日々感じたこと・読んだ本 -7ページ目

『穏やかな人と機』(池内風さん作戯曲 早川書房『悲劇喜劇』2025年1月号掲載)

久々に脚本を読みました。

本だなから今年の1月に発行された『悲劇喜劇』を取り出し読んだのがこの戯曲です。

 

読んだ感想としては、面白かった、です。

登場人物設定がとても丁寧になされていることが好感をもち

彼ら、彼女らの職場での会話シーンで100%構成されていますが、

こちらのセリフもまた丁寧で、いわゆる「受けに走る」ようなところが微塵もありません。

そこが物語としての品を醸し出しているなと思いました。

 

新宿シアタートップスで2024年の12/12-12/22に上演されたようですが

観に行きたかった~。

 

役者たちが、作者による丁寧でいささか長いセリフのひとつひとつをどういう口調や表情を見せながら演じるのかとても興味を覚えました。

 

お話の内容についてはひとつだけ。

これは、主人公の河部と、9人いる登場人物のうちのひとり森川(昔の河部の部下)の2人を登場させた続編も見たいということです。

またそうやって考えると、もしかするとシリーズ化して、テレビドラマになったらかなりイケるのではと思いました。

 

それぞれ誰に演じてもらうといいか考えるのが楽しみです。

以下私の考え

河部・・・長谷川博己

萩尾・・・高橋一生

牧・・・佐藤健

一浦・・・杉咲花

海東・・・細田佳央太

郡司・・・大泉洋

森川・・・吉岡里帆

梅野・・・田中裕子

曽根・・・三宅弘城

 

 

『ミス・サンシャイン』(吉田修一 文春文庫 2025.8)

著作『国宝』が映画化されて、現在日本映画史上まれにみる大ヒットとなっている吉田修一さん。

彼がちょうど『国宝』を書いた後か、同時に書いていたと思われる小説『ミス・サンシャイン』を読みました。

 

吉田さんは、『国宝』を書くために、歌舞伎の世界の裏方として数年参与観察をされたと聞いていましたが、この『ミスサンシャイン』も『国宝』と同じく芸事の世界に生きる往年の大女優を、アルバイトで彼女の家に通うようになった主人公の大学院生の男の子から見た物語です。その期間はわずか半年らしいのですが、この老齢の大女優と、男の子との触れ合いが実にいいのです。ふたりはともに長崎出身・・・・。

 

ここまで読んで、あれ?って思った方いませんか?

そう、昨年、放送されたドラマ『海に眠るダイヤモンド』の、宮本信子演じる老婦人と彼女に気に入られて一緒に過ごすようになる神木隆之介演じる元ホストの青年との淡い関係に似てるんですよね~。いずれも老婦人が長崎という町で若い頃に生きたこその物語ですし。

もちろん、ふたつの作品は別々ですが、偶然にも、主人公と老齢の長崎出身(で上品な)女性という関係、そして淡くはかない恋心(?)もフワッと感じさせてくれるとこが激似ですよね。

 

この老女が娘時代を送ったのが被爆地長崎である、ということが、物語のキーポイントでして、そう考えると、さらに似た小説があります。同じ長崎出身のカズオイシグロの「遠きやまなみの光」です。こちらも戦中を長崎に生きた女性のその後の暮らしが優雅ではあるものの一抹の儚さと哀しみを湛えて描かれています。

 

私はこの文庫本200ページをめくったところで落涙しました。

 

吉田修一さんは今後どういう小説を描いていくのだろうか、と思わせる内容でした。

『怒り』や「悪人』もすばらしいのですが、私が最も好きなのは『横道世之介』です。

あの主人公とそれをとりまく人々が感じさせる時代の気分、場所の気分、そこから生じる儚くも楽しくやがて人生の真実に迫るような物語展開が、身震いを感じさせるほどの感慨を味わわせてくれたからです。

この「ミス・サンシャイン」にも横道世之介のような雰囲気が全体に流れていますが、一方で「国宝」で新境地に至ったとも思える吉田さんの「芸に生きる一人の人間」の描写力も魅力です。

 

長崎を考えさせられる小説。原爆が落ちて終戦を迎えた年から80年後のこの夏、まさに8月に文庫本されたということ、忘れないでおきたいものです。

 

 

 

『ハヤブサ消防団』(池井戸潤 集英社 2025.5)

ハヤブサという名前が、「すばやく駆け付け、任務にあたる」という、火消し作業としてはあたりまえのこと、とイメージしていたので、なにかひねりを感じないタイトルだな~と感じて、手にとらなっかった作品です。

あわせて池井戸さんのイメージは「勧善懲悪モノ」という点があり、正直手にとりずらかった。

 

ところが、小説すばるだったかに続編を連載してて、それをたまたま読んだらすごく面白かったので、すぐさま文庫本を買ったのでした。

 

実に面白かったです。池井戸さんらしく「スケール感」は乏しく小ぶりな感じなのですが、そこが、この舞台設定だと良い意味で生きていて、ひとつの閉ざされた世界だからこその人間関係の複雑さに加えて、腰巻に書かれている「田園ミステリー」としての横溝正史を彷彿させるような自然描写、森、小川、お寺、山、暗い夜道、星空、空気の匂い、気配などなどが物語に陰影を深めます。

 

文庫本の表紙デザインがまたよくて、イラスト(田地川じゅん さん作)が実に可愛らしくのどかで、森と畑の緑のグラデの中をけなげに消火に向かう真紅の消防車が斜め上の丘の中腹からだと思われる遠くから描かれていて抜群にいいです。このちっぽけでへなちゅこだけど、がんばっている消防団の人たちのことをつい応援したくなるほど、一冊読み終えた後に見返すイラストとしてはすごくよかったです。