ブルーインパルスの飛行を眺める被災者。

「やってる感」の演出に拘泥する日本政府が作り出したディストピアの姿

 

前回の記事では能登震災における官僚や行政機構、似非ウヨの「前のめりの悪」を指摘した。

 

私は「前のめりの悪」を、「関係者が自己保身のために捏造や改ざんの手法を介して事態を矮小化して上層に報告し、やってる感の演出にのみ注力する」現象と定義した。
よく言われる「凡庸な悪」ではなく、自ら進んで悪の一端を成すのが「前のめりの悪」だ。

本記事では、官僚の「前のめりの悪」の例をもう2つ挙げてみようと思う。

先日、岸田首相が賃金と生産性について、また愚かなことを発していた。
「なんで生産性が上がったのに給料が上がらないのか?その解決策は『新しい資本主義』だぁ!」とやっている。

まず何を発していたのか確認していこう。


上記の岸田の発言の前段のポストも確認する。

上記の「賃上げ気運」も「設備投資増加」も「株高」も、都合の良い数字だけを陳列したまやかしでしかない。
「賃上げ気運」は連合傘下の15%の優良企業のみで他の中小企業には関係ないばかりか実質賃金は23カ月連続で下落しており、「設備投資増加」は見込みの数値でしかない。株高に関しては言わずもがな金融界という実体経済とは別の世界線の話だ。


日本の官僚が「公定価格を上げれ(政府支出を増やせ)ば生産性(と賃金が)が上がる」ことを理解できないから、岸田は「生産性を上げて収益も増えたのに賃金が上がらない」という問題が永遠に解決できない。

その結果、岸田が処方箋として提示した案も、結局今までと変わらない「わずかばかりの法人税減税(控除)」、「下請け法改正」、「リスキリング」等に終始している。
官僚がリスキリングに拘るのは「生産性を上げるべく生産効率を高めれば賃金も上がるはず」との誤解に基づく(効果ゼロではないが)。

しかし上記で私や中村てつじ元衆議院議員が指摘したように、政府支出を増やせば生産性と賃金があがることは「生産性の式」からも「定量的観測」からも明らかである。



どの国でも政府支出を増やすと労働生産性が高くなっている。
支出が潤沢であれば需要が生まれ、結果として賃金が上がり労働生産性も高く出る。ただそれだけのことだ。(もちろん下請けいじめの規制や労働組合の交渉力向上を促す支援なども必要だ)

生産性に関しての基本 参考:

 

ところが、官僚たちは「生産性が上がれば賃金が上がりGDPも上がる」と逆向きの経路のみしか勘案しない
政府支出を増やすとか公定価格を上げるとかの考えが一切抜け落ちている、または意図的に除外しているのである。

 

そう、意図的に答えを除外しているのだ。

下記は厚労省と経産省の例だ。


厚労省「令和5年版 労働経済の分析」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35259.html


経産省 中小企業白書より
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1-2.pdf

 

上記2例においても「政府支出を増やして賃金を上げれば労働生産性が上がる」事実を無視して、「労働生産性を上げれば賃金が上がる」という論理にしか注目していないことがわかる。

答えとなる「逆向きの経路」を意図的に隠蔽していると考えられる。

下記はアメリカの財務長官イエレンの発言だ。

イエレンは「政府の投資は、生産性を高めるために必要なものであり、その結果、経済は成長する」と明言している。生産性や賃金、GDPが上がらない原因も解決策も明白なのだ。

何度も言うが「生産性の式」からも「定量的観測」からも明らかなのだから、嘘をつこうとする意図がなければ官僚がこんな誤りに気づかないはずはない。

厚労省・経産省の資料は、「民間のおまえらの生産効率が悪いから生産性が上がらず賃金が低くなったのであって、我々官僚様の失策のせいではない!」と言い訳するためのゴマカシなのである。

上述した「関係者が自己保身のために捏造や改ざんの手法を介して事態を矮小化して上層に報告し、やってる感の演出にのみ注力する『前のめりの悪』」そのものではないだろうか。
こうして問題の所在や解決策まで捏造までしてまで自己保身を図っているのだ。

彼ら官僚は先に示した「公定価格を上げれ(政府支出を増やせ)ば生産性(と賃金が)が上がる」ことを理解できないのではなく、意図的に考慮から除外し捏造していると見て間違いない。

1984風に言えば、官僚は「ニュースピーク」の使い手である。
言葉や概念の意味や定義まで捏造、改ざんしてしまうので、何が問題であったかすら外部の者にはわからなくなってしまうのである。ついには官僚自身もわからなくなっているのだろう。

日本が30年間経済成長を止めた原因は、1から10まで「前のめりの悪」を貫き通す官僚と政治機構であることがわかる。

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もう少し例を出させてほしい。
先日、林官房長官は、GDPがドイツに抜かれ世界4位になる見込みであることに対する言い訳を以下のように説明した。

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林官房長官は、日本経済はバブル崩壊後の長引くデフレ経済において「コストカット型経済に陥り、企業は投資や賃金を抑制し、家計は所得の伸び悩みなどから消費を抑制してきた。その結果、需要が低迷しデフレが続く悪循環が続いていたことは事実である」と説明。
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/SGEOFTBIUBIMVMT3JUCKP7CE7Q-2024-01-16/
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この霞ヶ関構文からも「行政自らの瑕疵」が抜け落ち、「民間の瑕疵」に置き換えられていることがよくわかる。
「政府の失政ではなく、民間がコストカットを始めたからデフレが長引いたのだ!」とする言い訳だ。

この「霞ヶ関・明治しぐさ構文」は「政府のコンセンサス」になっており、様々な場面で使用されている。

私の認識する限りでは、2022年2月14日の大臣答弁が初出で、以降繰り返されている。

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山際大臣(経済再生担当・新しい資本主義担当)
バブル崩壊以降、低い経済成長と長引くデフレによって企業が賃金を抑制、消費者が将来不安から消費を抑制した結果、需要が低迷しデフレが加速、企業の賃上げが生まれない悪循環が生じた

鈴木財務相
バブル崩壊以降、低い経済成長とデフレによって企業が賃金を抑制、消費者が将来不安から消費を抑制した結果、需要が低迷しデフレが加速、賃上げが生まれない悪循環が生じた

  = 2022年2月14日 立憲民主党・福田昭雄議員に対する大臣答弁
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12727314964.html
・・・・・・・

(*上記霞ヶ関構文の初出を22年だと思っていたが、国会議事録を調べていて面白い事実を知ったので別の機会にまとめる)

両大臣がペーパーを読み上げ異口同音に言い訳としている。
もちろんこれは官僚が作成した答弁であるので、官僚自らの「絶対に失政を認めない」という強い意志が介在していることが想像できるだろう。

言わずもがな、民間が失敗したからデフレ不況が長引いたのではなく、政府が民間経済を支えるために各所に支出しなかったことが原因だ。
バブル崩壊でさえ政府の責任によるところが大きい。参考 https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12664064019.html

どうだろうか?これらの官僚の悪辣な自己保身のための詭弁はもはや「凡庸な悪」ではなく、「前のめりの悪」であることがわかるだろう。

出世のために「強者・権威」である自民党政権の政権運営は正しかったのだとおべんちゃらを重ね、忖度する「ひらめ官僚」が跋扈している証左である。

加えて言うなら、官僚はアイヒマン的凡庸な悪の議論を知ったうえで「俺たちは上司である大臣らに命令されて真面目に仕事をこなしてるだけっすよー」と、それを責任を回避するための免罪符にしていることすら疑われる。

◇◇◇◇◇

先日、「財務省がこんな反論不可能な資料を作った!」とバカが嬉しそうに報告したグラフがあったが、これがカビの生えた子供騙しであることは反緊縮派であれば多くが知るところであり、この財務省の例もまた「前のめりの悪」の一つとなる。


財務省は「政府支出してもGDPは上がらないのだ!」という責任回避のためのトリックを講じたということだ。

上図の正しい見方は簡単には、GDP(フローの数値)を上げられなかったから債務残高(ストックの数値)が積み増されていった、ということになる。
上記右図についてはGDP伸び率の低い低成長国ほど債務対GDP比が高まると言い換えられる(決定係数は低いが)。
これらの図は、ただただ政府の政策の失敗を表しているだけなのだ。

毎年の政府支出伸び率でなく負債残高の伸び率であったとしても、下図のように主要先進国で最低レベルだ。
負債(つまり通貨)を増やさなかったからGDPも伸びなかったというだけである。

一目瞭然、上図で政府負債を伸ばした国は下図のようにGDPが伸び、逆に負債を増やさなかった国はGDPも伸びていない。

 

もう一度言うが、負債(つまり通貨)を増やさなかったからGDPも伸びなかっただけなのだ。

官僚たちはそれを、累積債務対GDP比のような別の変数を加えた子供騙しの詐欺グラフを提示することで、「政府が負債を増やしてもGDPは増えないのだ!(*支出額ですらない)」と偽り、自らの失政を覆い隠そうとしたのだ。

 


官僚は、問題が何なのか、責任の所在がどこにあるのかを隠蔽することで、解決への道をより遠ざける。

官僚とは、自己の保身を図るために事実を捻じ曲げ、歪曲し、改ざんし、事態を矮小化し、捏造し、虚偽報告を行い、虚構を構築しながら国家自体を蝕み続ける、この上なく醜悪なガン細胞のような存在なのだ。

そして、跡に残るのは解決しようとするフリを続ける行政機構の姿である。

政権と自らの保身のために問題を覆い隠し、解決法もあさっての方向にむいているのだから「やってるフリ」をするしかなくなるのだ。

私はこのことを「前のめりの悪」と定義したが、生産性に関わる議論においても、デフレ不況の原因についても、また、震災に関わる行政の姿勢においてもまったく同じ構造が存在する。

「凡庸な悪」なんていう生易しいものではない。官僚や自民党というサイコパスどもをどうにかしない限り、我が国の未来はないと断言できる。

以上。

 

cargo

 



おまけ:
前のめりの悪