*この記事はシリーズ「全体主義からの脱獄」の一部となる。他の記事はこちらから。

 

6月29日、ジョー・ローガンのポッドキャストにラッパーのIce Cubeが出演した。
https://open.spotify.com/episode/1IWzs6El6E3pnF3n4Bysab

ジョー・ローガンは元総合格闘家で、1000万以上の視聴者を持つ世界一の人気配信者だ。
彼の政治スタンスは右派寄りとして認識されるが、過去にはバーニー・サンダースやアンドリュー・ヤン、トゥルシー・ギャバードら民主党大統領候補もゲストに招いている。サンダース出演の際はサンダース支持を表明した。
ワクチン懐疑論者でもある。

Ice Cubeはヒップ・ホッパーには「キング」として認識される、ヒップホップ黎明期のムーブメントの中心人物だ。
現在は俳優もやっているので、映画などで目にした日本人も多いだろう。
コロナ・ワクチンの接種を拒否したためにハリウッド映画の900万ドルの契約を失ったことでも話題になった。彼もワクチン懐疑論者だ。

そのローガンとIce Cubeが、大統領候補のRFK Jrに期待するとの旨の発言をした。
ローガンは、Ice Cubeを呼んだ前の週にRFK Jr.を番組に呼んでいた。

ローガンとIce Cubeの、RFK Jr.に関する会話をThe Hillが抜き出し、「Ice Cubeが、RFK Jr.をアメリカ帝国を止める存在として語った」と報道している。

▼Joe Rogan: Robert F. Kennedy Jr May SAVE The US Empire From Failing
The Hill

 

Ice Cubeは「RFK Jr.は真実を発するためにディープ・ダイブを行っているように見える。彼は内実を知っているし、俺たちをもっと先まで連れて行ってくれるかもしれない」と好意的に語った。

その約10日後となる7月11日、ケネディは「我が国で最も影響力のある歯に衣着せぬ公民権運動のリーダー、Ice Cubeと素晴らしい夕べを過ごした」として下記の写真をツイッターにアップした。(右側は元下院議員/元大統領候補のデニス・クシニッチ)


ところがこのことが「Ice CubeがRFK Jr.の支持を表明した!Sell Outした!」等として大炎上し、Cubeは「支持表明してるわけじゃねえよ。勝手なウソを広めてんじゃねえぞ、Bitch!」と激怒していた。下記ツイはその一幕となる。

 

このあたりの騒動はVibeで詳細が報じられている。
https://allhiphop.com/news/ice-cube-explodes-in-furious-twitter-rant-denies-sellout-claims-amid-criticism-of-robert-f-kennedy-jr-photo-op/?expand_article=1

しかし、Ice Cubeが激怒するのも無理はない。
例えば今年の5月、2020年の大統領選時に共和党・民主党双方と話したのはなぜかとインタビュアーに聞かれたIce Cubeは、「A Contract with Black America(アメリカの黒人の権利向上のための契約)」のためだったと説明している。
また、「俺は一度もトランプやバイデンを支持したことはない。アメリカの黒人は50年以上民主党を支持してきたが何も変わらない。変化が必要だ」と発言している。
https://www.thegatewaypundit.com/2023/05/hollywood-rapper-ice-cube-suggests-black-americans-should/

民主党だろうと共和党だろうと、黒人の公正な権利を獲得するために、どちらとも交渉するのがCubeのスタイルであるし、そのことを4年間幾度も説明してきた。

The Hillのキャスター、ブリアナ・ジョイ・グレイ(Briahna Joy Gray)によるIce Cubeの「A Contract with Black America」の説明は完璧だ。
Ice Cubeは、大統領選時にバイデン/トランプ双方と黒人の経済的権利向上のための政策実現を約束させた。とくにトランプは直接Cubeと会い、50億ドルの支援を約束した。
Ice Cubeの黒人社会に対する献身は本物だ。



グレイは、このコントラクトのアイデアを、サンダース支持者で経済学者のデリック・ハミルトンから得たと説明している。実際にハミルトンは、Cubeの共同作業者のようだ。
https://www.youtube.com/watch?v=LsCK_Ado3ys

ハミルトンはブルックリン出身で、ニューヨークの「ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチ(NSSR)」の教授だ。
黒人と白人の人種間格差を埋めるために、有色人種の出生時に政府補償で数万ドルの助成をする「ベイビー・ボンド(赤ちゃん債権)」を提唱している。
また、ジョブ・ギャランティー(総雇用保障)の庇護者で、反緊縮派でもある。
オカシオ・コルテス議員らの「The Squad」に所属するコリー・ブッカー議員(ニュージャージー)や、エリザベス・ウォーレン議員、カマラ・ハリス副大統領にも助言を与えているようだ。
https://moguldom.com/286086/10-things-to-know-about-influential-economist-dr-darrick-hamilton/
https://www.newschool.edu/nssr/faculty/Darrick-Hamilton/


Ice Cubeと「A Contract with Black America」は、Nation Of Islamやブラックパンサーなどのブラック・ナショナリズム・カルチャーの延長線上に位置する。
NOIは、マルコムXの出身母体のイスラム教系新宗教で、Cubeも帰依している。
パンサーは、マルコムらの公民権運動に続く70年代の黒人の権利向上運動で、Cubeはその分派の「ニュー・ブラックパンサー党」の党首とも親交が厚い。

パンサーの10綱領は、「1.自由、2.完全雇用、3.資本家の略奪の停止…」とあり、マルクス主義の影響が色濃い。
多くの日本人は黒人の権利運動=差別廃止だとイメージするが、それはあくまでガワの話だ。実務的には経済的公正性を勝ち取るための戦いでもあった。
https://note.com/revoices/n/n22c4eaca29d9

パンサーやNOIの運動のもう一つの大きな要素は、警察の不正逮捕などに対する戦いだ。
その意志を引き継ぐIce Cubeが所属していたグループ「N.W.A」は、1988年にリリースされた「Fuck The Police」(https://www.youtube.com/watch?v=7xz5ZA3vNNo)などの楽曲で警察権力を「血祭りにしてやる」などとこき下ろしたことで、FBIに目をつけられていた。


これこそ「歯に衣着せぬ公民権運動のリーダー」だ(笑)


Ice Cubeの「A Contract with Black America」はパンサーの10綱領をベースにしながら、なんと第4項目には「政府は完全雇用を目標とし、MMTを採用すべき」とあり、新自由主義からの転換も謳っている。


2020年9月17日、ステファニー・ケルトンの「財政赤字の神話」の画像をツイッターにあげ、「アメリカ人は金がないと嘆くが、実際には金の成る木がある」と発するIce Cube
https://twitter.com/search?q=from%3Aicecube%20america%20love%20to%20cry&src=typed_query

「国家の運営方法を完全にパラダイムシフトする時が来た」と語るこのコントラクトについては、以前の拙ブログ記事でもまとめたので参照いただきたい。

 

 

さて私は、Ice CubeにMMTを指南したというデリック・ハミルトンの存在はノーマークであったが、一つ思い出した動画がある。
2020年に大統領候補だったバーニー・サンダースのチャンネルにおけるプロモーション動画(2021/11/18)だ。

ここではハミルトンをはじめ、MMT派のステファニー・ケルトン教授と元労働長官のロバート・ライヒ教授も出演し、インフレと労働需給、経済的権利に関して「現在は人手不足の状況ではなく賃金不足の状況だ」と発している。
とくにハミルトンは「全人口に対する医療保険がないのは世界でアメリカだけだ。生産リソースとしての労働者の権利に焦点を当てることで経済発展する」と訴えかけている。


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ケルトンやライヒがフェローとして名を連ねるバーニー・サンダースの「サンダース研究所」のフェローにジェフリー・サックス教授がいる
https://sandersinstitute.org/about/fellows

ジェフリー・サックスは、RFK Jr.と一ヵ月ほど前にポッドキャストで対談している。
RFK Jr.を中心に、反逆者たちが集まってきている。もしくはRFK Jr.が反逆者たちを繋ぐ存在になっていっると表現したほうが正しいかもしれない。
https://www.youtube.com/watch?v=QyPC-cm0hhM

サックスは世界的に有名な経済学者で、コロンビア大学教授、国連のサステイナブル開発ネットワークの会長を務める。2001年から2018 年まで、国連事務総長特別顧問も務めた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Jeffrey_Sachs

バリバリのメインストリームの学者で、しかも権威的存在だ。

彼はまた、90年代から00年代にかけて、ソ連崩壊後のソ連や東欧各国に対して共産主義経済から市場経済への移行についての助言を行っている。そのなかで、ソ連のゴルバチョフとエリツィンに経済の助言を与える任に就いており、またウクライナのクチマ大統領(1994~2005)やユシチェンコ(2005~2010)の経済顧問でもあった。
(*筆者注:東欧のインフレと貧困は、主に急激な民営化のために起こった経緯があるため、私はサックス教授のこの当時の政策には批判的だ。例えば著書「ショック・ドクトリン」でナオミ・クラインにも批判されている)

また、彼はシリアから米軍は即時撤退すべき、ベネズエラへの制裁をやめろとの発信を行ったほか、ギリシャ危機時にはピケティ、ロドリック、レン=ルイスらと共にメルケルに宛てて「ギリシャに緊縮財政を押しつけるのは自殺行為だ」と手紙を書いた。
https://www.tagesspiegel.de/politik/jetzt-ist-der-zeitpunkt-die-gescheiterte-sparpolitik-zu-uberdenken-4686022.html

このあたりの彼の感覚は私たち反緊縮派とも共通するので、私は信頼できる主流経済学者の一人だと感じている。

また、サックスは、23年5月に国連のブリーフィングに参加し、ノルドストリーム爆破犯を米国らだと疑う発信を行っている。
 

 


そのジェフリー・サックスが、昨年11月にラッセル・ブランドのポッドキャストに出演している。

動画の内容は主にウクライナ戦争の原因と、停戦に向けての展望、そして人々がどうやって全体主義体制を脱獄するかについてだ。


本稿は長文になったので次回に続けよう。

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