今回は「なぜ、日本人は新自由主義に魅了されるのか?」シリーズの第六回です。

 

 

<分配すると成長する!成長した分から分配してるのではない!>
「②分配するためには成長しなければならない 『成長が分配より先』論は誤り!」



ひろゆき氏はネオリベの典型的なマクロ経済的誤りを可視化してくれています。
多くのネオリベは「経営者目線」であるため、マクロ経済の常識とはまったく逆の誤った解を導き出します。

ひろゆき氏と同様にネオリベの巣窟である自民党・維新・経団連・財務省・経産省などの人たちも同じ誤りを抱え、日本経済を破壊し続けていますので勘弁願いたいところです。

ひろゆき氏は、脳内が「外貨を稼げば経済が良くなる」という17世紀の重商主義のままであることは問題外ですが、本シリーズ第五回で論じたように、「投資より貯蓄が先」だと誤った設定を置いており、「有効需要の原理」を無視する観点に立っています。

また、本シリーズ第三回でお伝えしたように、低生産性企業を潰しても勤めていた人たちを社会から退場させられるわけではないこと、そして失業者や転職者の所得が減り、マクロにも悪い波及効果をもたらすことも理解していません。

このような危険人物を、大本営マスコミは毎日のようにメディアで持ち上げ、日本経済を破壊するために一生懸命頑張っています。

今回の投稿では、このネオリベ=新自由主義者の「分配のために成長しなければいけない」、「トリクルダウン論」を破っていきます。

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前回投稿で「ネオリベの重大な誤り」として以下のように問題設定をしました。



本ポストでは、②「分配より成長が先」論が誤りであること、つまり、「成長より分配が先」だということを論じます。
成長、つまり個人や企業が消費支出し経済に好循環をもたらすためには、分配が先になくてはなりません。

そして「分配」とは、まず政府支出することです。
政府が支出をして需要(購買力)を民間側に創出しなくては、国民は所得を伸ばすことができず、消費もできません。

お金がなければ誰も消費や投資をしませんよね。

「Japanification(日本化=日本のような低成長・低需要化」)」とは、日本を反面教師とする他先進国で共有される概念です。
日本のように不景気で企業が投資(分配)できない状態においては、政府が経済にお金を投じなければなりません。

(もちろん企業側も労働者を搾取してため込んでいますので、その企業の分配構造の是正も必要です)

特に日本は長期的に賃金が下落(実質世帯平均収入は20年で137万円下落)していて、完全に「供給>需要」の状態にあります。

主流派は「失業率が2%台だから完全雇用だ」と言いますが、年収300万円以下で働く人が35%もいるのですから、需要がまったく足りておらず、この人たちが満足に消費・投資できない限りは「供給<需要」にならず、インフレにもなりません。
潜在的な供給力があるのに人々の購買力(需要)が届いていない状態なのですから、供給力がフル稼働する完全雇用状態とは言えないということです。異端派・ポストケインジアン・MMT派はこちらの概念を使用します。

主流の新古典派・NK右派(ネオリベ)は、数学や45度線の関数グラフを道具主義的・盲目的に使用しています。
ケインズは一般理論で「いかに精密な道具を使用していても見当違いのものを測っていたら意味がない」という向きで古典派を批判していましたたが、道具主義者は100年経ってもモデルの不完全性を理解しようとしないないのだからかなりヤバめです。




例えば、ソロー=スワンモデルでは、その”長期の”成長モデルから政府や銀行の存在が消し去られてしまっています。

この場合の経済成長は、人口成長率と技術進歩率という外生変数によってのみ決定され、生産性向上もあたかも企業間取引の間でのみ生まれる外因性成長に根差すと設定しています(次回以降詳細に触れます)。

現実を分析するうえでは、単純化された数式や関数のモデルは仮想世界といえます。
ケインズ派は有機体主義を採用し、例え完全雇用の供給制約下にあっても、イノベーションとそれを支えるための支出が供給制約を押し上げると考え(長期の成長)、「合理的な個人」を代表とする道具主義に陥らないことを念頭に置いています。

道具主義・ミクロ志向の新古典派(ネオリベ)の目線と、経営者目線の人々の親和性が高いことは言うまでもありません。

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例として、文春や東洋経済にも寄稿する、マクロ経済を「経営の視点」で語る経営コンサルの日沖健氏の文章を見てみましょう。
岸田政権の分配重視の姿勢、特に経産省で唯一の反緊縮派・中野剛志氏の考え方を「共産主義的だ」等として批判しています。
 

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一方、分配と成長は相対立するわけではなく、逆に分配が成長を促すという見方もある。元経産省官僚の評論家・中野剛志は、「分配が成長のための最善の方法」「分配重視の岸田首相の政策は完全に正しい」と主張している。

中野の「分配が成長を促す」という主張の論拠は2つある。一つは、高所得者よりも低所得者の方が消費性向(=消費÷所得)が高いので、消費が増えるという点だ。もう一つは、広い層の国民が教育への支出を増やすので、人的資源が高度化するということだ。一つ目は短期の成長、二つ目は長期の成長を促す。実際、OECD加盟国では分配を強化したら成長率が高まったという実証研究もある。

この中野の主張が正しいなら、日本(や世界各国)はさっさと資本主義をやめて共産主義に転換するべき、という恐ろしい結論なってしまう。国家統制経済を目指す経産省のOBらしい発想だが、「おいおい(笑)」と笑って見過ごすことはできない。

▼日沖健 【経営の視点】分配と成長は循環するのか?
https://ameblo.jp/hiokicon/entry-12711572107.html
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社会主義や共産主義(マルクス主義)が、資本主義と相対する国家統制経済の概念であると理解する「冷戦脳」のまま、知識のアップデートができていない様には苦笑するばかりですが、この手の無教養な人たちにありがちな「分配より成長が先」論に立って論旨を展開しています。

岸田首相は「成長と分配の好循環」を謳っていますが、彼もまた「分配より成長が先」論に立脚しており、私や中野剛志氏の言う「成長より分配が先」論と相容れるものではありません。

実体経済市場においては、人々や企業が取引を介すことにより経済の好循環を促しますが、その原資がどこから来るのかに焦点を当てなければいけません。

続いてツッコミを入れていきます。

 

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岸田首相や中野の「分配が成長を促す」という主張には、大きな問題がいくつかある。

第1に、日本では分配を増やしても、消費も教育投資も増えないだろう。他のOECD諸国と違い、低成長・財政難の日本で国民、とくに低所得者は、雇用や年金が今後も維持されるか危惧している。この状況で給付金など分配を強化しても生活防衛のために貯蓄に回すことは、昨年の現金給付で証明済みだ。今回の給付で「貯蓄に回らないようにクーポン券で支給しよう」と検討している時点で、政府自身が分配で消費が増えると考えていない。
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御多分に漏れず「消費者は将来を心配して支出を増やさない」というリカード=バローの等価定理や非ケインズ効果を採用しているようですが、人々には、絶対的に手にするお金の量が足りないし、財務省やマスコミが「国にはお金がない」「国債発行すると財政破綻する」というような間違ったアナウンスを続けているのだから、人々は消費を抑えて当然です。

例えば、一律給付金も一回限りの10万のものではなく、アメリカのように15万円×3回にすれば、人々の将来の見通しも変わり、だいぶ結果は変わったはずです。

 

続いて日沖氏の論理にツッコミを入れていきます。

 

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仮に、百歩譲って「分配→消費→成長」という流れが実現するとしても、分配重視には長期的に大きな弊害がある。

第2に、分配重視でイノベーションや創業が停滞するだろう。せっかくリスクを取り、努力してイノベーションや創業を実現しても、その成果が低所得者に分配されるだけなら、馬鹿馬鹿しくて誰も創業・イノベーションに挑戦しなくなる。分配重視によって、ただでさえも停滞しているイノベーションや創業がさらに減り、少しくらい消費が増えても、日本・日本企業の国際競争力はますます低下していく。
(中略)
以上から、分配重視の「新しい資本主義」は、ちゃんちゃらおかしい、という結論になる。岸田首相が政策を本格始動する前に、何とか軌道修正して欲しいものだ。

ところで、個人的に残念なのは、「新しい資本主義」は、資本主義をやめて共産主義を目指そうか、という国家の大計なのに、中野のような御用評論家や私のような胡散臭いコンサルタントが吠えているだけで、政治家や経済学者の議論が低調なことだ。「どうせ岸田なんて1年くらいで退陣するから、好きなことを言わせておけ」という認識だろうか。国家の針路が何となく雰囲気で決まるとすれば、国家の重大な危機だと思う。
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日沖氏の言う「分配重視でイノベーションや創業が停滞する」なんていう実証結果は存在しませんし、企業はバブル以降最高益を上げているのに、内部留保金で株式投資・マネーゲームばかりしているのですから、是正されてしかるべきでしょう。
自社株買いなどのマネーゲームを規制しなければ、企業の利益が人材・設備投資に向かうことはありません。


 出所:山本太郎衆議院議員
https://news.yahoo.co.jp/articles/e2f61904312d481cf0c681086f04f16358db036c?page=4


この手のネオリベは上述したような「ソローモデル」を採用していますが、その成長モデルからは政府支出や銀行による信用創造の存在が消し去られてしまっています。
しかし当然ながら、政府支出や銀行の信用創造なしに貨幣がこの世に供給されることはありません。

このように、ネオリベの脳内では「貯蓄から投資を行う」という固定概念がこびりついているため、「成長して利益を確保した分から分配・投資するのだから、分配より成長が先だろ!」となってしまいます。

この点は、ケインズ派の有効需要の原理だけでも説明できそうですが、MMTのスペンディング・ファーストの視点からも「分配より成長が先論」は完全に否定されます。

なぜって? 「国定信用貨幣論」が資本主義の基本だからです。
お金は何もないところから創れるのです。

以上のことから、この手の話が「ニワトリが先か、タマゴが先か」という神学論争ではないことが理解できるでしょう。

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東洋経済などの経済誌でもおバカなネオリベが愚論を投じていますが、テレビの世界でも愚かな人たちが得意げに誤った言説を垂れ流しています。
先日、安部俊樹という若手のネオリベが、アベマプライムにて山本太郎に噛みついていました。

 

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安部俊樹氏:
アメリカの株式市場がめちゃくちゃ成長しているのは、トップの10社、20社がすごいからなんですね。
これはれいわ新選組のジレンマだと思うんですが、つまるところ、格差を許容しないといけないんですよ。
出てきた格差をもっとスッゲェ儲かる企業たちが更に再投資をしてもっと儲かるようにしていく。それによって余剰分が生まれていく。
その生まれた余剰分が再分配の原資になっていくわけです。

一定のところで格差を許容し、その格差がどんどん延びて行かないと、産業、お金を稼ぐ力が下がってしまう。

当該発言部分の動画: 番組全体の動画 https://www.youtube.com/watch?v=iW5gkmMKAN0
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はい、典型的な「トリクルダウン論」です。
安部俊樹は30代でだいぶ若いから、日本のネオリベの教祖・竹中平蔵ですら「トリクルダウンは起こらない」と言ったことを知らないのではないかと感じた方もいらっしゃるでしょうが、それは違います。
安部は、竹中と「日本につけるクスリ」という共著を出すくらいの竹中フリークなので知らないわけがありません。
「日本につけるクスリ」は我々に任せてもらって、彼らは「自分自身の頭につけるクスリ」を考えてほしいですね。

山本太郎はテレビに出演する政治家として「またご意見を聞かせてください」なんて大人の態度で接しましたが、実際、安部俊樹の愚説は、高校生くらいの子が専門知識なしに考えた「ぼくのかんがえたさいきょーのけいざい」程度のものです。

安部や竹中は「再分配により格差を是正させる」と考えていますが、その前に政府による分配・投資がなっていないという視点がすっぽり抜け落ちています。
これは結局、「分配より成長が先」、「投資より貯蓄が先」と謝った前提を設定してしまっているからです。

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経営者目線の人は自分の足元で起こるミクロのことしか考えていないので、マクロ経済学の知識がまったくありません。
というか「俺たちを儲けさせるために規制緩和して法人税を減税しろー!」程度の頭しかありません。

政府が分配・投資をしないので、実体経済が疲弊し、企業も儲からず、分配・投資をしない。
その悪循環を25年間続けた結果、日本は衰退国家まっしぐらです。

  *小さすぎて目視できないと思いますが、一番左端、つまり世界でもっとも政府支出していないのが日本です。

 

 一目瞭然。政府支出こそが給料の増加に繋がります。(*その間には別の変数も加わりますよ)
出所: 二枚ともTasan氏 https://twitter.com/tasan_121

ひろゆきや日沖健、安部俊樹、そして岸田首相が言う「分配するための成長」は、いくら待ってもやってきませんし、トリクルダウンも起こりません。
 

 

 


本日はここまで。
次回は「③銀行貸出は銀行預金を元手に行っている 『銀行預金が銀行貸出より先論』」についてです。

ではまた次回!

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