このままでは健康保険なくなる説 | 秋山のブログ

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先日、「10万ツイート達成してみんなの声を国会に届けるぞプロジェクト」という健保連による企画があって、タレントの協力により、10万ツイートをあっという間に達成したという。しかし、健康保険の問題に人々の注目を集めるのはよいことだが、国会に届けるメッセージがほぼ無意味なものなのだ。それは健保連の中枢部の人間が、全く経済を理解していないからである。少子高齢化のためにピンチというのは、実に素人らしい間違いだ。

 

少子高齢化でピンチというのは、(特に2025年には)老人が増えて医療費が増えるけれど、働く人は横這いもしくは減少するので、お金が足りなくなるという単純な理屈である。しかしこれはMMTを理解している人であれば、ただちに間違いであることに気付くはずだ。人々は労働によってお金を手に入れるので勘違いするのであるが、お金は労働によって生産されるものでは決してない。誰かの借り入れによって発生するものである。

ピンチかどうかは医療の供給能力があるかどうかであって、例えば国が通貨を発行して、適切な代価を支払えば、それで解決なのである。医療機関は、トータルで見て、ずっと多くの医療を提供することができる。患者にお金がないから受診者が減っていて、患者の単価も国が決めていて抑制されているので、多くの病院の採算性が悪化し、赤字の病院が増えている。

 

もちろん一部の病院では、医師や看護婦の過重労働により、採算性を維持している。これはブラックな他の業種と何も変わらない。全ての問題の根源は、上の図の三角の部分、実体経済における貨幣の量が足りないということに尽きる。生産する能力が向上し、より多く生産することができるように設備が整い技術等が進歩しても、貨幣の量が増えなければ、より多くのモノを買うこともできないので、宝の持ち腐れ、生産性は向上しない。

 

現在多くの分野で、需要不足、供給過多である。それがおこっているのは、実体経済の貨幣の量が、増えずに、失われる傾向が高まっているからである。国債の金利こそは低く抑えているが、企業の利益からは高い配当として実体経済から貨幣を流出させている。配当は、収入の多くを使わずに債券市場等に貯めこむ富裕層に移行するものが多い。企業の内部留保も、貨幣の流出である。各種の税や保険料、公共料金等、特に消費税は貨幣を流出させる。税の多くは使われて実体経済に戻るけれど(財政改善に使われるのは最悪だ)、使われるまでの時間の遅さがマイナスである。

消費税を例にすれば分かり易いが、消費税によって受け取る金額が減少する(上の図の顔のマークを企業と考えて見て欲しい)。給料が定額等の理由で下げられる要素がない場合、企業が収支を悪化させるだろう。切られる弱い立場の職員がいれば、そちらにしわ寄せがいく。そうすると結局以前より需要が減ることになるということだ。収入が下がるのは、個々人企業の努力が足りないからなどではなく、この仕組によるものである。買うためのお金が足りなければ、売ることはできない。

 

健康保険組合の資金が足りなくなるのも当然のことである。実体経済からの貨幣の流出によって、保険料を払うための個人の収入が減少するか、個人の代わりに払う企業の収入も減少するからだ。それを少子高齢化のせいだとしては、解決策など考えられるわけもない。彼らの主張を大雑把に言えば、金が足りないから一人一人が受診を減らしたり、国民の窓口負担を増やすといった話になっている。しかし、窓口負担を増やしても、受診抑制にこそなれ、金の出処が個人になるか保険になるかの違いであって、何の節約にもならない。そして受診抑制こそ、制度を崩壊させるだろう。もともと安定のために価格を強く抑制しているのが現在の医療制度だからだ。多売を前提の価格設定なのだから、受診抑制がおこれば全く採算が合わなくなっていく。その結果、今ですらぎりぎりの医療機関は、保険診療から撤退していくだろう。そして自由競争になれば、他国の例が明確に示しているように、コストは跳ね上がり(現在の価格の無保険程度の価格で医療を受けられると考えるのは甘すぎる)、アクセスも悪くなり、そしてクオリティも下がるだろう。

 

より多く生産できるようになって、その分多く収入を得るのが経済成長だ。だから老人の割合が増えても、それを賄えるならば、より多くのお金が医療に関して動くはずであるし、それが正常なことである。医療に関して支払われたお金は結局循環していくので、それで問題になることはほとんどない。供給力があってもそれを活かせない現在の所謂デフレスパイラルの状況が問題であり、それが解決するならば医療に支払う余力が当然できてくるはずなのである。

デフレを解決するためにも、政府は医療に対して貨幣の発行を使うべきである。富裕層に流れていくようだと、効果が薄いので、医療は都合がいい。また、日本の健康保険制度は高度に価格の調整能力があるので、過剰になるのも抑えられるだろう。そして経済のよい循環が達成されたならば、それをする必要もなくなる。国民や企業が国の補助なしで医療費を払う余裕を持つからである。(政府が民意に負けて赤字に無頓着になれば、歯止めがきかなくなるといった意見を時に見かけるが、政府の助力がなくても大丈夫になった後の方が、間違いなく容易に政府の助力を打ち切ることができるだろう)

 

結論は、とにかくデフレを終わらせることである。近視眼的な対策は逆効果だ。