2020年公演中止になった後、同じキャストではないのではないかと半分あきらめていたエリザベートが30周年めで再演されることが決定しました。トート役古川雄太さんのファンクラブ枠で10月16日、千秋楽の11月27日に観劇の予定です。
私は、現地ロケの映画のほうが好きだったので、エリザベート皇后はルキーノ・ヴィスコンティ監督の「ルートヴィヒ」のロミー・シュナイダーしか考えられませんでしたが、2018年11月、 推しのレオさんが韓国のミュージカルでトート役をやるというので、9回見に行きました。9回も見ると「韓国2018年版はああなった、日本版はこうなっている」なぁと頭の中でぐるぐる。
感想を一言でいうならば、
「韓国版はエヴァンゲリオン、
エリザベート2022(日本)はシン・エヴァンゲリオン」
マリア・テレジアの従姉妹にあたるユリアナ・マリア王大后が援助した王立デンマーク磁器製陶所「ロイヤルコペンハーゲン」が近くにあります(詳細はこちら)
以降、ネタバレです。
トートの出会い
今年、エリザベートは30周年になるそうです。確かに初演は1992年…。30年たって、当時まだ生きていた人もほとんど鬼籍に入り、本当に「死者の物語」になってしまいました。それを色濃く感じたのは総キャストが最初のグレーのオーガンジーベールをかぶって登場したとき。またセットは鈍色というか、ブルーグレーというか、「死」の色。死者達が黄泉の国で物語を繰り広げている演出が深かったです。
最初、出てくるのはシシー時代に育った生家、ポッセンフォーフェン城。セットは鏡を使って奥行きを持たせていたのがすごかったです。なお、先述の「ルードヴィヒ」の映画、ベルク城はポッセンフォーフェン城だそうです。その明るい世界と対照的なのは、トートの黄泉の国。M.R.ジェームズの「マグヌス伯爵」のように、暗闇から現れるまやかし。
Hyde
私、そんな険しいことを言ったはずがない。
君を傷つけたのが僕なはずがない
Girl君の目の前に僕を信じてくれ
私の中に狂った人がいる。
個人的には、ある人とのすれ違いってこの言葉に尽きると思っていて、この歌でVIXXにはまったのですが、「エリザベート」と同じモチーフだなぁと思っておりました。
フランツ皇帝とシシーの結婚式。韓国版はトートブリッジが降りてきて、エリザベートを誘惑するんですが、日本版は、トートダンサーズが観客の中に紛れ込み、いつの間にかシシーはトートダンサーズ(TD)と踊っているという流れ。
ちなみに髪型でわかるそうな…
出典:岡崎大樹
TDを統べるトート閣下
出典:岡崎大樹
シシー 私は私だけのもの
愛も皇后としても義務もよくわかっていなかったシシー。ゾフィーとの軋轢の中で次第に自己を確立していきます。その演出も国によっていろいろあります。
韓国では、シシーはスロープに上って、風に髪をなびかせながら「私はわたしだけのもの」を歌いあげます。でも、日本版では、シシーが昇るためのものではなくて、ゾフィーに評価されるような女性になりたいともがくのですが、挫折していく壁の演出。
その挫折があるから、1幕の最後、美しく花開いたエリザベート皇后がより輝いてみえます。
フランツ・ヴィンターハルター エリザベート皇后
ここに韓国の演出の違いがあるのかなと思いました。韓国のエリザベートは特異点。今回の演出では、愛らしいふつうの少女が自分の美貌に目覚め花開くという流れで、普遍的なものを感じました。
因果応報
一幕の伏線が回収されていく二幕。韓国版もそうだけど、日本版も配役で因果応報を感じるところがありました。「男性のたしなみ」を仕切るヴォルフ夫人はエリザベートの母(ルドヴィカ)役の女優さんが演じていたり、ヘレネ役の人が「精神病院のエリザベート」を演じていたり、第一幕のゾフィーの旋律がルドルフを拒絶するエリザベートの旋律に重なったりと、トートによって死の世界に手繰りよせられていく様をいろいろなところで感じます。
「闇は広がる」
韓国版は押し寄せる不幸の波で双頭の鷲が割れてしまうのですが、日本版は第二次世界大戦にまで続く、小ドイツ主義と大ドイツ主義と対立、その果てに出てきたのはナチスの「ハーケンクロイツ」…。
ルドルフとトートの絡みに入ると、TDのダンスもヒートアップ。一幕はヒップホップからの社交ダンス、二幕はモダンバレエ、コンテンポラリーの要素を取り入れていて、超難度!!。パンフレットをみましたが、すごいメンバーばかりで納得。
エリザベートの息子のルドルフは、韓国版では母に拒絶される弱さ、日本版は、トートにつけこまれる弱さだけでなく、浅はかさやずるさも…。特にあれっと思ったのは、「ザ・ラストキス」だったら「明日への階段」を歌うシーンで、ハンガリーの同胞から聖イシュトバーンの王冠を差し出されます。実際どうだったかはわからないけど、マクシミリアンの悲劇も彷彿とさせました。
出典:ウィキペディア
棺
ルドルフが納められた棺桶…(シシーの挫折のスロープセットの流用であったりするんですが)その棺桶から這い出てくる古川トートはまるで「マグヌス伯爵」。
棺桶の蓋を開ける手、二階からもよく見えました。あんなことをやられると、背筋がぞわぞわ~。
ルキーニ
最後に、「現実のルキーニ」が登場。暗殺のために鑢をといでいたと誇らしげに言うルキーニ。狙撃するために、毎夜毎夜鉄パイプを電気のこぎりで切っていた山上徹也容疑者に重なります。韓国版ではイケメンの俳優さんで劇的に散っていきますが、日本版では、黄泉の国で、レコードのように何度も同じ運命を繰り返させられる狂言回しの色が濃い感じがしました。
最後に、アデランス、いい仕事してますよね~!!!!地毛にしか見えません。
11月の千秋楽、また会いにいきます。