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 先日、日下さんと森永さんの合作本を読んで以来、森永さんの話に興味がもてるようになった。この本でも面白いことを書いている。


【中国とイタイアは競合していない】
 私が最近見ていてすごく立派な国だと感じるのは、イタリアなんです。イタリアでは空洞化が進んでいないんです。中国製品と競合していないし、価格競争になっていないからです。 (p.24)

 過日、『日はまた昇る』 ビル・エモット (草思社) の読書記録で、中国とイタリアはミドテクレベルが共通するため、競合関係にある、という記述を書き出しておいたけれど、この本で森永さんは全く反対のことを書いている。
 現在のイタリア経済が不調であるということは確かにどこでも言われていない。ビル・エモットさんがウソを書いていたのか? ウソというより、技術力基準のミドテクという分類から、イタリアと中国は競合すると書いただけなのだろうけど、イタリアは技術力基準ではなく、感性力基準で評価するのが相応しい国だったのである。欧米のエコノミストは数量化できるものでしか考えることができない。感性は数量化できないから彼らの思考対象にはならないのである。日本人であっても欧米で学んだエコノミストは、世界についても日本についても正しく評価できない。


【感性の違いが日中の大きな違い】
 日本とアメリカが、設計図を中国に送ってフィギュアを作らせた場合、全く違うものになる。日本は設計図以外の詳細な仕様まで日本人の感性で指示して作らせるが、アメリカは設計図のみで詳細は中国人の感性に任せて作る。つまり、中国人の感性と、日本人の感性は大きく異なるのである。 (p.165)

 日本人の感性の優位性は日本語の繊細さに起因している。日本人自体が、そのことに気付いていない。アニメの描き方ひとつとっても、日本人の感性が優れているのであって、絵の技法だけの問題ではないのである。技法は真似ができても、感性は真似できない。技術は移転できても、日本人の感性は外国人に移転できない。このことを分かってない人々が、中国を過大評価し、日本を過小評価している。


【技術力とブランド力】
 イタリアのブランド品が欲しいという人々は、実はイタリアの感性を買っていることになる。日本は、かわいいものを作る能力に極めて長けている。かわいいものを欲しがる世界中の人々は、日本の感性を買うことになる。 (p.164)

 製品が持つ付加価値で、製造工程が生み出す付加価値は僅かに10%程度で、90%の付加価値はブランド力が生み出している。日本人の感性が日本のブランド力になるのである。
 日本人の持つ技術力は世界一である。日本人の感性がブランド化されれば、これも大きな付加価値を生み出すようになる。中韓は日本の技術力を買って工作機械を導入し、人件費安のメリットを生かして価格競争力で勝負するだけである。それ以外に見るべきものは無い。


【味にみる文化】
[森永]  例えばケーキを比べると一番よく分かると思うんですが、アメリカのケーキって日本人は二つ食ったら吐いちゃうんですよ。

[ウォルフレン]  それは、たいしたものではいでしょう。 

[森永]  いや、たいしたものなんです。 (p.187)
 このやりとりから分かるように、ウォルフレンさんは、味覚に通ずる感性ということが理解できていないし、感性が技術や経済に及ぼす影響ということについいて洞察力を欠いている。日本で茶道などを学んだと書いているが、日本文化を殆ど理解できていない。
 実際、イギリスやアメリカの食べ物は、まずい。先に産業革命を成し遂げて豊かになってきた国とは思いがたいほどである。英米は工業技術から金融技術へと技術力で栄えてきた国、一方、イタリアやフランスは文化を尊び感性力で栄えている国である。日本は、技術力、感性力、双方のいいとこ取りができる国である。森永さんは、日本はイタリアから学べることが多い、と語っている。


【萌え】
 これは、若者がアニメやフィギュアの世界で感じている雰囲気を表現した言葉であるという。この言葉が、日本のアニメなどに内包されているバーチャル文化のキーワードのようだ。
 正直なところ、私はバーチャル文化には疎くって、「萌え」 の感覚がつかめない。「日本文化が好き」 と言っている最近の日本の若者も、アニメを通じて、能や神道などの日本文化に触れつつあるらしい。アニメなど見たことのない日本の大人達が嘆いている間に、アニメの製作者達が、若者達に日本文化復活の端緒を与えている。アニメは世界中に流布している。避けようも無く、世界は日本化するのである。

 

<了>

 

  森永卓郎・著の読書記録

     『お金に縛られない生き方のすすめ』

     『辞めるな!キケン!!』

     『ビンボー主義の生活経済学』

     『年収300万円時代 日本人のための幸福論』

     『日本人を幸せにする経済学』