*この記事はシリーズ「全体主義からの脱獄」の一部となる。他の記事はこちらから。

 

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拷問は本来の目的を果たせない。しかしこれが私が拷問に反対する主な理由ではない。
この問題は敵の問題ではなく、私たちの問題であるということだ。
私たちが何者であったか、また何者であるか、そして何者でありたいか。それは、私たちが世界に対してどのように自分たち自身を表現するかということだ。

私たちは、地政学的利益を追求するだけでなく、私たちの政治的価値を体現し、それを受け入れるよう他国に影響を与えることによって、このしばしば危険で残酷な世界で道を切り開いてきた。
私たちが安全保障を守るために戦うとき、私たちは、部族のためでも、古代の宗教のねじれた解釈のためでも、国王のためでもなく、すべての人は創造主によって侵すことのできない権利を与えられた思想のために戦うのである。
すべての国がそれを同じように信じていれば、世界はどれほど安全になるだろうか。
私たち自身がそれを一瞬でも忘れたとき、世界はどれほど危険になることだろう。

敵は良心の呵責なく行動する。我々はそうしてはならない。

2014年12月9日 ジョン・マケイン上院議員
https://www.usatoday.com/story/news/politics/2014/12/09/john-mccain-statement-cia-terror-report/20144015/
https://www.youtube.com/watch?v=UDWdKix0Ees

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上記のマケイン議員の米議会における演説は、米国上院・情報委員会で「CIAの拷問に関する報告書」が採択された際に行われたものだ。
自身もベトナム戦争で拷問を受けた経験を持つマケイン議員ならではの胸を打つ演説だ。

この「CIAの拷問に関する報告書」は、ダイアン・ファインスタイン上院議員(民主党)の責任で10年にも及ぶ調査によってまとめられた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Senate_Intelligence_Committee_report_on_CIA_torture
https://www.feinstein.senate.gov/public/index.cfm/senate-intelligence-committee-study-on-cia-detention-and-interrogation-program


テロとの戦争において拘禁された、無実の者も含むテロ容疑者百数十名に対し、CIAは極秘プログラムにより残虐な拷問を行った。
CIAはこれらの拷問を、特別で新しい尋問のかたちだとして「強化尋問技術」と呼んだ。

明らかにされたCIAの秘密刑務所はポーランド北東部のスタレ・キェクティ村にあったが、この拷問プログラムは悪名高いアブグレイブ刑務所の囚人にも採用された。
https://web.archive.org/web/20210308060513/https://web.archive.org/web/20141210104711/https://www.bloomberg.com/news/2014-12-09/detainees-held-in-cold-cells-force-fed-rectally-in-cia-program.html
https://en.wikipedia.org/wiki/Abu_Ghraib_torture_and_prisoner_abuse



CIA職員による拷問で死亡したマナデル・アル・ジャマディの遺体の上でポーズを取る米陸軍士官のチャールズ・グラナー。アブグレイブ刑務所にて。

CIAの拷問プログラムには、水責め、殴打、冷水をかけて半裸で放置、立位の強制や大音量の音楽を流し一週間以上の睡眠はく奪、棺桶を模した狭所への10日以上の監禁、食事を与えず肛門から直腸へ直接ホースで水分や液体状の食物を与える拷問、子どもや家族を強姦して殺すなどの脅迫、銃や電動ドリルによる脅し、模擬的な処刑による脅し、全裸状態でおむつを履かせ足枷をつけて放置、全裸での逆さ吊り、手足や性器に電極をつけた電気ショック、氷水浴の強制などありとあらゆる拷問を行った。

拷問により殺害された者もいた。また手足を切断された者、眼球を切除された者、精神障害を負った者もいた。
囚人は自分の手首を噛みちぎる、足の静脈を掻き切るなどの自殺未遂を行ったほか、自傷行為を繰り返したという。

囚人のうち、実に22%は無実であった。
加えて、拷問により囚人から得られた有益な情報はほとんどなかったという。

6700ページにも及ぶ巨大な報告書の作成には10年にも及ぶ調査期間が費やされた。
これはCIAが証拠隠滅や妨害工作を講じたことが原因で、調査時間が増したためであった。

例えば、CIAは、「拷問の結果、ビン・ラーディンの発見につながる証言を得た」と成果を強調していたが、後に虚偽の報告であったことが報告書では暴かれている。

CIAは数々の非人道的な残虐行為と卑劣な隠ぺい工作を、自らの捏造のため引き起こした「テロとの戦い」を理由として行った。


翻って、現在アメリカがウクライナで行っていることはどう考えたらよいだろうか?

ロシアの体力を削り、プーチン政権を崩壊させるための「駒」として、10万人以上のウクライナ兵の命がロシアの圧倒的な火力の前で失われている。
彼らの多くは、通常の軍人の10分の1ほどの期間の訓練しか受けずに前線に放り出されているという。
https://www.youtube.com/watch?v=DFTJOTmx6h0

「アメリカ軍は参戦していない」と公式の記録は示すが、それは事実ではない。
例えば、米欧メディアは、6月27日にドネツク州クラマトルスクのピザレストランにロシアがミサイル攻撃を行い、子ども3名を含む十数名の民間人が死亡したと大声で報道していた(https://www.youtube.com/watch?v=nSHpqJy6a08)。

しかし、そこには西側のテレビ画面には決して映らない秘密が隠されていた。
実際には、がれきの下から救出される多数のNATO加盟国や米国の軍人の姿があったのだ。
このレストランのあったホテルはウクライナ軍に軍事施設化されていた。当日は民間人の立ち入りは禁止されていたともいう。

下記リンク、露スプートニクにおけるスコット・リッターの報告動画にあるように、米欧メディアの報道とは裏腹に、なぜか現場には米国軍人がわらわらと存在する。
動画のなかで米軍人は「この瓦礫の下に大勢の兵士がいるんだ!」と嘆いている
https://sputnikglobe.com/20230701/scott-ritter-ukraines-growing-addiction-to-foreign-mercenaries-1111597466.html
https://sputnikglobe.com/20230629/fact-check-what-was-real-spot-of-russias-strike-in-kramatorsk-1111542792.html


ロシア国営RTは、国防省の発表として、レストランとホテルがウクライナ軍・第56自動車化歩兵旅団の暫定基地であったとし、2人のウ軍将軍、最大50人のウ軍将校、そして20人の外国人傭兵と顧問が死亡したと報じた
また、ウクライナ治安当局SBUは、攻撃前にロシアに情報を漏洩した疑いで地元住民を逮捕したとも発表している。
https://www.rt.com/news/578941-us-troops-not-ukraine/
https://www.rt.com/russia/578849-kramatorsk-missile-strike-pizzeria/


米メディアCBSは、米海軍のIan Frank Tortorici氏が当該レストランで死んだことを”うっかり”と報道したほか、テレグラムでも多数の米兵の存在が確認されている。
https://t.me/DDGeopolitics/71767
https://t.me/NeoficialniyBeZsonoV/26943


米国・NATOの軍事顧問団は後方に座し、最前線ではウクライナ兵を駒としてロシアの砲弾の雨の前に差し出しているのだ。


マイダン・クーデター前後に起こった同様のことも確認したい。


中央がマケイン元大統領候補、右がスヴォボーダ党首のオレフ・チャフニボク、左がクリス・マーフィー上院議員(民主党・現職)。2013年12月15日、マイダン広場において。


検閲時代以前は、米ビジネス・インサイダーに「反ユダヤ主義のネオナチのチャフニボク(中央)と会談するマケイン(右)」と批判されている。左はビクトリア・ヌーランドに首相に指名されたヤツェーニュク。
https://finance.yahoo.com/news/john-mccain-went-ukraine-stood-202343813.html

上述したジョン・マケイン大統領候補(共和党)は、2013年末にスヴォボーダらネオナチを支援し、CIAや国務省・NED、現国務次官のビクトリア・ヌーランド、ジョージ・ソロスらとともにウクライナでマイダン・クーデターを引き起こした立役者でもある。

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「歴史的な記録は、米国が多くの民主主義国を含む数十カ国の政局に干渉してきたことを示している。
そのもっとも醜悪な例が、2014年のユーロ・マイダン革命の際にウクライナで発生した。
           -  ケイトー研究所 
https://www.cato.org/commentary/americas-ukraine-hypocrisy
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ケイトー研究所は1977年創設。その研究の成果は米国政府の公共政策にも多く影響を与える。


https://www.bbc.com/japanese/38527130
中央がウクライナのポロシェンコ大統領、その左がマケイン、右側に立つのがリンゼイ・グレアム議員で、その後ろがウクライナ国家親衛隊・初代隊長で国防大臣のステパン・ポトラック(Stepan Poltorak)大将。https://en.wikipedia.org/wiki/Stepan_Poltorak
左側のメガネの女性は駐ウクライナ大使のマリー・ヨバノビッチ(Marie Yovanovitch)。

ウクライナ国家親衛隊(National Guard of Ukraine)は、悪名高いネオナチ「アゾフ」の後見人アルセン・アヴァコフ大臣が牛耳る内務省の管轄下にあり、2014年にはポトラック大佐がアゾフ大隊やドンバス大隊、ドニプロ-1大隊を編入するかたちで再編した軍事組織だ。
https://en.wikipedia.org/wiki/National_Guard_of_Ukraine

このマイダンでの出来事が今般の戦争と地続きになっていることは言うまでもない。
なにより、マケイン自身がマイダン後の対テロ作戦(ATO:ドンバスの2州に対する攻撃)においてウクライナへ米製の兵器を供給させた張本人だった。
マケインらの政変と内戦への関与こそが、後の悲劇を生んだのだ。


マケイン(左)に対し武器の供与を感謝するポロシェンコ(右)2016年
https://www.rt.com/news/455313-ukraine-john-mccain-street/


国連やOSCE(欧州安全保障協力機構)は、アゾフらネオナチ民兵やSBU(治安部隊・前身組織はKGB)による数多くの拷問を記録している。

マケイン自身が後押ししたドンバスへの「対テロ作戦(ATO)」においては、常軌を逸した拷問がSBUやネオナチ系大隊、国家親衛隊によって行われ、その行為が訴追さえされない状況だったのだ。
この状況を生前のマケインはどう思っただろうか。

「私たちが何者であったか、また何者であるか、そして何者でありたいか。それは、私たちが世界に対してどのように自分たち自身を表現するかということだ」とは、冒頭のマケインの演説の一節だ。

結局、アメリカ人たちが表現し、証明したのは、紛争や残虐な拷問をエスカレートさせる自身らの姿だった。


「テロとの戦争」におけるCIAの違法で残虐な拷問プログラムが公の目に晒されたように、マイダンからウク露戦争にかけてのアメリカの役割も、これから何年かかけて公的な報告書として明らかにされるかもしれない。

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前回まではリベラル左派の「全体主義からの脱獄」に関して綴ってきたが、今回は右派の人物に焦点を当てたい。

ダグラス・マクレガーは元米陸軍大佐で、1999年のNATO軍司令官ウェスリー・クラーク将軍によるユーゴスラビア介入の最高計画立案者だった。
2004年に退官した後は軍事コンサル会社の副社長を務めている。

トランプ政権では短期間ではあったが国防長官の上級顧問を務め、また、議会の反対で実現しなかったが駐ドイツ大使にも任命された。 

FOXとRT(ロシア国営)に頻繁に寄稿し、タッカー・カールソンの番組にはなんと48回も出演している(笑)
https://en.wikipedia.org/wiki/Douglas_Macgregor

彼は右派ではあるが、トランプ政権のインサイダーでもあったので重要人物の一人といえるだろう。

彼の最新のインタビュー動画から少し抄訳したい。

 

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▼The TRUTH about the Ukraine War | Doug MacGregor
 2023/07/01

 

・私は2014年にウクライナの調査を依頼されていた。
・いわゆるマイダン革命の余波で、ロシアに敵対的な右派政権が樹立されたが、その大部分は米国とCIAによって考案され、実行されたものだった。
・ウクライナに住むロシア系住民はロシア語を禁止され弾圧された。
・2014年以降、ウクライナ軍は、東部のドネツクとルハンスクの2つの分離共和国を攻撃しロシアは深刻な脅威にさらされていた。およそ14,000人を殺害されたがそれこそがミンスク合意を結んだ理由だった。
・戦争を避けようとしていたプーチンは、欧米列強に向かい、ウクライナ国内に住むロシア人の福祉と安全を確保するために、何らかの解決策を講じなければならないと言った。(*筆者注:当時ポロシェンコはドンバス側への年金支給を停止し、クリミアの水道供給を止めた)
・彼はメルケル首相とマクロン大統領を説得し、このミンスク協定に署名させた。この協定はウクライナに対し、ロシア人がウクライナ国内でロシア語を話し、学校に通うなど、法の下で平等に扱われるようにするための措置を講じる義務を課すものだった。(*筆者注:マクロンではなくオランド)
・西側諸国はこの協定を真剣に受け止めることはなかった。メルケル首相は夏に、ミンスク協定のプロセス全体が、ウクライナ軍の増強を継続するための単なる時間稼ぎであったことを公に認めた。ウクライナの防衛のためだけでなく、ロシアを攻撃するためのNATO基準の軍隊を建設するという、非常に作為的な取り組みが仕組まれていたのだ。(*筆者注:メルケルだけでなく、オランドとポロシェンコも「時間稼ぎ」を認めた
2022年の春に、65万の軍隊が強制的奪還の目的で、この2つの分離共和国に投入されるだろうと示唆する証拠がたくさんあった。
・プーチンは、ミンスク合意が失敗した以上、最後の外交努力をしようと考えた。12月と1月に、ウクライナ戦争の真の支援者であるアメリカを説得し、交渉のテーブルに着かせ、戦争回避の取り決めをしようとした。
・私たちはまったく無関心だった。ワシントンのほとんどの人は、ロシア経済は本格的な戦争を支えるほど強くはないため参戦しないだろうという結論に達したと思う。
・私はロシアが参戦するだろうと確信していた。 
・ロシアは、比較的小規模の軍隊で参戦し、3つのことを行おうとしたと思う。まず第一に、できるだけ多くの人々の殺害を避けること。第二に、インフラへの被害を避けること。そして第三に、西側の私たちを説得し、彼が交渉による解決をかなり真剣に求めていることを理解させることだ。
しかし、21年の6月から7月にかけて、西側諸国にはロシアにとっての交渉相手が存在しないことをプーチンが知るまでに数カ月を要した。
・さらに重要なことは、プーチンは、自分を権力の座から引きずりおろすことがアメリカの真の目的であったことを知ったことだ。22年3月にワルシャワを訪問したバイデンの演説で明確にされているように、最終的にはロシアを解体するために、この戦争を事実上永久に続けるための資金を提供することをいとわないということだ。ロシアを切り刻んで資源を掌握し、文字通りロシアを大国から消し去るのだ。
・キルレイシオは「ロシア1人:ウクライナ8人」。
・プーチンは民間人を殺すな、インフラを破壊するなと厳命していた。(*筆者注:実際にはだいぶ殺している)
・ウクライナ軍の第1軍は春にほぼ壊滅し、報道されているような勝利はしていなかった。その後、彼らは夏にロシアに対して攻勢をかけるための第2軍を作ったが、その軍も大部分は全滅した。そして、彼らは第3軍を作ったが、その多くがバクムートで戦死した。1937年の上海の戦い以来、おそらく最大規模の血の海になった。
・ウクライナ人の死者数は推定25万人(*筆者注:最大推定値は35万ともいわれるが、私は最大で15万程度だと思う)
・ロシアは制空権も握っているし地上戦も圧倒的に優位だ。
・我々がハイマースなどのどんな兵器を送ろうと、前線に出た瞬間に破壊される。(*筆者注:「瞬時に破壊」は言い過ぎだ。ハイマースはジャミング=電波妨害でGPSが狂わされた結果無効化されているという)
・西側から借りた金の返済を永遠に行わなくてはならない。
・戦前のウクライナの人口は3700万人だったが約1000万人が西側やロシアに逃れ、残っている男性は1800~2200万と言われている。
・いまや女性や少年、老人が徴兵されている。
・ロシアの軍事品は何も不足していない。工場は365日24時間、毎日稼働している。一方で西側は息切れしている。(*筆者注:「何も不足していない」ということはない。ウ軍ほどではないがミサイル攻撃の頻度が落ちていることから、生産が追いついていないと推測できる)
西側が兵器を送ったことは、逆にウクライナの破壊を進めることになった
・ロシアはウクライナの生産拠点の90%を掌握した。(*筆者注:90%はありえない。せいぜい50%程度だろう。しかし多くの生産施設の破壊も伴った)
・人々は「ロシアと中国が攻めてくる」と言うが、そんなわけはない。ナンセンスだ。その兆候さえ見られない。
・2001年以降、ロシアは西側と緊密に協力してきたが、我々が何もないところに敵を作りだしたことによって台無しにしてしまった。
・米国の腐敗したエリートたちを制御しなければならない。
・中国を敵視するまえに産業や農業に投資をし、移民流入を制御するなどやることがある。
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マクレガーへのインタビューは主に戦況についてだったが、西側のプロパガンダを真に受けることのない人々にとっての共通の理解といった感じだろうか。
だいぶ大袈裟な部分もあるが、私自身の理解とも大きく外れるところはない。

左派のみならず右派も、この戦争はおかしいと考え、非主流メディアから発し続けている。


以上、本日はここまでとする。

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