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 静岡県の藤枝東高校から浦和レッズを経てドイツのフォルクスブルグで活躍している長谷部選手。2010年と2014年のワールドカップでは、日本チームのキャプテンをしていた。凛々しく生きる雰囲気を感じさせるタイトルの本だけれど、それに相応しい内容である。一番最後のあとがきまで全部読み終わった時、思わずパチパチパチパチって拍手してしまった。2011年3月20日初版。

 

【ドイツの諺】
 ドイツには「整理整頓は、人生の半分である」ということわざがある。
 日頃から整理整頓を心がけていれば、それが生活や仕事に規律や秩序をもたらす。だから整理整頓は人生の半分と言えるくらい大切なんだ、という意味だ。
 このことわざに、僕も賛成だ。
 試合に負けた次の日などは、何もしたくなくなって、部屋が散らかってしまうときがある。・・・中略・・・。そんなときこそ、整理整頓を面倒くさがらなければ、同時に心の中も掃除されて、気分が晴れやかになる。(p.19-20)
    《参照》   『考えない練習』 小池龍之介 (小学館)
              【自分の心を広く見渡す能力】
    《参照》   『超オンナ磨き』 IKKO (アスコム)
              【心の透明度を上げる方法】

 

 

【心を正しく整える】
 愚痴だけでなく、負の言葉はすべて、現状をとらえる力を鈍らせてしまい、自分で自分の心を乱してしまう。心を正しく整えるためにも愚痴はいらない。(p.27)
 愚痴や負の言葉を言わないことと、整理整頓は、いずれも心を正しく整える効果がある。
 たとえば、地元の同級生に会うと会社の上司の悪口が出てくることがある。そんなとき僕は、「本人に直接言おうよ」とやんわりと流れを切るようにしている。聞かされる方も気持ち良くないし、言っている本人にとってもマイナスだと思うから。(p.90)
    《参照》   『水人』 中里尚雄 (扶桑社)
              【悪口は苦手】
 こどものときから特定の友達と一緒にいるというよりは、誰と誰が仲がいいというのはあまり意識せずに、みんなと遊ぶようにしていた。中学生のときには、みんなから無視された子とあえて一緒にいたこともあった。(p.90)
 周りの情報に振り回されて、接する人を選ぶことのマイナスが p.130 にも書かれているけれど、誰に対しても分け隔てなく意識を向かわせようとする人って、つまり意識レベルが高いのである。

 

 

【チームを整える】
 今後、日本代表や所属チームで誰がキャプテンになろうが、チームを整える存在として僕は全力でサポートするつもりだ。(p.74)
 例えば、こんなふうに、
 自分のことだけではなく、チームメイトがまわりに迷惑をかけるようなことをしていたら、すぐに注意するようにした。「ミーティングでも言ったように、それは気を遣えるはずだ」と。 (p.229)
 ワールドカップのキャプテンをしていた時には、年齢が上の選手、下の選手、控えに回る選手たち、全てに対して“上から目線”にならないよう、常に注意して言葉を選んでいたことが、記述されている。
 日本チームのキャプテンになるに相応しい選手である。さすが。
 整えるのは、チームメンバーのメンタル面だけではない。
 当然ながら、試合にも出たいし、何よりも勝ちたい。だから僕は自分がチームのバランスを最優先で考え、エゴが強い選手を支えようと考えた。そうすれば目立たないかもしれないけれど、必要とされる選手になるはずだと。マガト監督が日本人を獲得した狙いも、きっとそこにあった。(p.96)
 ドイツへ移籍間もない選手であった時も、チームを戦術的バランス面で“整える”役割をはたしている。

 

 

【過剰な自意識】
 僕はプロに入った当初、よく「胃薬」のお世話になった。(p.21)
 ところがドイツでプレーし初めて1年がたち、2年が経つと、・・・中略・・・。気が付いたら僕は胃痛を完全に克服していた。
 ブンデスリーガで優勝して自身がついたこととも関係しているだろうし、日本代表に定期的に招集されるようになったことや、読書に力を入れるようになったことなど。いろいろな蓄積があって克服できたのだと思う。
 また、大きかったのは「鈍感」になれたことだと自分では思っている。
 ドイツに来てしばらくすると、周囲の人は自分が意識しているよりもはるかに、僕のことを見ていないことに気がついた。簡単に言えば他人に関心がないのだ。・・・中略・・・。ドイツ人に倣ってまわりが見ていないと思うようにしたら、急に開き直れたのだ。(p.23)
 自意識って、たいてい誰だって若い頃はテンコモリあって、年齢と共に次第に減ってゆくもの。ただ、減り過ぎて綾小路きみまろのネタにされるオバちゃんのようになってしまうのでは、ちょっと困る。
 読書は総じて、内に向かう意識を培うものだから、積み重なれば、必然的にある程度は自意識をコントロールできるようになる。逆にいえば、自意識の様相で、その人の教養の度合いを測ることもできるということ。

 

 

【ひとりでいる時間】
 レッズ時代、僕は試合に負けたり、何か悩みごとがあるときは、ひとりで温泉に行くようにしていた。ひとりで行くなんて暗いと思われるかもしれないけれど、その孤独な時間に意味がある。(p.31)
 イギリスの文豪トーマス・カーライルは、こんな言葉を残している。
「ハチは暗闇でなければ蜜をつくらぬ。脳は沈黙でなければ、思想を生ぜぬ」
 まあ、僕の考えはこんなに哲学的ではないけれど、沈黙、すなわちひとりでいる時間はとても大切な時間だ。(p.41)
   《参照》   『孤独力』 津田和壽澄  講談社
 チャンちゃんは「映画だとか温泉なんて、ひとりで行くに決まってるじゃん」と思っているけれど、有名人の長谷部選手がひとりで温泉いくと、怪訝に思われることがあるらしい。
 僕はこの本で、ひとりでいることの大切さ、中立的な立場であることの重要さを書いていくけれど、それはひとりよがりになることではなく、身近な仲間や先輩から、それぞれの良さを積極的に吸収することも忘れないようにしている。(p.49)
 せっかく人の来ない山の中の温泉に行って、一人で入っている時に、誰か来たりすると結構がっかりするものだけれど、そんな時は、逆に話しかけてみると、かわった情報が得られる可能性が高い。そもそも、温泉に一人で来るような人は、良きにつけ悪しきにつけ平均的ではないのだから。(平均的≒平凡だろう。そういうのはつまらない)

 

 

【読書】
 幼少の頃から本に親しんできたわけではなかった。本を読み始めたのはプロになってから。きっかけは、とある先輩が移動中に本を読んでいる姿を見て、カッコいいなぁと思ったから・・・。・・・中略・・・。ドイツに行ってからは哲学系の本が圧倒的に増えた。それはデール・カーネギーの『人を動かす』という本に出会ってからだ。ドイツではひとりでいる時間が増えて、よりサッカーや人生のことを深く考えるようになったからというのも関係しているだろう。(p118)
 長谷部選手に、『人を動かす』はかなり合っていただろう。チャンちゃんは学生時代に読んだカーネギーの本が、今でもほぼ一式書架に在るけれど、量の割には、ほとんど覚えていない。その理由がよく分からないのだけれど、一匹狼的生き方が実に快適だった頃だから、周波数が合わず内容に入り込めなかったからなのかもしれない。
 先人の知恵や同時代を生きる人の言葉からヒントを得る。それを自分に当てはめて自分の考えを掘り下げてみる。僕にとって読書は心を落ち着かせてくれると同時に、自分の考えを進化さてくれるものである。(p.124)

 

 

【積極的に孤独になろう】
 最近読んだ本で心に染みたのは、『幸せを呼ぶ孤独力』(齋藤茂太/青萠堂)だ。積極的に孤独になろう、と呼びかける本ですごく共感した。(p.123)
 僕は一人の時間を大切にしている。孤独を勧める齋藤茂太さんの本は、まさに自分の気持ちを代弁してくれている。(p.124)
 幼少期に十分愛された人は、孤独をポジティブに活かした生き方ができる。十分愛されなかった人は、孤独を怖れ、ネガティブな状態だと思い込んで、徒に群れようとして空虚な時間を過ごすのである。
   《参照》   『子どもが孤独でいる時間』 エリーズ・ボールディング (こぐま社)
              【孤独が当然】