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 史上最年少上場を果たした企業経営者(村上太一)を取材した著作。タイトルはその企業名。
 著者による前書きには、「日本も捨てたもんじゃない、こんな若者がいるのだ、ということを多くの人に知っていただけたら、こんなにうれしいことはない。」(p.7) と書かれている。チャンちゃんもそう思って、この読書記録を書いている。2012年9月初版。

 

 

【成功報酬型・採用広告】
 街を歩いていると、飲食店などの店頭に「バイト募集中」という張り紙がある。しかし、そのバイト募集の情報は、ネットにはなかったりする。
 広告費が出せなくて、サイトに掲載できない募集の情報が、実は世の中にはたくさんあるのだ。(p.23)
 そこで、考え出したのが、「企業は広告を無料で掲載でき、アルバイトの採用が決まった場合だけ広告料をジョブセンスに払い、ジョブセンスはその一部を“採用祝い金”として、採用者に提供する」という仕組み。
 ジョブセンスは、リブセンス傘下の企業名。
 今日では、“成功報酬型”のこの方法は常識になっているらしいけれど、従来の“広告料ありき”という常識を、最初に覆したのが村上が率いる学生のみの会社だった。
 インターネット技術あってこそ可能になった方法だけれど、資本金300万円でテイクオフに成功できた要因のひとつに、長期間無報酬でも平気な学生感覚があったらしい。

 

 

【採用祝い金】
「よくある質問、なぜ採用祝い金をもらえるのですか?
 なぜなら、たくさんの人に幸せを届けられるサービスでありたいからです」
 お金がなくてバイトを探しているのに、バイト探しには交通費などの費用もかかる。それで生活が圧迫されては大変だ。リグセンスはこう考えたからこそ、採用祝い金を始めたという。(p.27)
 これも、学生だからこそ出てきた発想だろう。収益優先のオッサン頭からは出てこない。なおかつ、オッサン頭は、「採用祝い金を出すということは、それだけバイト料から、ピンハネしているというだけだろう」と考えてしまいやすい。しかし、どうもそうではなく、それなりに利益率を落としてやっていたらしい。
 そして、もうひとつリブセンスが勝ち続ける理由があると思う。
 それは、本当に「顧客の幸せ」を考えてビジネスを行ってきた、ということだ。
 100社以上もの競合が参入したということは、「学生ができるのだから簡単に真似できるだろう」といった思惑もあったのではないか。だが、実際には、簡単には真似できなかった。
 なぜなら、リブセンスは、本気で「顧客を幸せにしたい」と考えていたからだ。(p.32)

 

 

【25歳社長の秘密】
 上場が決まって、それまでよりも狭い部屋に引っ越したのである。
 しかも、学生も住んでいるような、家賃も手ごろなマンションだ。(p.36)
 部屋には、ほぼ机とベッドしかないと書かれている。それと仕事に必要なパソコン。
 上場経営者になっても、資産家になっても、自分が変わることがない。これまでと同じように暮らし、仕事をし、友だちと酒を飲むときも安い居酒屋に行くという。どこにでもいそうな25歳のままでいるのである。(p.37)
    《参照》   『透明人間の買いもの』 指南役 (扶桑社)
              【ビルを新築すると業績が悪化する】

 肩書が変わり収入が増えたら、それに合わせて高級マンションに高級車というのがありふれたところだろう。
 そういう凡庸な人間こそ、この本から、日本と世界を変革しうる若者の精神性を学びとるべきである。
 興味深いのは、会社をこうしたいというイメージがあっても、村上自身がどうなっていたいかというイメージがないのである。こういう生活を送りたい、こんなモノを買いたいという“欲”がないのだ。
 インタビューを通じて感じたのは、明らかに上の世代とは感覚が異なるということだ。とりわけ、自分の欲求というものが、驚くほど希薄である印象を受けた。(p.196)
 おそらく、「あなたの目標は何?」「何になりたいの?」「何がしたいの?」と聞かれても、明確に答えることができる若者の方が少ないはずである。“欲”が少ないがゆえに目標や目的が明確でないことは罪ではないし、周りからブーブー言われる筋のことでもない。
 その場合は、「リブセンス(生きる意味)」を考えるという視点で、自分を見出していくのも方法である。リブセンス経営者の村上太一は、自分探しというより、生きる意味探しの答えが、ビジネスに重なっていったらしい。

 

 

【理不尽なルール】
 高校時代テニス部に属していた。
 先輩に会ったら、どんなに遠くでも走って行って挨拶しないといけないんです。・・・中略・・・。もし、先輩に挨拶しないと、これまた走らされる。体育会ならではの不条理な命令だ。
 企業家の中には鼻っ柱の強い人も多い。中には、こうした理不尽な命令にはどうしても従えないという人も少なくなかったのかもしれない。
 だが、村上は、素直に耐えた。
「ルールが決まっているわけですから、それにいくら反発しても仕方がありません。ルールの中で最大限頑張るしかない。そうきまっているのであれば、いくら理不尽であってもやり抜きます。たとえ、ムカムカしても、投げ出したくないですから」
 ただ、3年になり、村上が部長になると、この挨拶の慣行は廃止した。理由は、理不尽だから、である。(p.43-44)
 世の中に理不尽なことはテンコモリある。それを無批判に受け入れて、何も変えようとしないのが普通の人であり、正義不在で才知に長けた人は、その理不尽さを最大限利用しさえする。
 悪弊に満ちた世の中を変革する人は、理不尽に対する忍耐力と、然るべき立場に立ったらそれを終わらせるという明晰な判断力を持っているだろう。
    《参照》   『極』 室館勲 (リーダーズクリエイト)
              【向上心というスイッチ】
 ビジネスの一番の魅力は世の中の課題を解決できることではないか、ということでした。不便だと思うものを解決するのがビジネスの基本だと。(p.54)

 

 

【人に求められるような生き方】
 中学校に呼び出された後、親に事情を聞かれ「自分は悪くない」と答えた。ところが、実際には自分にも非はあった。それでも、親に「わかった。信じるよ」といわれ、心が苦しくなった。そんなことをよく覚えている。
「そのとき、ウソをつくのはやめよう、と思ったんです。もう人にはウソをつきたくないと」 この思いは、後に作られるリブセンスの理念にもつながっていく。
 相手を騙してでも、自分の利益につながることをする。そういう生き方ではなく、正しい生き方をするべきではないか、とうことだ。相手を幸せにできるような、人に求められるような生き方をしなければならない、と。(p.46)
 人生で初めてウソをついてしまった時のことを、今でも痛く覚えている人なら、年齢に関わりなく、この記述に打たれることだろう。
 何とも思わずに読めた人は、できれば経営者になって欲しくない。なっても、従来型の「自社利益優先で社会のことは二の次」という経営しかできないだろうからである。それでは、畢竟するに、進化しつつある地球意識に置いていかれるだけだからである。

 

 

【営業アポ】
 「電話をかけても、やっぱり最初は断り続けられましたね。でも、幸いにもテレアポ断られるのは慣れていました。テレアポは断られてヘコんでいるとダメなんですね。ドンドン切り替えていく。営業は精神状態が大事ですから」(p.101)
 売り上げの多寡は顧客の滞在時間に比例するのと同じように、営業の成績は顧客と接する時間の長さに比例する。売り上げは、不特定多数の顧客が来てくれるための工夫をすればいけれど、営業は、個々の顧客に出向くための工夫が必要。
 その場合の、最も基本的なスタート地点が電話による営業アポだけれど、トーク術としての工夫もさることながら確率論として割り切る知性を具えていないと、誰だってトコトンヘコタレテしまうだろう。
    《参照》   『営業効果を最大化する25のアイデア』 ステファン・シフマン (PHP研究所)
              【確率のゲーム】

 

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