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 もう7年も前の著作なので、変化の激しいビジネス書としては古書に分類されてもしかたないような本だけれど、それはそれとして、知らないことは幾つもあるものだから読んでみた。2010年10月初版。

 

 

【使用人23人】
 大手商社のコルカタ支店長の自宅を訪問したら、23人もの使用人がいたという。
 23人もの使用人の一人一人が何をするか、それはすべてカースト制度と結びついていて、細かく分けられている。そう簡単に合理化することもできないのだという。そして、それらを束ねているのがイギリス流の執事、バトラーだ。このように、現在まで残る風習の中にも、インドがかつてイギリスの統治下にあったという歴史を思い出させてくれる仕組みが残っている。(p.11-12)
 バトラーって、アメリカ映画で最初に見た記憶だったから、「なんだ、インドを支配したイギリスが元かぁ」と思いつつ、なるほど、カーストで仕事が分れているインドの方が、執事の必要性は確かにあるだろうと、いまさら思った次第。
   《参照》   『驚異の超大国インドの真実』 キラン・S・セティ (PHP研究所)
             【カーストとIT産業】

 

 

【アンベードカル】
 インド憲法の父と呼ばれる人物がビームラーオ・アンベードカルだ。彼は、カースト制度のなかでは不可触民といわれる最下層の出自だが、現在でも国民の尊厳の源となり、尊敬を集めている。一方、不可触民を「ハリジャン」(神の子)と読んだガンジーは、ブラーマン(バラモン)といわれる最上級カーストの出自だ。インド憲法を書いたアンベードカルは、当然カースト制度と結びついているヒンドゥー主義を否定した。つまり精神としては、カースト制度の否定もしていたのだが、実際には憲法のなかでカーストそのものは否定しきれなかった。
 とはいえ差別の禁止は憲法に明記されることとなったのは事実。 (p.19)
 日本人からすれば、カースト制度自体が差別制度だと思うけれど、現地のインド人にとっては、そうでもないということだろう。おそらく、「カーストによって職業が区分される習慣の中で、それに従ってさえいれば、過剰に使役されることもない」という現状維持的な安住の心根が、下層階級の側にもあるのだろう。
 これはアメリカにおける黒人奴隷制度下においてあり得た黒人心理の実情として知ったことからの類推だけれど、生まれながらにして下層階級の人は、向上心無なきままに“安住できていさえすれば、それでいい”という隷属の心理を持つ人が、意外に多いのは事実である。
   《参照》  『首輪』 佐藤亜有子 (河出書房新社)
             【隷属の心理】

 社会が流動化して情報が全体に行き渡るようになり、よりよい生活の可能性がはっきり見えて来た段階で、漸く、下層階級の人々も、上昇志向を持ち始めるのである。現在のインドで、大人の何割が携帯電話を持っているのか知らないけれど、全土的に経済発展するにつれてカースト制度は必然的に見直しの対象になることだろう。
 最近は、カースト間を飛び越えた結婚が広がりつつあり、そんな状況から、日本の結婚産業の様子を視察に来るインド人が増えている(p.154)とも書かれている。

 

 

【二つの絶対貧困層】
 インドには、1日1ドル以下で暮らす絶対貧困層といわれる人々が35%いる。
 その内の一つは、不可触民と言わる人々で、都市部に住み、シンジケートによる管理下で物乞いや物売りをしている人々。
 もう一つは、
 自然の中で思いのままに暮らす人たちにとって、貨幣価値というのはあまり通用しなくなる。お金を稼ぐことを目的としていないため、貧乏ではあるが、悠々自適ともいえる生活を送る人たちもいる。そんな人たちも貧困層に入っているのだ。(p.39)
 「だったら、絶対貧困層、バンバンザイじゃん」と思う。
 「多額のローンを抱え返済のために働かざるを得ず、カネに窮々とした人生を過ごしている日本人は、インドの絶対貧困層より、ズット哀れじゃん」と思う。

 

 

【多民族国家】
 インドは世界でも有数の多民族国家であり、同時に多言語社会でもある。人種は大きく北と南に分けられ、言葉の面でもアーリア語系とトラビア語系の2つがある。なかでも言語はこまかくわかれており、公用語だけでも200以上、存在が確認されている言語は1400語以上に上るといわれている。(p.42)
 トラビア語とあるけれどドラヴィダ語の間違い。
 それにしても、国土面積が日本の9倍で1400語あるってスゴイ数。面積比で換算すると、日本国内に155の言語があることに相当する。平均して各県に言語が3つ。ありえないでしょう。
    《参照》   『第三の道』 糸川英夫 (CBS/ソニー出版) 《前編》
              【インド・ルピー】

 

 

【インドの出版物】
 インドでの出版物は英語の本が多い。・・・中略・・・。ベンガル語の出版物などは、あれだけたくさん人がいて、コルカタを中心にした言葉でありながら、年間で100冊もないという。もっと広い範囲でいうと英語の本は年間2000種類ぐらい出ている。それで、インドで出版されている本がロンドンで売られていたりするのだ。(p.49)
 ネットで調べると、
 ベンガル語人口は2億で、年間出版数は100冊。
 一方、日本は1.2億で、8万冊。
 人口を勘案した、ベンガル語:日本語 の出版比は、100÷2:8万÷1.2 = 50:66666 =1:1333 
 つまり、日本の書籍出版数は、ベンガル語圏の1千333倍。
 日本は、無駄に多すぎるけれど、ベンガル語圏は、少なすぎるだろう。
 いずれにせよ、日本の出版数は、ダントツ世界一であるのは間違いないから、日本の一般庶民の教養レベルが世界一であることは間違いない。

 

 

【「ジャパニーズ」と聞かれて・・・】
 「イエス」と答えると、すごくほっとした表情になり、持ち前の人懐っこさが顔を出す。・・・中略・・・、
 逆に、もし「チャイニーズ」と答えたら大変なことになるだろう。良い扱いを受けないことはおろか、ジャーナリストならば追い返される場合もある。(p.63)
 なぜかというと、インドと中国の間に国境紛争があるから。
 しかし、2001年の9・11を契機に、中国とインドの国境紛争は「闇の支配者」による策謀であったことを、両国とも知るようになったはずだから、再び中印の国境紛争は起こらないはずである。政府レベルでのインドと中国の歩み寄りはあったにせよ、インド現地人の中国人に対する警戒心がなくなることは多分ないだろう。民族性の問題である。
   《参照》  『中国が目論む世界支配の正体』 ベンジャミン・フルフォード (扶桑社) 《前編》
            【インドと中国の歩み寄り】

 下記リンクを辿る場合は、9・11以前に書かれていたモノであることを念頭に置いて読んでください。
   《参照》  『アジア黙示録』 五島勉 (光文社) 《後編》
            【インドと中国】

 

 

【ボンベイ証券取引所】
 ボンベイ証券取引所は、アジアで一番古い由緒ある証券取引所だ。・・・中略・・・・。 そんなボンベイ証券取引所だが、銘柄は30と少ない。・・・中略・・・。この銘柄にはアメリカ企業が1社も入っていない。・・・中略・・・。そのなかで、日本企業のマルチ・スズキとヒーロー・ホンダが入っているのは素晴らしいことだ。(p.66-67)
 「へぇ~、ホンダもぉ」と思ってしまった。
 スズキは当然として、インドにおけるホンダに言及している著作を読んだ記憶はない。

 

 

【デリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)構想】
 デリー・ムンバイ間の約1400㎞に貨物専用新幹線を敷設し、この沿線地域のインフラを充実させるデリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)構想と呼ばれるプロジェクトが始まっている。官民協調型のビジネスとしても注目されているDMICの対象地域は、日本の面積を上回る約51万㎢。これはインドの国土の約16%に当たる。全6州にまたがってインド全体の約4割のGDPを生み出すという規模で、日系企業の約8割が進出している。(p.74)
 日本を徹底的にカモっている「闇の支配者」たちの影響力がなくなれば、このプロジェクトは、日本経済を強力に押し上げるに十分な規模がある。