《前編》 より

 

【給料・物欲】
 昇進や給料について、社内でおかしな声が上がることはなかった。もとより、村上たち役員に、権力欲や金銭欲のようなギラギラ感がまるでないのである。
 例えば、第2期の半ばから、営業アルバイトは成功報酬の給与支払いにしていた。上限はあるものの、頑張れば頑張っただけ給料が上がって行く仕組みだ。
「中には、社員の給料はもちろん、役員の給料を超えてしまう学生アルバイトもいました」
 おかしなプライドがあれば、学生アルバイトが自分たちよりももらうなんてありえないと思うかもしれない。だが、村上たちには、そういう意識がまったくなかった。頑張ったら評価してあげたい。役員を超える報酬をもらって構わない。そういう空気が社内にもすっかり浸透していた。(p.153)
 会社を作り利益を上げる仕組みを作ってきた創業者たち役員であっても、これだけ金銭に淡白なのである。新時代の経営者はこういうことが普通にできる。
「考えてみれば、子どものころからそんなにお金を使ってないんですよ。個人として特に欲しいモノはないです。そもそも買い物が苦手で(笑)。疲れちゃうんですよ」
 今では、買物はほぼネットで済ますという。
 ブランド商品にも、まったく関心はないと語る。
「今の若い人は、かつてよりもブランドに関心がないと思います。時計にしても、バッグにしても、機能性のほうが大事という人は多い。ブランド物を持っているからといっても、自分が大きく見せられるとはまたく思いません」
 村上は、同じものを長く使う。あまりにバッグがボロボロだったので、役員に怒られたことがあるという。(p.157)
 利権目あてで市町村長になり、高級車で我が身を飾り、地域活性化のための努力は形式程度にしかせぬまま、恣に行政資金を身内で分配しているような劣性人間たちは、移り行く時代精神によって、おのずと退場を余儀なくさせられることになるだろう。

 

 

【ブレない軸】
 ブレない軸がある人は強い。どうしたらそのような軸を見つけることができるのだろうか。
「私の場合は、過去を振り返って、自分がどんなときに楽しかったのか、どんなときにうれしかったのかをひたすら考えました。そこに、ヒントがあると思っていたんです」
 村上は、後にアップルの創業者スティーブ・ジョブスの言葉を聞いて、まさにそうだと納得したという。
「ジョブスは、やりたいことを見つけなさい、そのためのヒントはあなたが歩んできた道を掘り起こせば絶対にある、といっていました」
 ・・・中略・・・。やがて気が付いた。人は幸せになるために生きている。自分にとっての幸せは、相手に喜んでもらうこと、人を幸せにすることで生まれて来るものなのだ、と。(p.201)
 これが、本書のタイトルであり会社の名前である 「リブセンス(=生きる意味)」 の意味。

 

 

【自己犠牲的ではなく自己実現的でなければ】
 村上は、第2期で、ようやく給料が20万円になったころ、早速バングラディッシュの子どもの里親になっている。東日本大震災のときも寄付をした。
 ただ、こうした行為について、彼はとてもドライに捉えている。
「もちろん、誰かの役に立てればうれしいです。でも、寄付はやっぱり自分のためなんだと考えるようにしています。自分の身を削って誰かを助けるのではなく、自分のために、自己実現として、寄付をするんです」
 実のところ、“幸せから生まれる幸せ”という経営理念も、同様にきれいごとにするつもりはないと語る。
「自己犠牲的ではなく自己実現的でなければいけないんです。実際、人を幸せにして自分が幸せになるのは、自分のためだからです」
 自己犠牲的なスタンスでしていることには、弱点がある。自分が社会のために行動しても評価されなかったとき、「これだけしてあげたのに・・・」という卑屈な気持ちになってしまう。
 だが、自己実現的なスタンスで行動すれば、他人の評価は気にならない。自分のためにやったことだからである。(p.203-204)
 以前、スピ系セミナーで、寄付行為について、「ドーパミンだかエンドルフィンが分泌されて、脳が快感を感じる。それだけのこと」と言っていたのを聞いて、心の中で「ブ~~~」とブザー音が響いていたものである。こんなのは極度のサイテーだけれど、寄付行為を自己犠牲的な慈善事業として位置付けて行うと、義務的な行為になってしまうだろう。それでは本質的な“愛”にならない。
 「情けは人の為ならず」という諺は、「自己が全体の一部であるという確かな認識」から生まれているエネルギー循環論である。この循環するエネルギーに溶け込めば自己実現はしやすい。近年の若者たちの多くはスターシードだから、自己実現とハート♡が近しい関係にあることを能書きなしに知っている。淀みなく循環するエネルギーの本質こそが“愛”だからである。

 

 

【若者の、働く動機】
 “幸せから生まれる幸せ”
 この理念には、もうひとつ側面がある。
 ほかの人を幸せにするために働くと、人間は自分の力以上に頑張れるのだ。
 村上は、自分たちの働くモチベーションについて考えているときに、ある本を見つけた。
 アメリカで「ティーチ・フォー・アメリカ」という非営利団体を立ち上げたウェンディ・コップが書いた 
『いつか、すべての子供たちに』 ウェンディ・コップ (英治出版) という本である。
 ティーチ・フォー・アメリカは、全米の優秀な大学の卒業生を、2年間、環境の劣悪な公立小学校に派遣する活動をしている。教育改革において大きな成果を上げたと賞賛され、その団体は2012年に全米の文系大学生の就職先人気ランキングで3位になった。
 村上は、この本を読んで、「自分たちとモチベーションがまったく同じ」であることに気づき、驚いたという。 (p.205)
 アメリカのエリート大学を出た若者たちは、もはや“給料”ではなく“やりがい”をモチベーションとして、就職先を選択しているのである。
 ところが、12チャンネルの経済番組であるWBSは、アメリカの粉飾された経済動向指数を、いまだに真顔で伝えている。旧体制維持の片棒を担いでいるのである。しかし、スピリチュアル先進国であるアメリカ人の意識の底流は、もはやモノを離れた生き方にシフトしているのである。
 本来、3・11を経験した日本人が先導すべき精神性なのに、愚鈍さにおいて盤石な公務員を筆頭に、日本人の意識は殆どシフトしていないだろう。だから、首都機能停止を免れられない。フクイチの放射能によって洗礼され、意識が進化していない人々は続々と落命し、かろうじて生き残った日本人が、変異種として世界を先導することになるのかもしれない。その可能性を有するのは、あえてこの時代に日本に生まれ、日本で「生きる意味(=リブセンス)」を自覚している魂たちのみだろう。
   《参照》  『ギャラクティックファミリーと地球のめざめ』 ジャーメイン&サーシャ(リサ・ロイヤル)《後編》
             【日本人と放射能問題】
             【一体意識への先導役】

 

 

【もはやお金のために働かない時代】
 「お金のために人は働かない。それはもはや大きな流れです」 (p.206)
 自分のモチベーションがどのようにわくかを考えたとき、この本に書かれていることがピッタリ当てはまって驚きました」と村上は語る。(p.207)
 この本とは、『モチベーション3.0』 ダニエル・ピンク著
 生存を守るために働いていた原始時代を、「モチベーション1・0」
 アメとムチによって働かされていた工業化時代を、「モチベーション2・0」
 そして、もはやお金のために働かない時代、それを「モチベーション3・0」と言っている。

 

 

【普通の人の勝ち方】
 サッカー日本代表のキャプテンという重責を担っている選手だが、天賦の才能で華麗なキャリアを築いてきたわけではない。
「この本には、普通の人の勝ち方が描かれていると思ったんです。なぜかというと、私自身も普通の人間だから。特別な才能があったわけではありません。だから、長谷部選手が普通の人の勝ち方を目指して愚直にやっている姿勢に共感したんです」 (p.207-208)
 卓球日本女子のキャプテンになった福原愛ちゃんが、サッカー日本代表のキャプテンだった長谷部選手と対談する番組を見ていた時、愛ちゃんは、たくさんの付箋を貼ったこの本、(『心を整える』 長谷部誠・著)を手にしていたっけ。
 なので、読んでみようと思って、この本、買い置き書架にあるのに、まだ読んでいない。(その後、読んだ)
 読み手によって、印象に残るところは当然違ってくるけれど、著者さんは、上記のように書いている。
「欲しいのは精神的な豊かさだと思うんです。それ以外は普通でいい。普通で十分なんです。実際、無理に普通を超えた成長を目指そうとして、社会がおかしくなってきたのではないでしょうか」 (p.207-208)
 目標を達成するために、「自分は特別だ」と暗示をかけて自分を奮い立たせるのではなく、「自分は普通だ」と認識して自分を活かそうとする。そして、成果を上げた後も、「自分が特別だ」と驕るのではなく、「自分は普通だ」と謙虚になる。
 これが村上の取り組み方なのである。 (p.209-210)
 日本が大幅に変革できるとしたら、著者のような「自分は普通だ」と語る人々の力の結集によってなされるのではないだろうか。
 思うに、多くの人々によって崇敬されている 伊勢神宮は、とても簡素な造りである。お宮に限らず、何もかもが簡素で統一されている。日本においては、そのような伊勢神宮が格式のトップであり、周辺の神社ほどケバケバしく派手である。
 従来の成功という視点でみれば、普通の人々は、弱小な者、劣位な者かもしれない。しかし、簡素に暮らしている普通の人々こそが、日本精神の中枢となって日本を守る砦となっているはずである。
 多少の権力を有し、それなりの地位にあるからというだけで、他を見下す性のある人間は、それがどこの誰であれ、日本国にあっては相応しくない。
 今さらながら、リブセンス(生きる意味)を問う真摯さを有する企業家たちは、この本を手に取ってみるのがいいかもしれない。
 リブセンス社長「村上」の名前である「太一」は、伊勢神宮にゆかりある名前である。
    《参照》   『古代天皇家「八」の暗号』 畑アカラ (徳間書店) 《前編》
              【「内宮」と「荒祭宮」:天照大神と北極星神】

 

 

<了>