロイトが招いた誤解

 

しかしフロイトが、「ク/リトリス」 による 「オーガズム」 は未熟な女性のものであるのに対し、「膣」 における 「オーガズム」 は、成熟した女性による真の性的絶頂であるとする説明がその後、多くの誤解を招くことになりました。

1970年代には、「膣オーガズムに達しない女性は未熟」 と曲解したウーマンリブ(女性解放運動)の餌食となり、「アン・コート(Anne Koedt)」 が、「膣オーガズムの神話(Myth of the vagina orgasm)」 を発表します。

これらの活動は、市民に対して 「ク/リトリス」 に関する正しい知識の啓蒙普及には貢献しましたが、しかし 「膣オーガズム」 は、膣に挿入したい男の作った幻想であり、政治目的と批判しました。

 

この週刊朝日AERA の記事 「女医が教える『本当にいいSEX』」 は、以前にもご紹介しましたが、既に 「Gスポット」 が医学的にも確認されている2010年のものであるにもかかわらず、

なぜフロイトを始めとする男性が、クリトリスのオーガズムに注文をつけるのかというと、「男性器を入れていない時にイク」からだと思います。男性は女性の膣を使って自分を気持ちよくしてるのだから、それと関係ないオーガズムは都合が悪い。これは非常に女性蔑視的な考えです。

などと、かなり時代錯誤とも言える 「ウーマンリブ」 時代の記述を引用していますが、フロイトの説は、当時の 「フェミニスト」 によって言われなき 「バッシング」 を受けることになります。

 

しかしこの記事。タイトルに 「女医が教える」 と言いつつ、女医でもないライターが自論を勝手に展開し、勝手に自身で断定するなど本当に最悪の記事です。

 

歴史的経緯

 

歴史的な経緯から言えば、16世紀のヨーロッパ。1559年、イタリアのパドヴァ大学の解剖学者である 「マテオ・レアルド・コロンボ」 が、女性の 「ク/リトリス」 を男性の 「ペ/ニス」 と似たような 「女性の快感の座」 と呼んだのが始まりです。

その後、パドヴァ大学での彼の後継者である 「ガブリエレ・ファロッピオ(輸卵管を指すファロピウス管の発見者)」 は、コロンボの詩的主張に感心せず、自分こそが、この小さな器官の歴史的発見者であると主張したそうで、現在どちらの主張が通説となっているのかは不明ですが、いずれにしても、それまでは、「膣」 のみが女性/器として認識され、「ク/リトリス」 は今で言うところの 「Gスポット」 のような扱いを受けることになります。

 

そして、「ク/リトリス」 が 「オーガズム」 に導く核心とする論争に対抗して、フロイトが先程紹介したような説を発表したのが1905年。

1970年代になって、「ウーマンリブ」 に絡めて、また 「ク/リトリス」 によるオーガズムが脚光を浴び、ドイツの 「エルンスト・グレフェンベルグ(Ernst Gräfenberg)」 医師が1950年に女性の膣内に 性感帯を発見します。そして1981年に米国の性科学者である 「アディエゴ(Addiego)」 氏らがそれを確認し、「Gスポット」 と命名し、現在に至ります。


最近のオーガズムの研究

 

1980年代半ばから登場した MRI を利用して、脳の血流動態を分析する 「核磁気共鳴機能画像法: fMRI (functional magnetic resonance imaging)」 が確立して以降、「オーガズム」 を脳科学的に観察することが可能になり、以降多くのことが確認されるようになりました。

 

以下の記事は、2007年のニュース記事ですが、既にこの時点で、「オーガズム」 は、「ク/リトリス」 ばかりでなく、「膣」 や 「子宮」 などのほか、「口」 や 「手」、「乳首」 や 「肛門」 など、人体のあらゆる部分から導き出されれることのほか、これらは迷走神経を介して脳に伝達されていることが確認されているということです。

 

「性科学研究者『身体への接触なしでもオーガズムは可能』(1)」

「性科学研究者『身体への接触なしでもオーガズムは可能』(2)」

 

フロイトは、「外イキ」 と 「中イキ」 について言及しましたが、この記事にもあるように、女性の身体に接触することなく、イメージで 「オーガズム」 に達する 「脳イキ」 まで確認されているということ。

そして、下半身の感覚が麻痺している女性や、完全に脊椎が離断している女性でも、「オーガズム」 を得られることが確認されているのです。

 

先程紹介した週刊朝日 AERA の記事について言及するならば、記事が書かれたのは、2010年ですが、それ以前の2007年の記事すらチェックもせず、70年代に起こった 「ウーマンリブ」 におけるフロイトに対する 「バッシング」 を正当化し、結果として、旧態依然の記事を作り上げているわけですから、もう本当に最悪としか言いようがありません。

 

フロイトのオーガズム論ふたたび

 

自分は、少なくとも、「Gスポット」 や 「ポルチオ(Aスポット)」、「Kスポット」 における 「膣オーガズム」 には全て経験して(立ち会って)いるほか、「口(唇・舌)」、「乳首」、「手(指)」 による 「オーガズム」 も全て実際に経験して(立ち会って)います。

 

そして、これらの 「膣オーガズム」 を 「ク/リトリス」 の 「オーガズム」 と比較すると、明らかに 「膣オーガズム」 の方が女性が感じる 「快感」 の度合いもそうですし、女性の反応も大きいのです。

とある女性に確認したところ 「10倍」 と言っていましたが、「オーガズム」 の大きさも大きくなりますし、長さも長くなるわけです。

そして、「ク/リトリス」 による 「オーガズム」 の方は、「膣オーガズム」 と比べると時間も短いですし、「オーガズム」 によって記憶がなくなるわけでもなく、まさしく男の其れにそっくりなのです。

 

自分はフロイトが、「ク/リトリス」 の 「オーガズム」 を蔑視していたわけではないと思っています。

現在では、女性の 「ク/リトリス」 の埋没部分も含めると男性/器に相当する大きさであることが確認されていますが、少なくともフロイトの時代は、「ク/リトリス」 の全容がまだ掴めていない時代です。全容が分からないのにもかかわらず、「ク/リトリス」 を男性/器の相似器官と認識していることは驚きです。

 

 

またフロイトは、陰核のオーガズムは純粋に少女期の現象であり、思春期に到達するとすぐに膣オーガズム、すなわち陰核への刺激なしで得られるオーガズムへと移行してゆくのが成熟した女性の適切な反応であると述べていますが、これは少女期であっても 「ク/リトリス」 に刺激を与えたりすることは出来ますが、「膣オーガズム」 の場合は、「膣」 を刺激するために何かを挿入する必要があります。

「未成熟な女性」 と 「成熟した女性」 という意味は、ひとつはその挿入可能性の問題。そして、もうひとつは 「オーガズム」 の質に言及しているところでしょう。

 

フロイトが述べている 「オーガズム」 に関する記述は、最新の知見に基づけば何も間違えていないのです。

しかし現在も統計的に表れているように、「ク/リトリス」 では 「オーガズム」 を迎えることが出来る女性であっても、「中イキ」 を経験出来る女性は、決して多くはありません。

「ク/リトリス」 による 「オーガズム」 は未熟で、「膣オーガズム」 は成熟したものであるような間違った認識や、「膣オーガズム」 に達することは女性の適切な反応であり、達することが出来ないのは不適切であるというような曲げられた認識が、「膣オーガズム」 を経験出来ない多くの女性に対して、「プレッシャー」 を与えていただろうことは否めません。

 

(つづく)

 

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