日々感じたこと・読んだ本 -12ページ目

『円環』(アルネ・ダール 訳/矢島真理)小学館2025 を読んで

物語の設定と登場人物が魅力的です。

そして北欧の今を伝えてくれているように思います。

連続爆破事件の犯人の狙いが「環境破壊を進める人類をこらしめる」ということらしいので。

日本ではこのような設定は絶対できないのでは、と思いました。

 

主人公は警察の現場のリーダーで女性。そして、犯人と見なされるのが、その元上司で今は険しい森林地帯の森の中に生き、文明と隔絶した一人暮らしを行っている男性。この二人の過去の関係が読み進めていくうちにわかってきて、ここに彼女のメンバーでそれぞれ人間的に魅力的な4人の活躍がからまります。この4人が志向も背景も様々で、そこにいちいち共感できそうな内容がこめられていて、それがこの物語の大きな魅力かなと思います。

 

物語りは終盤になって、捜査班と、当初犯人と目されていた元上司が真犯人をつきつめ、迫っていくのですが、その過程での度重なる爆破事件が物語に厚みを帯びさせ、スリリングな展開も感じます。

 

ラストシーンおよび真犯人の動機がちょっといまいちかなと思いましたが、

前半から中盤まで大いに楽しませてくれた作品でした☆彡

『高い窓』レイモンド・チャンドラー作、村上春樹訳 (ハヤカワミステリ文庫 2016)

ひさびさにチャンドラーを読んでみたいと。

村上春樹の訳で読むのもはじめてなので楽しみでした。

 

結論でいうと

ラストが良かった~。

 

登場人物の関係がけっこうややこしくて、主人公のフィリップ・マーロウの性格も最初はいまひとつわからない中で、謎が次々に現れるので、読みやすくはありませんでした。

しかも、マーロウは、いわずとしれたハードボイルドで、タフなものいい(渇いたジョークを言うタイプ)で、相手にも、そして読者にも自分の心をなかなか見せることはないタイプだから、なおさらです。

 

しかし、登場人物の中のある一人の人物に対する、マーロウの意識がどんどん高まっていくのが、抑えた表現ではありますが、なんとなく感じられてきて、そして最後に!!

 

とてもよかった。

 

読み進めていくにつれて、マーロウの人物像が見えてきて、そして共感も高まっていきました。

 

特に長い物語の最後に彼が感じた以下の文章が、

彼がへとへとになりながら全力を尽くしたこの数日間の果ての感慨として、

読者である私にも、胸がいた苦しいほどの哀感を感じざるをえませんでした。

 

「その家が視界から消えていくのを見ながら、私は不思議な気持ちを抱くことになった。どう言えばいいのだろう。詩をひとつ書き上げ、とても出来の良い詩だったのだが、それをなくしてしまい、思い出そうとしてもまるで思い出せないときのような気持だった」(引用;ハヤカワミステリ文庫(第36章 P397最終段落-398一行目)

 

生きていくことってことは、こういうことの積み重ねなのだなぁとしみじみ。

また会いましょうね、フィリップ!

『永久に刻まれて ~リディア&ビル短編集~』 S.J.ローザン(創元推理文庫 直良和美訳)

7つの短編の感想を順に記します。★は最高5で個人的に好き度を記してみました。

また、ローザンの原作のタイトルがいずれも魅力的(意味深でもある)なので併記します。

 

永久に刻まれて(Once Burned)

ビルが、立ち退きを迫られているなじみの飲食店に雇われ、危害を加えられないように張り付く仕事の話。立ち退きを求める不動産屋はトランプがモデルのような気がしました。クライマックスでリディアの人生を変えるシーンもあり、シリーズを通して重要な二人の性格や信条を知るにはよい作品。悲劇的な結末です。★★★★

 

千客万来の店(Prosperity Restaurant)

主人公はリディア。チャイナタウン及び中国人社会の話。中国系の姉弟がアメリカへ不法入国しようとした時に巻き込まれた事件をリディアが持ち前の向こう見ずで、鋭い直観で行動し、真相を究明する話だが、ニューヨークの中華系移民の生き様がリアルに描かれていて興味が尽きない佳作。★★★★

 

舟を刻む (Marking The Boat)

行方不明となった娘の捜索の依頼を受け、リディアがカリブ海クルーズに乗り込み、事件を解決する話。ローザンの作品群の中にときおり顕れる「旅の楽しさ」を感じさせる佳作で、ラストはハッピーエンド。親と娘の関係の有り方を再考させる内容とも言える。★★★★

 

少年の日(Childhood)

主人公はビル。この短編集では群を抜いて心が鷲掴みされる強烈な読後感を感じさせる、救いようのない悲劇。表題のChildhoodとは登場する子供たちのことを指すのはもちろん、読んだ後に感じたのは、成人になった大人にとって振り返る存在である少年時代も意味するということ。いや、もしかするとその少年時代がそのまま続いているのかもしれない。傑作。★★★★★

 

かけがえのない存在(Shots)

主人公はビル。この作品も悲劇。いたたまれない。姉と弟の絆、そして失われた過去の名声がテーマであろう。強烈なキャラである姉、そして、その影響下で順風満帆にスーパースターの座を得ているバスケットボール選手の弟。その弟が怪我でピッチを離れている、シーズン終盤での悲劇。性格が申し分なくよい弟の今後に幸あれと言わずにはいられない。傑作。★★★★★

 

チン・ヨンユン乗り出す (Chin Yong-Yun Takes A Case)

リディアのお母さんが麻雀仲間の一人の孫の誘拐事件を解決する物語だが、お母さんの一人称で語られている、アメリカ小説の伝統的系譜に則った作品。したがって、ユーモアとリアリティと庶民的な感じ、さらに共感性を感じる、私の好きな「かきくどき系」の佳作。

作家ローザンは本当に、家族の絆や家族の関係をテーマにした良い作品を書くなぁ~と。★★★★

 

春の月見 (Seeing The Moon)

リディアもビルも出ない。別の中国系の探偵と彼の大学院学生時代の元カノ、学友などが登場。川瀬巴水の版画が作品の大事な部分で出てきて、それだけでうれしい。マンハッタンのマディソンアベニューの美術商の真贋をめぐる詐欺事件。脇役「ハッピー・ハンス」というオランダ人で主人公たちの過去の学友の存在がいいなぁ~。★★★