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 たいそうストレートなタイトルである。
 

 

【抽象的・概念的思考】
 文字の発明、本の出現は、人間に<抽象>の能力を与えました。口承が耳からの音声という身体記号を通した直接的・原始的なコミュニケーションだったのに対し、目から文字を読む書物は 「自分自身との対話」 を可能にしました。つまり、頭脳を使った抽象的・概念的思考を可能にし、そこから思考も芸術も生まれ、文化が花開いたのです。(p.36-37)
 人のもつ語彙の多寡というのは、殆ど “抽象的な概念用語” の多寡によっているのではないだろうか。大学時代、国語辞典ですら手垢で汚れるほどに使いこんでいたのは、先輩たちが語り合っている高踏的な世界にづいて行きたくて、話の中に出てくる哲学や科学で用いられている “抽象的な概念用語” を自分の脳の中に定着させんがためだったことも主要な目的の一つだった。
 これらの用語は、日常生活には必要のない言葉ばかりであるけれど、これらの用語なしにじっくり考えることは不可能なのである。つまり、日常的な言葉しか知らない人は、考えることが深くはならないのだし、考える習慣すら身に付かない傾向がある、ということではないのだろうか。だから知力が発達しない。
 つまり、能力を高めようと思ったら、簡単な本ばかり読んでいたのではあまり効果がないことになる。難しい用語で語られた文章を、最初は辞書を引きながら、ある程度すらすら読めるようになることが必要なのだろう。
 難しいことを理解しようとすることによってのみ、脳はその構造を変え能力が高まることが知られています。(p.28)
 英会話に不自由しない帰国子女が、英語の外書購読で単位が取れないという事例があるそうだけれど、日本語においても同じことが言えるはず。日本語を話せても、わずかばかり込み入った日本語を読みこなせない日本人は少なくないはずである。
 いくら本を読んでいても、それが小説ばかりというのであれば、たぶんあまり知力は発達しない。


【メディア漬けは 「廃用性の痴呆」 を生む】
 いくら音や映像があっても、一方的な情報の流れをコミュニケーションとは言いません。コミュニケーションとはお互いに言葉を出し、応答することによって初めて成り立つものだという認識がなければなりません。外で安全に遊べる場所がないからと、テレビを一日中つけっぱなしにしたり、少し大きくなった子どもにテレビゲームを買い与え、おとなしく家で遊んでいられるようにしていてはいけません。これでは、幼児期から 「廃用性の痴呆」 を助長しているようなものです。語りかけ、話し合う、このことによって脳は刺激をうけ、鍛えられるのです。前頭前野の発育を促し、「キレない」 子どもを育てるのは親子の緊密なコミュニケーションだ、ということを忘れないでください。(p.120-121)
 読書することによって、知性を司る前頭前野という部位が刺激を受け、脳内に強固な知性のネットワークが形成され、それが能力を高め、脳の老化を防ぐのです。
 高齢化に伴う 「痴呆(ボケ)を防ぐ」 ためにも、少年期の 「異様な行動を防止」 するためにも、脳を活性化する必要があります。(p.5)
 読書する習慣のない高齢者が話し相手のいない一人暮らしになれば、コミュニケーション不足から痴呆症になってしまう可能性が高い。
 一方通行のメディアからは痴呆を予防するプラス効果を期待できないけれど、読書はコミュニケーション以上にプラス効果をもっている。
 活字を読む習慣を身に着けている人は、一人になっても決してボケない。
 

 

【創造力は言語を扱う能力】
 創造力・空想力といっても、私たちはまず言葉を介して考えているので、実際のところ様々な言葉の持つ意味から、何らかの概念を言語を介して融合することによって、初めて空想することができるのです。様々なアイデアを発想するということも、まったく同じ脳内プロセスであると考えられます。「硬直した考え方を打破して、何か新しいアイデアを創造する」、これは現代においてはあらゆる場面で要求される能力です。
 こう見てくると、創造力は言語を扱う能力と実は非常に近いものであることが分かります。きちんとした言葉の能力を持たない人には、創造力を発揮する能力は芽生えないと断定できます。読書をして知識を深め、脳の前頭前野における言語能力を向上させる。これが遠回りなようで、実は最も確実に私たちの創造力を高めてくれる方法なのです。(p.125-126)
 この論述を、日本語と外国語の比較にまで適用すれば、日本人は、世界で最も繊細な創造力を有する民族であるということができる。
  《参照》   日本文化講座⑩ 【 日本語の特性 】 <後編>

    ○《繊細さ》 それは日本語の中に生きている横の秘儀である 【現実世界での日本の優位性】○

 

 

【著者のおすすめ】
 p.167以降の第6章には、これだけは読んでおきたい 「知の源泉380」 と題して、著者おすすめの書籍がズラ~ッと並んでいる。正直なところ 「ウッヘ~、大学の一般教養じゃあるまいし・・・」 という感じの本がたくさんある。でもまあ、これらこそが、もっとも知力を伸ばすのには相応しい、硬くて難解な書籍なのだろう。
 全380冊の中で、過去3年間のこの読書記録の中にたまたま入っている本があった。ジャンルを広げるための本という分類の中に、 『日本人をやめる方法』 杉本良夫・著 が選ばれて(p.193)いる。
 
<了>