財務省の資料を検証して3 | 秋山のブログ

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それでは財務省の資料(わが国財政の現状等について)にあるMMT批判を検証してみよう。

 

資料では多くの経済学者、エコノミストがMMTに対して反対意見を述べている様子が羅列されている。当然のことながら、そんなものが多かろうがそのことは考慮に値しない。例えば資料ではシカゴ大学でのアンケートでほとんどの経済学者が反対していることになっているが、シカゴ大学は反ケインズの牙城であり、非自発的失業など存在しないといった考えの集団である。何の根拠にもならないだろう。重要なのは、個々の反論の中身である。

 

一番多い反論はハイパーインフレもしくはそれに準じた状態になるというものであろう。その反省から、中央銀行の独立性が尊重されているといった話も出ている。しかしハイパーインフレがどのようにして起こるか検討してその機序を示したものはない。機序まで考えれば、むしろ絶対起きないことが分かるからだ。

まずモノを買うためにはお金が必要である。ドイツや途上国の場合、上昇していく物価に合わせた無軌道なお金の配布がおこなわれたからどんどん上がっていったわけで、労働の対価としての安定した賃金の支払いであればそれが政府にとって赤字の垂れ流しであってもそのような上昇はきたさない。日本の場合は、富裕層に偏らずに家計が現金をため込んでいたということがあるだろう。

もう一つ必須なのは、著しい供給力不足で競争のない状態である。そんな状態でなければ、どれほどお金が余っていても物価は上がってはいかない。ペルーはそこを改善することでハイパーインフレを克服したし、オイルショック等で見られたコストプッシュインフレも石油が独占的であることが理由である。

最も愚かなハイパーインフレになる理由は、通貨の信認が損なわれるからというものである。自国通貨で経済が動いている限り、信認がどう変化しようが物価が変化することはない。通貨の信認を測ることはできないし、物価の上昇を通貨の信認が下がったと言い直しているに過ぎない。つまりトートロジーである。(ケネス・ロゴフがそれを理由にあげている。推して知るべしと言ったところか)

中央銀行の独立性は、原理的に直接ハイパーインフレを防ぐものではない。確かに国の景気対策をやりにくくすれば、インフレは起こりにくいだろう。しかし臨機応変に経済対策をおこなわなければ、経済をよい状況に保つことも、望ましい成長を生むことはできない。現実において中央銀行の独立性が低い国の方が、成長していたというデータも存在する。中央銀行の独立性は、ハイパーインフレの最中に発見された方法ではなく、ルーカス以降の経済学の間違った政策を実現するために導入されたスローガンである。ハイパーインフレ防止は、スローガンをたてるための口実に過ぎない。

日本や米国でこれだけ負債が積み上がってもハイパーインフレが起きないことに対して、いつか突然起きるなどという主張もちらほら見受けられる。こういうことは、現実の裏付けのある機序を提示して初めて説得力を持つものであろう。機序を提示しなければ、祟りがあると人々を脅すカルト宗教と何ら違いはない。また当然ながら、インフレに程遠い状況が継続していたのに、同じことを続けていてある日突然ハイパーインフレになった例もどこにも存在しない。

 

金融資産を有限なものと勘違いして、金利が上がると信じている発言も見受けられる。クルーグマンからしてやらかしている。『債務は富全体を超えて無限に大きくなることはできず、残高が増えるほど、人々は高い利子を要求するだろう』という主張は全く事実ではない。銀行は預金を貸し出すではなく、預金を貸し出し業務時の制約として(実際は他行から借りることもできるので制約はない)、お金と債務を同時に作るのであるから、お金は無限に増ええるし、債務も無限に増ええる。富の量と債務の量は関係がない。そして人々が高い利子を要求するというのも間違いだ。国債より割がよい融資先は無限にあるわけではない(あるならそもそもそれ程財政政策をする必要もないだろう)。国が負債を負えば負うほど金融資産を持つ人が増えるので、国債よりも条件のよい限られた投資先は取り合いになり、高い利子や配当を得ることができなくもなり(主流派経済学がエビデンスのない屁理屈でしきりに財政政策を否定するのは、インフレを嫌うだけではなくて、投資家のライバルを増やしたくないからかもしれない)、結局は国債購入に落ちつく。クラウディングアウトを主張するものもいるが、それも間違いであることはこのことからも分かるだろう。

 

為替市場への悪影響を理由にあげるものもいる。サマーズは、為替レートの崩壊によって『インフレ率の上昇、長期金利の上昇、リスクプレミアム、資本逃避、実質賃金の低下』起こるなどと主張しているが、上昇とか下降ではなく崩壊と表現しているところがインチキであることを物語っている。国民にとって起きてほしくないことを羅列しただけだろう。莫大な政府債務を持つ日本も米国も為替が崩壊する様子は全くない。供給する余力の大きい(だから自国の産業を守りつつ、相手国の関税を下げて相手国にモノを売ろうとする)国が通貨安になれば莫大な経常黒字を得るだろう。そしてそれは通貨を押し上げる。崩壊することはない。

全く無軌道な財政支出(MMTはそんなことは主張していない)をおこなっていれば、基軸通貨としての信用が低下することはありえる。しかしもともと資源も技術力もあって供給能力が高い米国が、過去最も低所得層でも豊かに暮らせた時代くらいの好景気に持っていく程度の財政支出をおこなっても問題にならないだろう(主流派経済学は、非自発的失業を否定し、余力はないかのように喧伝しているが、現実余力は大きい)。他の国に変わることは考えにくい。中国などは、むしろ現時点でもMMT的な発想で最大限国力を活かしているわけで、人民元が基軸通貨になればお金を発行しまくって、他国の資産を買いかねない。(バブル時代の日本の海外資産買い漁りは、原理的に同じである。外国による資産購入に規制をかけるのは当然のことだ。中国は日本の事例からよく学んでいる)
通貨に力がない国にとっては、基軸通貨のドルを持っているということは幸いなことであるので、米国の財政赤字が非難されることも多くはないだろう。実際現在の米国の負債が莫大であるにも関わらず、その地位は微動だにしていない。米国が負債を増大させ続けていればいつかはなどと主張されることも見かけるが、それも米国の財政を家計と同じように考えているから出てくる誤りだ。(生産も消費も規模が大きく、他国に頼らず生産することができるにも関わらず、他国から買って消費してくれる米国という国は基軸通貨にピッタリだろう)

 

社会主義実験といったレッテル貼りが出てくるのは相変わらずだ。MMTは、市場機能の考慮した資本主義の経済学である。放任主義の主流派経済学の方が、余程市場機能を尊重していないだろう。

 

投資家にとってMMTは全く都合が悪いものであるから、反対意見を表明することは不思議ではないし、明らかに屁理屈としか言えないような反論をすることもしばしば見かけるのである。この資料においても、きちんと利益相反ありと注釈をつけておくべきだとも思われる。