MMT現代貨幣理論入門について | 秋山のブログ

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MMT現代貨幣理論入門 MMT現代貨幣理論入門
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第一人者の著作ということで、発売を楽しみにしていた書籍である。早速手に入れて何度か読んだ。主に貨幣とは何かということに関して、その多くがさかれている。今後使えそうな表現や、根拠となるような事象の記述も多々あり、その内容は有意義であったが、貨幣の理解に関しては当然の内容であり、MMTの説明としてyoutubeなどで解説されている内容を理解している人間であれば、これを読む意義はそれ程高くないかもしれない。複雑化した現在の金融システムを説明することによって、MMTの貨幣の理解が正しいことを示しているが、そのシステムがあまりにも複雑なだけでなく多種多様でもあるため、かなり冗長になっている感は否めない。

とりあえず手っ取り早く内容を知りたいといった人には、朴勝俊氏による要点を読むことをお勧めする。

 

それでは、これを読んだ上での、問題と思われる点をあげていこうと思う。(ちなみに、以下の指摘は今後修正、改善すべき点であって、MMTの根幹を揺るがすような話では全くない)

 

MMTが、ケインズやミンスキー等の著名な経済学者の見識の上に築かれたことを強調している部分があるが、『巨人たちの肩を踏み台として成り立っている』ということを強調するのは、あまり好ましくないと思われる。それが確かに大きな貢献をした人物であっても、その人物を神格化して正当性を主張するべきではないからだ。MMTは強いエビデンスに基づき主張できるのであるから、そちらこそを強調すべきであろう。もっとも多くの人間は権威に弱いので、嘘をついているわけでもないし、目くじらをたてるほどのことでもないかもしれない。

 

グローバル恐慌の後、家計部門が節約に走ったために『貯蓄率が急激に上昇した』という表現があったが、これはMMTを理解しているならば逆におかしい話であろう。マクロにおいては、誰かがより貯蓄すれば誰かの収入が減る。家計が貯蓄できる量は、誰かが借り入れを増やした量であるはずだ。もっとも節約傾向が高まれば、景気の悪化に伴い税収が減るために、結局政府の赤字が増えることと、家計の収入が減ることによって、貯蓄率が変化することはありえる。

 

トリレンマの「自由な資本移動」に無批判なのも問題である。「変動相場制」に関して多くの考察をおこない、外国為替の取引高が『貿易フローを支えるのに必要な金額より桁違いに大き』く、『為替の変動性は破壊的』だと理解していながら、自由な資本移動こそ規制すべきであり、可能であるということに行き着いていない。

途上国の場合、変動相場制が必ずしも正解でないことも理解しているようで、MMTの批判者が筆者らが解決策を示せていないことを問題視していることを記述している。答えは変動相場性ではなく、自由な資本移動の規制だ。筆者らは、アジア通貨危機と、マレーシアの解決策に関してもっと学ぶべきである。

同様に、中国が『変動相場制を避けられなくなる』とか『経常収支赤字になる』とか『資本規制を緩和することになる』とかの予想には根拠がない。他国からの干渉以外でそれらは実現しないだろう。

 

税に関する考えに関しても問題がある。悪徳を抑制するために税はかけるものと単純化しすぎるのには賛成できない。もちろんその視点で税をかけることは有益ではあるが、悪徳かどうかはかなりのこじつけが可能であり、判断が難しい。再分配のためや、レントにこそかけるべきという主張を私は推したい。筆者は法人税に反対しているが、配当が総合課税でしっかり取られる状況ならともかく、現在の極めて低い分離課税であれば、格差のもとになり、景気にも悪影響(格差は景気を悪化させる)である。法人税があると、その分コストとして価格転嫁や、賃金低下をおこすなどというのは誤りであろう。

 

『極端な低金利は、与える以上に多くの需要を経済から奪う』というのは誤りである。金利を上げることによる景気の悪化は、実証上疑う余地のないものである。ただし何故景気が悪化するかということに関して、投資がおこなわれなくなるからというのは正しくない。金利によって実体経済から貨幣が失われていくからである。筆者は、利息を受け取った人間が使うお金を需要として考えている。しかしその需要は、利息がなければそのまま存在している需要だ。そして利息として集められたお金は全てが使われるわけではない。そういうことである。

 

以上のようにこの書籍の内容には、問題点がなくもない。結局のところ貨幣、金融システムに関しては精密に研究されているが、主流派経済学とも全く共通の基盤がないわけでもないので、その誤りをそのまま受け入れてしまっている部分もあるということだろう。