日々感じたこと・読んだ本 -10ページ目

木爾 チレン『七と八のあいだ』(小説すばる8月号掲載)

木爾 チレンの小説ははじめて読みました。

小説すばるの8月号の大特集「ヒトがコワイ」の中の掌編です。

 

主人公の女性のモノローグに共感。

訪れた人の話を聞いて、小説を書くという不思議なお仕事。

しかし、その中で相手は語ることによって救済されるという、「そう、あるよね~」と思う内容です。

 

話の聞き手として、主人公が自分に課している様々なルールがいちいち納得性があって、

読み進めていくうちに主人公に好感が増してきたのですが、物語が終わりかけた頃に意外な真実が・・・。

 

そう、結局、この小説の主題は「小説を書くという罪」というか、書くことで人を傷つける、そんな

業の深さと対峙しないといけない、小説創作というテーマが、

気づけば最初から最後まで見事に一貫していた小説なのでした。

 

テーマ設定が良い☆彡

 

蓋し名作。

奥田英朗『サマージャンボ』(小説すばる8月号掲載)を読んで

手元の文庫本を読み切ったタイミングで本屋に行ったら、「小説すばる」の表紙のイラストに目を奪われ。

さらに夏の大特集ということで「ヒトがコワイ」をテーマに 奥田英朗さん以下が競作している気配で、

これは買わんばっ!と1020円お支払い。

 

ひさびさの文芸誌。この厚み(約3.3㎝)が読書意欲をそそります。

さっそく奥田さんの「サマージャンボ」。この端的でシンプルなタイトルづけから奥田さんらしい。

 

好きだなぁ~。

 

物語りは、平凡な家庭の主婦が、サマージャンポの抽選結果を受けて、大きく運命が変わりそうなお話。

「変わる」ではなくて「変わりそうな」で終わっているところが、奥田さんらしくて懐かしい☆彡

 

この手の小説は「そうそう!あるある」を一作の中にいかに見つけられたか、が満足度を左右すると思います。

 

私も一応 もし8億円あたったら、どうしようか、など妄想を自分に強いてみましたが、

まずは、妻に真っ先に話して、指示を待つだろうな、と(笑)。

 

主人公の夫の「あるある」が身につまされました涙。

『罪の水際』(ウイリアム・ショー作 玉木亨訳 新潮文庫 2025.5)

この小説は秀逸だと思いました。

 

舞台は現代、英国ケント州の、英仏海峡を臨む海辺のまちダンジェネス。

英国ではここだけという砂漠が広がる荒涼としたエリアらしいです。

(表紙のイラストがよくその様子を表しているかと)

ここに母娘で暮らす女性警官アレックスの物語です。

彼女は現役の警官として多くの悲惨な殺人現場などに触れてきたため、

現在は、PTSDと言う略語で知られる「心的外傷後ストレス障害」をかかえ、自宅療養を上司から言い渡されています。

 

しかし、地元である夫婦が謎の陰惨な死を遂げて、彼女も事件の推理・解決に自然に向かいます。

しかし、療養中なので、もちろん犯罪捜査の担当ではないわけです。

警察の同僚は、それを阻止しようとします。彼女のPTSDが重篤になる可能性が大きいからです。

それを心配する一人娘のゾーイ、そして地元の友人たち、近所の知人など。

アレックスはそれら周りの人の配慮を知ってるものの、地元で起きたこの不可解な事件にのめり込みます。

そして、担当警察官ではないからこそできる自由奔放でいささかアウトロー的なアプローチで

真犯人に気が付き、たった一人で追い詰めていきます。

その過程で、件の夫婦の謎の死は、過去の別の未確認の行方不明者の事件につながり、さらには新たな死人も出て・・・。

アレックスの身も何度か危険にさらされ、まさかの展開が物語中盤から何度か繰り返されます。

 

この小説は、設定がとても魅力的で、ダンジェネスの海辺の荒涼なシーンや、

深夜の夜空を息絶えた人の魂が昇天していく様子、

小さな列車の中での花嫁と花嫁(レズビアン)を祝福する結婚パーティーのシーン

そして、フェリーで海峡を越えて、フランスの港町のレストランでのアレックスと男とのひとときなど。

もういきなり冒頭から名場面続きなのですね。

一つ一つの場面が目に浮かぶそうなシーンばかりです。

そして、それぞれ情感を感じさえてくれます。

 

ウイリアム・ショーの小説で和訳されたのはこの物語がはじめてですが、

アレックスシリーズとしてすでにこの物語含め5冊出ているとのことです。

これは、翻訳されるのが待ち焦がれる作者になりそうです。

ちなみに、玉木亨さんという訳者の訳もとてもよかった。

平易でありながらも、情景や心理がよくわかる、上質な日本語のチョイスがそこかしこで見られます。

 

真にご機嫌な小説でしした☆彡