《前編》 より

 

【資金調達】
 私はほとんどの時間を、資金調達に費やしていた。集められる金額はどれだけ力を注いだかに比例するのであって、支援者の金銭的な余力や優先順位によって決まるのではない、と私は考えていた。一生懸命やればやるほど、資金的には安定するのだ。(p.93)
 TFAの立ち上げの最初から、様々な企画を実践しつつ、その経費や、リクルートした人たちの給料増加分まで、すべて財団や篤志家などから資金を調達するのが、中心メンバーの仕事である。
 アメリカでは、寄付額は非課税となる為、企業が資金提供する財団がたくさんあり、この点において日本とは大きく異なっているのだけれど、財団とて、無作為に資金を提供するのではない。事業計画とその意義をきちんと提示しないことには、どこだって提供してはくれない。
 ところで、このテンテコ舞いの著作前半部分を読みながら、何度か語られているこの資金調達のプレッシャーが痛くて、読むのがつらくなるのである。「ここでこれだけ集まらないと、TFAは頓挫」という状況は、軌道に乗っている現在、結果的に笑い話で済ますことができるけれど、その時その場面は痛いですよ。
 漸く黒字になったのは、立ち上げから5年目。ということは、中心メンバーたちは給料減額で頑張っていたということだろう。
 この本が書かれたのは、TFA立ち上げから18年目らしい。初期の頃TFAに参加していたメンバーが、それぞれに公職や別の企業の役職につき、現在は、そういったかつての人脈によって、資金調達が軌道に乗っているらしい。

 

 

【階層はなく、給料は一律】
 ティーチ・フォー・アメリカでは、すべての決定は合意のもとになされ、創業者から受付まで全員が、成功のために等しく努力する。そのような組織になると私は思い描いていた。階層は不要だ。仕事は異なるけれど、私と他のだれとのあいだにも階層は存在しない。すべてのスタッフの収入が2万5000ドル。すべての意思決定は、定例の月曜夜のミーティングで下される。(p.101)
 格差社会の元となってしまっている、教育格差を何とかしようと集まっているTFAの若者たちが、肩書格差や給与格差を志向するはずはない。
 これから地球上で栄える組織は、脱貨幣経済社会を前提とした組織だけになる。ゆえに、階層はなく、給料は一律でいいのである。人より多くのカネ、立派な肩書とそれに相応しい車の所有という発想がごく普通に出てくる、というか、当然と思っている人には、大した知性もなければ愛もない。分かりきったことである。
    《参照》   『「逆」読書法』   日下公人  HIRAKU
              【人生反比例法則】
    《参照》   『プレアデス星訪問記』 上平剛史 (たま出版) 《前編》
              【階級制度と貨幣制度は不要】

 

 

【アメリカの教員採用事情】
 教育学部は学区のニーズを満たすほどには、聡明で多様な教員志望者を供給していなかった。そこで学区によっては、教員免許を持たない人でも教えられるよう「別ルート」をつくり出すところもあった。だがこうしたプログラムは、真に優れた人々を引き付けるような、強力なリクルート戦略を備えていなかった。(p.115)
 日本とは違うアメリカの教員採用事情が分かる。このような状態だからこそ、TFAが優秀な人を採用し、訓練を施した後、教師として各学区へ送り込む、という企画プロジェクトが意味を持つ。
 「学区をサポートして、新任の先生のリクルートと選抜、教育、トレーニングについて、有効な方法をいっしょに開発すような組織を立ち上げたらどうだろう」
 リチャードやイアンらとともに、私は「TEACH!」と名づけた組織を構想しはじめた。(p.117)
 「TEACH」は、後に、TFAからは独立した連携組織になるのだけれど、TFAが成長する過程で、新たに遭遇する課題やトラブルをクリアしつつ、スタッフが学んでゆく状況が分かりやすく描かれている。
 TFAから民間企業へ、マッキンゼーのようなコンサルティング会社からTFAへというような、人的流動性の高いアメリカ社会だからこそ、難題がクリアできるという側面はかなりあるだろう。
 ところで、こういうダイナミックな組織と人の成長過程を学べる本って、日本には余りないような気がする。

 

 

【順調】
 ある校長はこう言った。
「コープ・メンバーはだれよりも早く学校に来ていますよ。これまでとは違うやり方ができるとわかっているから、とても自信をもっているようです。実際、彼らは別の地域の出身なので、私たちに必要な、異なる視点を提供してくれています」
 こうした訪問により、私たちはさらに信念とエネルギーをもって仕事を遂行していくべきだと、私は確信するようになった。なぜなら、ティーチ・フォー・アメリカがうまく機能しているだけでなく、ティーチ・フォー・アメリカに対するニーズが非常に大きいからだ。(p.198)
 アメリカを“変える”という目的意識が明確な、現場で働いているメンバーたちの実績こそが、最高の推進力である。
 私はクリントン大統領から1メートルほどのところに座っており、こんなことが現実に起こっていることに驚いていた。・・・中略・・・。
 クリントン大統領の対人スキルとすばらしい才能を直接見ることができたのは、とても貴重な経験だった。そして私にとっては、この夜が物語っていることを考えると感動的だった。ティーチ・フォー・アメリカは、ここまで来られたのだ。他のゲストの一人が、後日メールをくれた。
「やってきたことが認められましたね」 (p.213-214)

 

 

【理想未満】
 私を動かしつづけているのは、わが国に根強く存在する不平等に対する怒りだ。・・・中略・・・。アメリカにおける富める人と貧しい人のあいだの学力ギャップは、ほかの先進工業国のほぼすべての国より大きい。・・・中略・・・。自らをチャンスの土地だと信じている国としては、この状況に怒りを覚えるべきだ。自分たちの国に対して描いている理想を実現するには、状況をよくしなければならない。(p.270)
 コップさんがホワイトハウスでクリントンに会っていたのは2000年以前。2001年にブッシュが就任して間もなく、9・11というヤラセ戦争経済スタートの口火を切り、格差社会促進暗黒路線にターボがかかってしまったのである。
 ダークサイドの組織を背景とした権力者たちが、背景ごと入れ替わらないことには、コップさんたちの理想は、社会に定着しない。しかし、今年の秋、新たに決まるアメリカ大統領は、ティーチ・フォー・アメリカの設立目的を、急速に実現させるかもしれない。
 MITで学んだ大前研一さんが、アメリカの教育の優れた面ゆえに、アメリカは滅びないと書いていたけれど、アメリカにはコップさんのような志を持つ人々がたくさんいるのだから、アメリカは権力構造が変わりさえすれば、それこそ急速に再生するだろう。
    《参照》   『さらばアメリカ』 大前研一 (小学館) 《後編》
              【So long, America! …. until you come back to yourself.】

 

 

<了>