世界全面株安 | 秋山のブログ

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世界全面株安が紙面を賑わした。巷でも話題になっているが、過去に起こった多くの株価の大幅下落から、とにかく経済にとって最悪のことが起こっているような印象を持って意見を述べている人が多い。しかしそれは、安倍総理が持っている株価の上昇が景気の良さの指標となるという誤った考えと同根の誤りである。ちょっと考察してみよう。

投資家の株式を始めとする市場への金融資産の投入は、多数決ゲームである。多くの人が考える方向に価格は変動するので、その動きになるべく早く乗ることで儲けを得る。儲けは動きの方向を見誤ったり、乗るのに遅れた人間の損失である(ゼロサムであり、価値は創出しない)。今回は中国の大幅な株価下落を見て、多くの人間が様々な株が下がるだろうと予測し、株を売って、為替市場で安定通貨の円を買うなどのことをおこなった。中国の株価の下落は中国経済の景気の悪化であり、中国の景気が悪くなれば中国に輸出していた国の景気も悪くなるだろうから、他の国の株も下がるだろうという(想像上の)ストーリーなのだが、これは本当である必要は全くない。ケインズが美人コンテストと表現したように、全く主観でよいのだ。中国の株は、株で儲けた人が多々出て、我も我もと多くの市民が参加したことによって上昇したもので、株の本質的な価値(中国企業の価値)が上昇したものではない。参加者が損をするかもと考え、売り急げば当然下がる性質のものだ。ミクロにおいて、業績を上げた企業の株はあがり、下げた企業の株は下がるので勘違いし易いところだが、マクロでは業績ではなくて、基本的には参加者の増減で株価は変動する。今回の中国の株価の下落はまさにそういうことで、中国の企業の実態や輸出入の実態に変化があったわけではない。

例えば大恐慌の時なども株価の大幅下落があったので、株価の大幅な下落で大恐慌を連想するのは仕方ないかもしれない。しかしそれは賢明とは言えないし、決して正解でもない。状況、条件の違いに目を配り、どのような機序でそれが起こるのかきちんと追究して、初めてまともな判断をくだせるようになるだろう。
株価大幅下落はどのような機序で実体経済に悪影響を与えるか考えてみよう。
経済の心臓的な役割をする銀行が、一定の期間での返済義務があるお金を、株で運営していたとしたら、株価の大幅下落はとんでもなく悪影響を与えるだろう。もちろんこれは過去の反省からいろいろ規制されているので、現在ではこの機序で経済全体への悪影響が出ることはありえないだろう。
他には、株が企業等の担保になっていた場合にそれが評価割れになって貸し剥がしの発端になりかねないことや、新規融資が抑制されることがある。しかしこれは銀行が、株価という本質的でないことでなくて、あくまでも融資は事業に対してしているものであるという基本を貫けば済む話である(回収や貸ししぶりは、銀行自体にも元来損失であるが、銀行は時にルールによって本末転倒になることもある)。バブルの後始末の時に、土地の下落で著しい担保割れがおこったが、新自由主義の竹中大臣の論理のもと、潰す必要のない多くの企業を潰し(土地の値上がりをあてにした不採算事業はいたしかたないが)、銀行にも多大な損失を発生させ、それを税金で、つまりは国民の負担で穴埋めするという愚かな政策がとられた。日本では何が失敗だったかの正しい認識が広まっていないので(当時は理解できていた人は少なかったと思うが、今では一定の人間は理解している)、同じことになる可能性はゼロではないが、昨今銀行は融資に関して担保への評価を極端に厳しくしている上に、担保があれば事業内容を考慮せずに貸し出すといった愚かなことは止めているし、諸悪の元凶の内部留保もこの件では有効に働くので、この場合も問題は起こらないだろう。
消費マインドへの影響は、大多数の消費者が株式と関係ないこととや、実際のデータでも弱い相関しか認められないことから、こちらも大した影響はないはずである。

実例として過去の株価大暴落を拾ってみよう。
世界恐慌のきっかけになったとされる株価の大暴落は1929.10.24の暗黒の木曜日が発端のようだ。しかし株価の大暴落は、大恐慌の主因ではない。フリードマンの示したような様々な金融政策の失敗が大恐慌の主因なのだ。(銀行の破綻には関係があるだろう)
1987年のブラックマンデーは、下げとしては史上最大であった。しかしこれは不況等にはまったく繋がらなかったらしい。すぐに大幅に反発し、早期にもとに戻ったとされている。投資家のパニックがメインであろうが、この出来事は株というものについて理解を深くしてくれるだろう。
2008年の大暴落は、いわゆるリーマンショックである。これは経済に悪影響があったが、株価の下落が経済に悪影響を与えた主因であるわけではない。主役はあくまでサブプライムローンのなるべくしておこった破綻である。サブプライムローンの破綻が多くの銀行に影響があった。多くの銀行の破綻が経済に悪影響を与えた。

結局、実体経済の中心を担う銀行や企業が、投機、投資に手を出しているかどうかが、株価下落によって経済に悪影響があるかどうかのポイントである。そして現在銀行の場合は暴落しても大丈夫なように規制もおこなわれている。つまり現代においては、マクロにおける株価の上下は社会にとってほとんど重要ではない。株価はマクロにおいては、業績や景気と直接的な関係はなく、どれだけ金融資産が投入されたかによって決定されるというカラクリを理解すれば、全ての現象を説明できるだろう。
しかしながら多くの人間が、今現在株等に対して間違った知識を持っている。株価の下落の後に景気が大幅に悪化したこともあった(要因の一つであったこともあれば、要因ではなくて別の問題の結果であったこともある)という事実や、ミクロでの企業と株価の関係との混同から、株価の変動(マクロ)は景気の良し悪しを強く示すとか、株価の変動(マクロ)は景気を変動させるとかの誤りを信じて、愚かな政治家が株価を上げるような政策を取ってきた。法人税減税キャピタルゲインに対する減税、非正規雇用の解禁等々。その結果、ピケティの言うように、労働者の賃金よりも配当等への配分が大きくなって、有効需要の減少により終わりの見えない不況の中に世界はある。
経済に関する間違った知識は修正されなくてはいけない。