日々感じたこと・読んだ本 -34ページ目

今野敏『ロータスコンフィデンシャル』を読んで

公安外事・倉島警部補シリーズ第6弾で文庫化最新作。

それにしても最後までタイトルの意味がわかりませんでした。文中のどこにも「ロータス」の意味が書いてなかったからです。もしや、ベトナムに所縁が強い植物だから「ロータス(ハス)」を名前付けしたのかな?

 

内容はいつものように「ザ・男の縦社会的」な警察内部の男たちのやりとりが魅力のひとつ。私も以前7年ほど政令指定都市の市役所の管理職をしていたので、この感覚は場所はちがえど、わかります。タコつぼ的組織と上下関係、指示系統をことのほか大切にする組織風土。なじみのない方にはこれは異質な世界だからこそ、面白いのかもしれません。

 

ロシア、ベトナム、そして中国の影がちらつく国際政治の最前線の工作員たちをめぐる日本の公安課の男たちのしられざる活躍が書かれていておもしろく、上記のような組織風土の中にいながらも、それぞれの登場人物の個性と仕事観の違いが感じられるのが、面白いですね。

 

無為を楽しむ一日にこそ読みたい本で、時代小説にも似た「無為を堪能する」ひとときを感じさせてくれます!

私は2023年の大みそかにだらだらとしながら、一日で読み終えました☆彡

泉鏡花『春昼』を読んで

泉鏡花の真骨頂はそのノスタルジックで耽美的な物語の舞台設定および日本語の音韻の連なりの美しさを感じさせる文体なのかとは思いますが、この「春昼」はそれが最も円熟した頃の作品かなと感じます。

一方で、筋書きは、たとえば「荒野聖」や「夜叉が池」と同じ「旅先での妖しく美しいお人との出会い」というもので新しくはないかなと感じました。

したがって、この作品は上記などすでに泉鏡花の世界に親しんでいる私にとっては、文体を堪能する、ことが主になりました。

舞台は逗子の海に近い村で、そこにやってくる主人公がその土地にあった「不思議な恋に悶死した男」の話を僧から聞くという筋書き。魅力は、その僧が語る、男と妖しいほどの美しさをたたえる女との邂逅の時々の細やかな錦絵を背景に引いているのかとでも思われるような情景豊かな描写ではないでしょうか?

岩波文庫では、続編と思われる「春昼後刻」とともにおさめられて一冊となっているので、そちらもそのうち読んでみたいと思います。

コンラッド『闇の奥』を読んで

コンラッドを読むのは『密偵』に続いて2作目。『密偵』がなかなか味わいある世界観で、20世紀初頭のロンドンの下町など、私が知らない世界の日常風俗が描かれていたので、大変面白かったため、この作品にも期待していました。

そのうえ、あの世界的に有名になった映画『地獄の黙示録』の原作ともなった作品だと聞いていたので、いつか読もうと思っていた作品でしたので、けっこう胸が高鳴っていました。

 

読んだ感想をひとことでいうと、『意外』。そして、『挑戦的な筋書き構成』。

 

まずなんと、この作品は主人公の語り、追憶の物語だったのでした。映画からは、リアルな臨場感が想像されたので、かなり意外。

さらに、その「一人語り」の物語を終始一貫しながらこの稀な冒険談を最後までいきいきと描けていることにも驚きを感じました。なにか、作家としてあぶらが乗ってきた彼の「新たな境地を拓き、そのスタイルでしか書けないことを書いて世界に問う」という雰囲気さえ推測され、そう考えると実は「社会・文明批判」の色もやんわりと湛えているかなと思います。しかしあくまでも「やんわり」です。もしこの点で映画と比較するなら、「地獄~」は、より鮮明に「社会と文明社会に生きる苦悩」を描いていると思います。コンラッドがどれだけテーマを大切にしたかは不明で、私はなんとなく、「テーマ」より「スタイル」を先に決めて、気持ちよく書きたかったような気がします。一人称の語り調の文章はサリンジャーしかりリングラードナーしかりで、けっこう読んでいるので、そう感じやすいのかもしれません。そしてそれら一人称の物語はほぼ成功した作品だと思っています。(余談ですが、一人称の物語の面白味は、本人がどれだけ自分の中の心情と感覚を無意識にだだもれして出しているか、だと思っています。その典型的な例は、サリンジャーの「やさしい軍曹」のラストシーンで、いきなり話者が内容とは関係ない妻の話を始めるところだったりします。また、「ライ麦」でのコールフィールドの一種異様なこだわり(真冬のセントラルパークのあひるについて気になる)や(妹とのやりとり)」などはすべてがこの技術から生まれた名シーンだと思います)

 

アフリカ、コンゴの大きな川をさかのぼって、密林の奥へ。ベルギーに本社を置く貿易会社の密林最深部の支店に赴任するために主人公は数十人のスタッフを載せて、船を操り、旅を続けるのですが、この操縦している時、彼の心境の吐露が一番の読みどころ。コンラッドのほぼ経験をもとにして作った小説らしいので、意外にもコンラッド自身の考えなどがよくわかる独白となりました。

 

「地獄の黙示録」とは、表面的なシーンは似ている場面がたくさんあったものの、遡河の目的がまったく違う(本作は象牙取り)ため、もしかすると「地獄~」の脚本家や監督コッポラは、このストーリー展開のみを使いたかっただけなのかなと勘ぐってしまいました。「闇の奥」の作品評価が、私とコッポラでは違うな~などと、えらそうに世界の大監督と肩を並べて考えてしまいました(笑)。

 

いつかまた「地獄の黙示録」も観直してみたいと思います。