スタックとフローの整理 | 秋山のブログ

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菅原氏が、以前書いた「スタンフォード大学で一番人気の経済学入門マクロ編」に関する記事に関して、「帰納と演繹と19世紀の経済学者」のコメント欄で、『フローとストックが全く理解されていない。ストックは絶対にフローに回りません。』と書いている。ストックがフローに回るというのが、一体何を意味しているのか不明であるが、フローとストックについて、少し考察してみようと思う。

 

フローは一定期間内に流れた量で、ストックはある一時点において貯蔵されている量である。全く異なる性質のものであることには留意されたい。

 

まずストックを考えてみよう。ストックは設備などモノに関して使われることもあるが、重要なのはお金に関するものである。そこでお金のストックについて考えてみよう。お金は、誰かが借り入れをおこなうことで発生する。誰かがお金を貯蓄しているということは、同額の負債を別の誰かが持っているということだ。このプラスとマイナスに分かれている状態こそストックが表現しているものである。お金はモノの売買では所有者がかわるだけで無くなることはなく、返済という形で負債と相殺することで消滅する。「ストックはフローに回らない」という話だったが、これはおかしい。お金はストックが無ければ存在しないのである。逆に言えば、ストックがあるからお金を利用した経済活動ができるのである。経済主体が何かを買うための代金を払うために銀行からお金を借りてくることが、経済活動におけるお金の発生ポイントだ。発生したお金は返済され消滅するまで、経済主体の間を移動し経済活動を支える。

 

さて、フローに属する概念として、代表的なGDPについて検討してみよう。経済活動として、モノ(財やサービス)が生産せれ、売買され、消費されたり、資本設備になったりしているが、国内における生み出された付加価値の総和がGDPである。GDPの単位は円であり、売買されないモノはカウントされないといったことがあるが、ここで留意しなくてはいけないことは、GDPにおいて生産されているものはあくまでモノであり、お金では決してないということだ。すなわち、「国民が消費するため供給されたモノ」と「設備として使われるために作られたモノ」と「政府の要請で供給されたモノ」と「外国の経済主体のために供給さらたモノ」の合計から「国民に外国から供給されたモノ」を引いたものがGDPである。一定期間に国内で生産されたモノの総和がGDPであるから、GDP以外の要素が原因であり、GDPが結果である。いつもの恒等式を書いてみよう。

Y=C+I+G+(EX-IM)

となる。これは恒等式であるが、既に述べたように右から左への因果関係がある(定義がそうなっている)。さらによく出てくる変形を書き出してみよう。Yを民間の総収入と考えて、変形されている。

(Y-T-C)+(T-G)-I=EX-IM

Y-T-Cが民間貯蓄のある期間における変化で、T-Gが政府貯蓄のそれなので、合わせて貯蓄Sと表現できるとされている。このことから貯蓄と投資のバランスから経常収支が左右されるかのような誤解をする経済学者が多々出現したようである(誰かの誤解を踏襲している可能性が高い)。しかしそれは数式化することによって、最初の前提を忘れてしまっているのだ。貯蓄率を上げようと誰かが払っていたCにあたる費用を減らせば、その額そのままYだけが減少するのである。Gを減らせば、Yだけがそのまま減るのである(供給力不足があれば、原因となる要素が互いに影響しあう可能性はある)。経常収支も原因であって、貯蓄はその結果である。さらに言えば、変形した式を貯蓄としてまとめるのであれば、CとIの意味が最初とは違ってきてしまうだろう。Iは「借り入れによって代金を支払われたモノ」という意味になる。

 

貨幣の性質、ストックはどのような意味かを理解していれば、フローで愚かな間違いをおかさないようになるだろう。恒等式を変形して意味ある結論など導けないのである。