『台湾紀行 ~街道をゆく40~』司馬遼太郎 (朝日文芸文庫1997)
読み返しました。
台湾についての小説は、
「路~ルウ~」(吉田修一)、
「望郷の道」(北方謙三)、
『炒飯狙撃手』(張國立 著 玉田誠訳 ハーパーBOOKS 2024.03)を読んで | 日々感じたこと・読んだ本
『南海王国記』(飯島和一 2025.7 小学館)を読んで | 日々感じたこと・読んだ本
と読んできましたが、いずれもそれぞれの作品の描かれた当時の台湾のまちの雰囲気がよくわかる名作揃いだったように思います。
そのため、一作読むごとに彼の国への興味は膨らんで行って、今回、司馬さんのこの名作を読み直しました。
司馬さんは歴史作家らしく、紀行中に会う人、見た風景などから、次々に話が膨らみ、それが実におもしろく。
このような対象地への幅広い知識を事前に身に付けておくべきことが、良いお手本になるなと思いました。
歴史学に加えて、民俗学的な魅力もおおいに感じられる本でさすがです。
そして、出会った人・もののひとつひとつの美徳を救い上げて言葉で表現しているため、読者はその甘露を余すところなくしゃぶれる喜びに出会えます。
また、国家とは?文明とは?文化とは?という問いが本全体に広く薄く敷かれていて、時にそれが立ち上ります。
途中とんでもない説を言ってる箇所を発見し、感動に打ち震えました。
氏曰く、中国と欧州各国の国の大きさに差があることが「文字の違い」であるという説を述べているのでした!すごく共感しました。これは、いわば、文化と文明の違いだわ、と思いました。
文化は自然景観など暮らしが違えばまた違い、文明はそれらを大きくまたぐわけですね。文明は瞬間的に、ほぼ無意識に理解でき、文化は襟元を正して向かい合わないと理解できない、ということかも知れません。
カリン・スローター『ざわめく傷痕』(ハーパーブックス 田辺千幸訳 2020.1)
しばらく前に同著者の『報いのウィル』という小説を読み、
彼女の造る凄まじく残酷な世界観にまたふれたいなと思い読んだのがこの一冊。
※『報いのウィル』の感想文はこちらです↓
『報いのウィル』(カリン・スローター作 田辺千幸訳 ハーパーBOOKS 2024.12)を読んで | 日々感じたこと・読んだ本
この『ざわめく傷痕』は、原題が『KISSCUT』とつけられていて、意味はキス💛に関係するロマンチックなことなのかな、と思っていましたが、今、ネットで調べたらなんと(怖)
材料の最上層を切断し、下層を残す切断技術
キスカットとは、材料の最上層を切断し、下層を残す切断技術です。
とのこと。
怖いよ~泣。
そう、前回の『報いのウィル』の時も感じたのですが、この小説も怖すぎて・・・。
「怖いもの見たさ」の方にしかおすすめできないかもしれません。
一度読んじゃうと、「異常な性癖からくる犯罪者の世界」と「健気に一市民としての義務を果たそう」としているまっとうな人たちとの世界が対立し、人間の異常心理と価値観を考えさせられる激しいドラマに中毒性が出て来るかもしれません。
ちなみに主人公たち(犯罪をとりしまる側や、法の下、社会秩序を守る側、人間の尊厳を守る側)もその凄惨さと異常さに何度も吐いています笑
私もまたいつか別の作品を読みたくなるような予感が濃厚です。
前回と同様の感想のしめになるかもしれませんが、
アメリカってほんと終わっているような気がする・・・。
『南海王国記』(飯島和一 2025.7 小学館)を読んで
飯島和一さん、7年ぶりの単行本。
鄭成功がほぼ全体の7割に登場する主役。
物語自体は、彼の登場する前と没後まであり、彼の作った王国の興亡まで。
記述は小説というより、抑えた筆致でひたすら「紀伝」を綴っているように思う。
だとすると、ドラマ性や人間模様がないのか、というとそうでもなく
そもそも、大小たくさんの戦争があった期間なので、必然的にそれにかかわるドラマが描かれている。
そして、このドラマの表立ったテーマは
「清に抗うか、それとも辮髪となって帰順するか?」であるが、
その根本には「人はどう自分の理想とする姿をまっとうするか?」というテーマを見据えている。
物語は、1626年1月にはじまり1683年7月に終わる。
明の滅亡から、その明を討って異民族でありながら中華の覇者となった清と、
それに対抗しあくまで明の遺臣として戦った南海の覇者・鄭成功との戦いがメインなのである。
特徴としては、「明か、清か」の二者択一の中で、
明側にいたが裏切って辮髪になって清側に投降し、
明(または鄭成功軍)に対する攻め手に加わるという多くの人物が波状的に、ことあるごとに登場することだ。
そんななか、明への忠誠を最後まで失わなかった鄭成功の思想の原点とはなんなのか?
そしてそんな彼がいかに最期の時を迎えるか、がひとつのクライマックスであろう。
さらに、彼の作った王国のモラル彼の子孫、遺臣らによってどう守られ、
どう失われていったか、それはなにに起因するのか、も次のクライマックスである。
飯島さんは、いつものように、事実をひとつづつ積み上げ、克明に記し、やがて物語の大きな波を作っている。
人の生き様とは、を深く考えさせられる大作である。