先日の記事の続きとなる。

 

*この記事はシリーズ「全体主義からの脱獄」の一部となる。他の記事はこちらから。

 

今回の「全体主義からの脱獄者」はジェフリー・サックス教授だ。

ジェフリー・サックスはコロンビア大学の経済学教授で、国連のサステイナブル開発ネットワークの会長も務めている。2001年から2018年まで国連事務総長特別顧問も務めた。

バーニー・サンダース議員の「サンダース研究所」でもフェローを務めるプログレッシブ派だ。

ソ連崩壊後にはゴルバチョフとエリツィン、またウクライナのクチマ(1994~2005)やユシチェンコ(2005~2010)ら4人の大統領の経済顧問でもあった。
https://johnmenadue.com/an-asia-pacific-nato-fanning-the-flames-of-war/


https://www.thenation.com/article/archive/years-climate-talks-are-our-last-and-best-chance-slow-global-warming

そのジェフリー・サックスがイギリスのコメディアン、ラッセル・ブランドのポッドキャストに出演したので、その様子を抄訳したい。
トピックはウクライナ戦争と検閲体制だ。

 

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▼“THIS Is How The US Have LIED About Ukraine War”
Russel Brand  2022/11/07 648,075 回視聴
縮小版: https://www.youtube.com/watch?v=wfXIJd5J_VA
全編: https://rumble.com/v1r3zay-jeffrey-sachs-on-nord-stream-and-wuhan-lab.-you-wont-believe-this-026-stay-.html
(*YoutubeからのBanを回避するために、全編はRumbleのみで公開)

ジェフリー・サックス:
(0:27)
私は、WSJやワシントン・ポストがニクソンを叩き、引きずり下ろすようなことをやっていた時代に生きたが、今のメディアは体制のためにウソをついてばかりでジャーナリストとしてのプロ意識が完全に崩壊している。
この状況は非常に危険だ。なぜなら戦争に結び付くからだ。今もエスカレートさせるだけで、戦争の原因やどう終わらせるかについてもまともに議論できていない。

私は20年間「プロジェクト・シンジケート」に最も多くのエッセイを書いた学者の一人だが、今は何も書かせてもらえない。西側の公式見解から外れると投稿さえできず、本当に驚いた。
(*筆者注:私もよくプロジェクト・シンジケートの論文等を引用している。有名なアカデミアのネットワークだが、世界中のメディアの視点を統制する組織でもある。参考(27分から) https://rumble.com/v21hzhc-monopoly-who-owns-the-world-a-documentary-by-tim-gielen-2021.html

30年前にネオコンが米国の外交政策を乗っ取ってしまった。民主党だろうが共和党だろうが彼らに統制されている。
ブッシュもオバマもCIAに従って戦争をしたが、メディアはどこもそんなことを説明しなかった。今行われている戦争はロシア対アメリカの戦争だが、誰もこのような事実を説明しない。

主流メディアは、この戦争は2022年2月24日にロシアにより始められたと言ってるが、それは嘘だ。その前の歴史がある。
この戦争を回避する方法はあったのにバイデンはそれを選択しなかった。

私は33年前にゴルバチョフの経済顧問も務めた。1990年、ゴルバチョフは冷戦を終わらせたがっていた。ドイツも東西統合を求めていた。
そこでアメリカと西ドイツは東側と冷戦終結と、その際、NATOを東に1インチも動かさない約束をした。
ところが、90年代中盤から2000年代、クリントンとG.W.ブッシュはNATOをブルガリアやスロバキア、ハンガリー、ルーマニアやバルト三国などにも拡大した。聡明なジョージ・ケナンはこれを新冷戦だと呼んだ。
プーチンは当初は親ヨーロッパだったが、NATO拡大には強く反対した。

2008年、ブッシュはNATO首脳会議で「NATOをウクライナとグルジアにまで拡大する」と勝手に宣言した。欧州の首脳は反発したが自国民にしっかりと説明しなかった。アメリカとNATOはプーチン・ロシアを追い込んだのだ。
プーチンは「もしNATOをウクライナに拡大しようとするならクリミアは取り返す」とブッシュに告げた。

その後、親露派のウ国大統領ヤヌコビッチは「核を持つ二大勢力の争いに巻き込まれたくない。NATOには入らず中立でいたい」として賢い選択を取った。
2013年末、EUとの協定を承諾しないヤヌコビッチに対し、一部民衆の抗議活動が起こりやがてマイダン広場での暴動へと発展した。
この暴動を後押ししたのは、わざわざマイダン広場にやってきたアメリカの政治家だった。
(*筆者注:先日、当ブログで触れたマケインやグラハムらのこと https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12811714141.html

(0;38)
もし2021年1月6日のアメリカの国会議事堂前で行われたトランプの集会に、中国の政治家がやってきて「我々がついている!もっとがんばれ!」などと言っていたら懸念を抱くだろう。
しかしアメリカはそれをウクライナに対してやった。
当時国務次官補だったビクトリア・ヌーランドがその政権転覆を指揮し、新政府の顔ぶれを決めていた。その証拠は盗聴テープとしても残っている。
不思議なことに彼女は現在も外交担当の国務次官として政策決定に携わっていて、その意味は、これが長い年月をかけたプロジェクトだったということだ
(*筆者注:ヌーランドの有名な「Fuck EUテープ」のこと https://www.afpbb.com/articles/-/3007954 )

ちなみに、私は1994年からウクライナ政府の経済顧問も務めたが、アメリカのいわゆる「NGO」がマイダン・クーデターを資金援助していたことも知っている
その後、新しくできた親米政府は、親ロシア派のヤヌコヴィッチ大統領を追い出し、NATOに加盟すると言い出したのだが、プーチンがクリミアを取ると言ったのはその時だ。
それ以来何千億ドルもの資金と武器がアメリカからウクライナに注がれてきた。
(*筆者注:「NGO」とは、ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団やルネッサンス財団など。ソロスやヌーランドのマイダンへの関与ついて参考: https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12733195168.html

戦争は昨年始まったのではなく、2014年から続いていて、軍事支援もNATO加盟への要請もずっと続いてきたということだ。
そこへバイデンが大統領になって戦火が拡大した。トランプもおかしな人間だったが、バイデンはネオコンを再び外交政策の中心に戻してしまった。
私は2021年にホワイトハウスに電話して、「戦争を避けるためにもウクライナをNATOに加盟させないでほしい」と頼んだ。
プーチンが停戦協定を結ぼうと提案してきたときも、私は「条件の良い妥当な申し出だから協定を結ぼう」とホワイトハウスに進言した。ところが帰って来た返事は「交渉の余地なし」であった

22年2月にロシアの侵攻が始まったが、ゼレンスキーは3月中旬まで「(NATOに加入しない)中立条件を飲んだ停戦合意」に前向きだった。トルコを仲介役に迎えた停戦交渉はまとまりかけていた

ところが、これは殆ど誰にも知られていないことだが、突然狂ったことが起こった。
ワルシャワのNATO会議でボリス・ジョンソンが「中立は許さない、戦い続けろ」と言い出した
バイデンも「長い戦争になる。プーチンは権力の座にいられない」と言いロイド・オースティン国防長官も「我々の目的はロシアを弱体化させることだ」と言い出した。
せっかく停戦交渉がまとまろうとしていたのに、計画がめちゃくちゃになったのだ。

その後戦闘が激化し、何万ものウクライナ兵が死んで、原発にも危機が迫り、アルマゲドン到来の可能性だってあった。

32年間の外交の専門家としての経験を持つ者として、バイデン大統領に言わせてもらうが、NATOをウクライナやグルジアに拡大しないでもらいたい。これは中国がメキシコにミサイルを置くようなものだ。

数十年実権を握って来たネオコンは、もうすぐウクライナをこちら側に取り込むことができ、ロシアを弱体化させるられる、ゴールまでもうすぐだと考えているが大間違いだ。

(0:48)
核戦争の可能性でいえば、キューバ危機の頃と似ている。現在はそれぐらい危険な状態だ。
現場の指揮系統にひとたび誤解や誤読、ミスが起これば重大な事故に繋がる可能せいもある。
ウクライナ政府やマスメディアは、「私たちは前線で日々前進していて何の問題もない」と言うが、原発が危険な状態であることを伝えない。これは帝国主義的な考えだ。

1947年に安全保障上の懸念のもとにCIAが作られたが、同時に危険な秘密主義も生まれた。
彼らの秘密作戦によって秘密の軍隊は汚い戦争をやり続け、それは大統領にも知らされていなかった。トルーマンも何かが間違っていると心配していた。
CIAには説明責任もなかったし、処罰されることすらなかったのだ。

1992年、ネオコンは世界で唯一のスーパーパワーになったと考え、尊大で過剰な外交戦略を取ってきたが、2015年頃までの中国の覇権拡大はネオコンを脅かした。
オバマは中国を除外してアジアを掌握しようと考え、アメリカに都合の良いルールを設定したTPPを進めた。

中国とロシアを敵とする外交政策は地域の不安定化をもたらした。
アメリカは中国への精密危機の輸出規制を強め、また下院議長のペロシは緊張を煽るべくわざわざ台湾に出向いた。
これは「ウクライナには手を出すな」と再三警告していたロシアを無視したふるまいと同類のものだ。

そしてコロナウィルスの件も、不安定化のもう一つの重要なスイッチとなっている。
ウィルスは、アメリカの極めて奇天烈な科学技術と中国の研究所との協力によって生まれたものだと理解しているが、…つまり自然由来のものではないということだ。
しかしウィルスがどこからどうやって来たのか(*米国の「機能獲得」研究が発端であったこと)をアメリカ政府は隠蔽し、ウソで塗り固めた。
中国を敵とした物語を創造することは、アメリカにとっては通常営業なのだ。プーチンは新たなヒトラーだなどとした創作と同じだ。
そしてそれをNYタイムスやワシントン・ポストなどでで垂れ流すということをやっている。
(*筆者注:2020年春、サックスは、世界で最も影響力のある医学誌「ランセット誌」のCOVID-19委員会の委員長に任命され、検証結果として上記のような報告書を公表した。つまり彼はこのコロナワクチン分野に極めて深い科学的知見を持つ。 https://web.archive.org/web/20211031194849/https://covid19commission.org/commissioners

(1:03)
ノルドストリーム・パイプラインの爆破についても言いたいが、バイデンは「もしロシアがウクライナに侵攻したらノルドストリームを終わりにする」と言っていた。
しかし、実際に爆破されると国務長官は「ロシアがやった」と喧伝し、新聞もその物語に従った

私が先週テレビに出演した時、その話をしはじめると、始まって3分で「Mr.サックス、もう充分です」と言われ中継を切られた。普段は30分も出演しているのに。
中継を切った後、司会者はその後5分以上も「あの経済学者は何も知らない。嘘を言っている」などと暴言を吐き続けた。
私は何十年もの間100カ国以上の国との外交に携わってきたのにだ。
私は自分が間違っているとは思わない。
(*筆者注:ノルドストリーム爆破犯について、ピューリッツァー賞受賞ジャーナリストのシーモア・ハーシュは内部告発からCIAらだとした。その米国はウクライナの特殊部隊のせいにしている。 参考: https://twitter.com/search?q=from%3Acargojp%20%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0&src=typed_query&f=live

アメリカ政府は自分の都合の悪いことは説明しない。
アフガニスタンでは40年間戦争を続けたが、結局何も得られなかった。シリアには2012年に入り、オバマとCIAはサウジアラビアと共にアサド政権を打倒する作戦を始めた。
しかしこのようなことを誰も説明しないのだ。
(*筆者注:シリアのテロリスト「ISIS」や「ヌスラ戦線」の起源はシリアの反政府派「自由シリア軍」であったが、米国は彼らを支援した。https://theintercept.com/2019/10/26/syrian-rebels-turkey-kurds-accountability/

アメリカは22年の2月からロシアに経済制裁を課しているが、うまくいかないことはわかっている。
アメリカのプロパガンダ・ショーは全人口の4.2%にしか通用しない。
(*筆者注:対露制裁が失敗した理由は、MMT派のガルブレイス教授が詳しい。参考: https://www.ineteconomics.org/uploads/papers/WP_204-Galbraith-Russia-Sanctions.pdf

(1:12)
もしこの戦争をゴールに導きたいのであれば、いくつかの事例について説明しなければならない。
例えば私は、ノルドストリーム爆破の件はアメリカやイギリスが犯人であるほうに賭ける
どう考えても不自然だし、22年3月に停戦交渉が破断となった時にバイデンとボリス・ジョンソンが言ったことを思い出してほしい。アメリカ政府の言い分はあまりにナンセンスだった。
こういったケースをオープンにしなければならない。

さらに言えば、ロシアがザポリージャ原発を掌握した時、ウクライナ軍は取り返そうとした。
その時、危険極まりないことに、毎日のように原発は砲撃されていた。
ロシアは原発の中で、ウクライナは原発の外にいた状況だ。
ところが新聞は「相手方が砲撃したと双方が非難しあっている」と報道した。
さて、一方が原発内にいて、もう一方が外から原発を取り返そうとしていた場合、いったい誰が原発を砲撃していたと考えられるだろうか?

この件について、私は何人かの国際機関のシニア監査官と話したが、私はウクライナが砲撃していたと推察した。もしアメリカにとってウクライナが重要な友達だったとしても、「危険だから原発を砲撃することはやめるべきだ」と言うべきだったのだ。
(*筆者注:原発を攻撃したのはウ軍だとタイムスも報道済み https://archive.md/2023.04.08-214804/https:/www.thetimes.co.uk/article/ukrainian-zaporizhzhia-nuclear-power-plant-russia-putin-war-2023-fx82xz3xz

バイデンは政策を間違った。なぜコロナ禍で国民が苦しんでいる時に露中に対する外交的冒険をしなければならなかったのか。
この戦争と経済制裁のせいでインフレが進み、スタグフレーションになり、サプライチェーンは寸断され経済的被害をもたらした。
なぜこの大変な時に戦争を終わらせ、経済を修復しようとしなかったのか。
もし選択を誤らなければ中間選挙での民主党の結果はもっと良かっただろう。これはバイデンの重大なミスだ。

アメリカでは大統領でさえも戦争マシーンをコントロールすることは難しい。過去の大統領でもできた者は少なかった。アイゼンハワーとケネディーはそれができた数少ない大統領だ。
平和を主導することはCIAにはまったく歓迎されないが、ケネディは命を賭して行った。

バイデンはそうではなかった。官僚やCIAに「これが外交政策です」と言われれば受け入れる。それが彼の最大の弱点であるが、皮肉にもそれが彼が大統領にえらばれた理由でもあった。

戦争を止めるためにには、今言ってきたような話を人々が理解することが大切だ。
戦争マシーンは処罰もされず、公文書を隠蔽し、秘密裏にこういったことを進めてきた。これが帝国のやりかただ。
人々が公開を求めなければならない。

例えばNATOの東方拡大の例のように、この戦争はトップにいる政治エリートたちによって駆動されてきた。
しかしこれがアメリカの市民が望んだことではないことが希望だ。
これからもいろんなマスコミからデマが発せられるだろうが、今を分水嶺として、人々は最悪の現状を良い方向に変えていかなくてはならない。
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繰り返しになるが、サックス教授はバリバリの主流学派で、国連で長年要職の地位にあった人物だ。
その彼がいわゆる「ウクライナ陰謀論」と「ワクチン陰謀論」を唱えているのだから大事件だ。

サックスは上記インタビューと同様のことを今年に入ってもずっと主張している。
最新の発言は、7月5日に豪州のメルボルンで行われた国際会議「Saving Humanity and Planet Earth (SHAPE)のものだ。
ここではウクライナ戦争から学べることとしてアジア太平洋地域の外交政策に対し提案を行っている。

サックスは「ウクライナでの米国の行動と同じように、米国は、私たちを中国との戦争への道に導いています。…アジアにNATO事務所を開設するという愚かな考えに気が遠くなります。この無謀な行動をやめるように日本人に言ってください」と結論した。
https://johnmenadue.com/an-asia-pacific-nato-fanning-the-flames-of-war/

なお、NATO東京事務所は、先日仏マクロン大統領が反対したため、現在は保留となっている。
https://www.asahi.com/articles/ASR7C4ST0R79UHBI013.html

 


戦争屋の宣伝機関であるNYタイムスが彼を締め出したのもうなずける。為政者にとっては極めて都合の悪い人物なのだ。

私は今回扱ったラッセル・ブランドの配信で、初めてサックス教授のコロナウィルス検証との関わりを知ったが、世界的な権威である「ランセット誌」での発表などは真剣に考えなければならないだろう。
(私はワクチンや医学にはまったく興味がないので知らなかった)

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さて、コメディアンのラッセル・ブランドだが、彼も非常に面白い人物で、私は10年くらい前から注目していた。

例えば、22年3月10日のこの動画は320万回も再生されている、いわゆる「ウクライナ陰謀論」についてだ。
「ウクライナ戦争についてあなたはウソをつかれているよ」といった内容だ。

▼You’ve Been LIED To About Why Ukraine War Began
Russell Brand  2022/03/10 3,208,883 回視聴

 

ブランドは、Jacobin誌(David Shirotaが編集長)などの記述に沿ったかたちで、おもしろおかしく皮肉たっぷりに報告した。
この時点でここまで踏み込めるのはすごいし、イギリス人ならではの皮肉に何度も爆笑してしまう。

このジェイコビン誌の記述は、私も1年半ほど前に拙ブログで引用したので、その要約を貼っておく。



主流メディアが「陰謀論だ!」などとして否定してきた言説が、サックス教授らによって事実に昇格しつつある。
なんといっても国連事務総長の特別顧問を18年間も務めた権威的人物だ。
似非リベラル左翼様や主流メディアも、彼を無視し続けることはできないだろう。

改めて現在が、大変スリリングな時代であると実感した次第だ。


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