日々感じたこと・読んだ本 -15ページ目

『異常』(エルヴィ・ル・テリエ著)ハヤカワepi文庫 を読んで

「先読み不可能!フランス発、衝撃のエンタメ小説」とのことで、

本屋に平積みでイチオシプッシュされていたので買って読みました。

 

構成はざっくり前半、後半にわかれていて、特に前半は読みやすく面白かった。

そして後半になると、知的好奇心が募らされる方と、そうじゃなくて退屈な方の2種類の読者が出てきそうな予想。

 

前半分(本書内では「第一部」)は、

登場人物ごとの「事件前」の日常が描かれている短章が続き、これが面白かった。

様々な人生があるのだなと、人の日常を「のぞき見」している面白味。

 

なかでも、ソフィアという小さい女の子が飼っているカエルにまつわるエピソードはとてもよかった。

ちなみに、読み終えた後にふと気づいたら、このカエルのエピソードは物語全体の象徴だったのだと。

 

後半部分(本書内では「第二部」)では世の中は大変なことになっていて、手の付けようがない笑。

しかし、ことがことだけに、話が少し哲学的な部分があり、読んでいてうっとうしかった。

理由はわりとはっきりしていて、一人ひとりの登場人物が「その哲学的語りを語る」ことを是認するほど、それら登場人物を理解しているとは思えてなかったからだ。

つまり、登場人物の誰ひとり、十分な人物描写が出来ているとは思えなかったからである。

 

せっかくの魅力的な登場人物ばかりなのに、作者はなにか描き急いだのか・・・。

 

 

『闇より暗き我が祈り』S.A.コスビー著(ハヤカワ文庫 2025.2)を読んで

サザンノワールといわれるアメリカ南部の世相がつまった暴力と犯罪を描く小説カテゴリーの

今現在の第一人者、代名詞的存在である、コスビー。

 

彼のデビュー作が翻訳・文庫化されたので読んでみた。

 

結論でいうと、後の代表作を読んだ方にとっては、期待を裏切らない内容です。

おすすめします。

 

わずか10年たらずの執筆期間で次々にヒットを出している彼ですが

このデビュー作からすでにスタイルを確立しています!

 

相変わらずの黒人差別、そして、腐敗した教会・警察、麻薬、退廃したセックス模様など

汚れ切った舞台(バージニア州)で、主人公は「怒り」を内に秘めながらも、日常を健気に

ストイックに生きる。

そのいとこであり、彼を救済するウォルト、そして謎の固い絆で結ばれた殺し屋のスカンク。

そして、ポルノスター・キャットノワール。

様々ないたたまれない現実を生きていく群像が魅力的。

 

中上健次の『岬』ほか紀州サーガシリーズに似てますが、そこからは文学性を取り除き、

かわりに、より過激に、軽妙に、ストイック性をプラス。

そんな感じです。

 

 

『同志少女よ、敵を撃て』(2019年 逢坂冬馬)を読んで

第二次世界大戦中のソ連の女性狙撃兵セラフィマが主人公。

幼い頃、ドイツ軍の狙撃兵に目の前で母を射殺され、

故郷の村をまるごと焼かれて全滅させられたなか、彼女はたった一人生き残る。

 

焼け跡から、腕利きの女性スナイパーに半分拉致されるかのように狙撃兵養成寄宿学校に連行され

母の仇をとることだけを生きがいに、仲間の同じような境遇の孤児の娘らとともに育つ。

そして、狙撃技術を高め、やがて、女性だけの独立型の狙撃軍団として独ソ戦の最前線に放り込まれる。

 

物語りのほとんどは、スターリングラード攻防戦や、レニングラード進撃など、

独ソ戦の有名な激戦での彼女たちの活動の様子がまるでノンフィクションのように描かれている。(実際はフィクション)。

 

重たくずっしりとしたシーンの連続でリアリティを感じるため、歴史の記録としての小説として面白かった。

作家の逢坂冬馬さんは、実によく調べたな~と感心する。

また、同様な 史実を舞台とした、人間の「生き方」を感じさせる小説を寡作で良いので書いてほしい。

 

人生を描く、という面で言えば、私的には、主人公らのその時その時の動作に関する表現記述に少しステレオタイプさが感じさせられてしまった。物語の筋やうねり、設定や、場面の描き方は、スピード感がある中で忠実で、戦場での人と人とのまじわりのシーンは良かった。

 

ラストシーンは、エピローグとしては秀逸だ。

ここではじめて「人生」を感じさせてくれた。

ラストシーンから、カズオ・イシグロの『私を離さないで』『日の名残り』に似た読後感を得た。

余韻がいい。