Marvin Gayeファンも知らない「You're The Man」という謎曲がすごい。
筆者も昔聴いたことあるような気がするけど、どのアルバムにも入ってない単曲で、ベスト盤にしか入っていない。

ところがこの楽曲「You're The Man」だが、同タイトルの幻のアルバムがあって、71年のアルバム「What's going on」の大ヒットを受けて72年にリリースされるはずだったが、あまりにも政治的すぎてMotownの創設者Berry Gordy Jr.の反感を買い、お蔵入りとなった。
このことに関してマーヴィン・ゲイのファンとしては「何してくれてんのクズ社長」と思うばかりだ。

参考サイト:
https://www.discogs.com/ja/Marvin-Gaye-Youre-The-Man/master/1524265
https://en.wikipedia.org/wiki/You%27re_the_Man_(album)
https://consequenceofsound.net/2019/02/marvin-gaye-youre-the-man-official-release/
https://www.rollingstone.com/music/music-news/marvin-gaye-lost-album-youre-the-man-release-791201/

ゲイはゴーディーの姉アンナと1963年に結婚していたが、70年前後より結婚生活が破綻、その後も離婚訴訟などが続き、複雑な事情があったのかもしれない。
それにしても、50年間も何をやっていたのだろうか。

その幻のアルバム「You're The Man」だが、Youtubeのゲイの公式で全曲公開されているのでぜひ聴いてみてほしい。

プレイリスト全体→ https://www.youtube.com/watch?v=1l1lMgDAMcg&list=OLAK5uy_kSqiow3Icc4bUL_a-0HBGP20KWmRdfet8&index=1

なんとアルバムの全17曲中15曲が封印されたままであったが良曲も多く、もしちゃんと制作されていれば傑作になっていたことは間違いない。

本アルバム収録予定曲は、政治色の強い曲が多かったが、特にタイトル曲の「You're The Man」は、ガチンコ政治ソングだ。
この曲は、主に1972年の大統領選挙に基づいて作詞・作曲された。

ゲイは民主党の大統領候補者George McGovernを支持していたのではないだろうか。マクガヴァーンは反戦運動や最低所得保証などの政策を支持していたからだ。

共和党候補は現職のニクソンだったが、この時に民主党全国委員会(DNC)の本部を盗聴するウォーターゲート事件を起こし、このことが原因で再選した二年後に任期途中で辞任している。

楽曲「You're The Man」の中では「Maybe what this country needs is a lady、Is a Lady for president」と歌っているので、1972年1月25日に大統領候補に立候補することを発表したニューヨーク在住の黒人女性シャーリー・チザム議員を応援していたのかもしれない。
チザムは大統領指名に立候補した最初のアフリカ系アメリカ人女性だった

幻のアルバム「You're The Man」は、2019年の大統領選の前年にリリースされたが、ゲイの意志を反映させるかのようで、このあたりは評価したい。


さて、筆者が調べた限りだが、アルバムの構成楽曲はおそらく以下のようになる。
 

【アルバム「You're The Man」収録曲】
01. You're The Man    5:45  
  72年のオリジナル7 inchでは「Part 1」と「Part 2」は別曲となっていて、95年のベスト盤「The Best Of Marvin Gaye」以降で「You’re the Man, Pt. I & II」として披露される

02. The World Is Rated X (Alternate Mix)    3:50
  2001年にリリースされた「Let's Get It On (Deluxe Edition)」に「The World Is Rated X (Alternate Mix)」として収録

03. Piece Of Clay    5:10
  完全未発表曲

04. Where Are We Going (Alternate Mix 2)    3:53
  2001年にリリースされた「Let's Get It On (Deluxe Edition)」にほとんど同じバージョン(口笛の挿入箇所やヴォーカルのテイクとミックスが若干違う)が「Where Are We Going? (Alternate Mix)」として収録

05. I’m Gonna Give You Respect    2:55
  2001年にリリースされた「Let's Get It On (Deluxe Edition)」に「I’m Gonna Give You Respect」として収録

06. Try It, You'll Like It    3:55
  2001年にリリースされた「Let's Get It On (Deluxe Edition)」に「Try It, You'll Like It」として収録

07. You Are That Special One    3:35
  2001年にリリースされた「Let's Get It On (Deluxe Edition)」に「You Are That Special One」として収録

08. We Can Make It Baby    3:20
  2001年にリリースされた「Let's Get It On (Deluxe Edition)」に「We Can Make It Baby」として収録

09. My Last Chance (SalaAM ReMi Remix)    3:40
  完全未発表曲

10. Symphony (SalaAM ReMi Remix)    2:52
  2001年にリリースされた「Let's Get It On (Deluxe Edition)」に「Symphony (Undubbed Version)」、「Symphony (Demo)」として収録されているが、Vocalパート以外はまったくバージョンが異なる

11. I'd Give My Life For You (SalaAM ReMi Remix)    3:31
  2001年にリリースされた「Let's Get It On (Deluxe Edition)」に「I'd Give My Life For You (Alternate Mix)
」として収録されているが、まったく異なるバージョンである。おそらくドラムだけを打ち込みに差し替えたのではないかと推察する。

12. Woman Of The World    3:30
  完全未発表曲

13. Christmas In The City (Instrumental)    3:48
  完全未発表曲

14. You're The Man (Version 2)    4:40
  2001年にリリースされた「Let's Get It On」のDeluxe Editionに封入されていた「You're The Man (Alternate Ver. 2)」に該当する。(別マスタリングバージョン)

15. I Want To Come Home For Christmas    4:48
  1990年発売のベスト盤「The Marvin Gaye Collection」に収録

16. I'm Going Home (Move)    4:38
  2011年にリリースされた「What’s Going On (40th Anniversary Super Deluxe Edition)」に収録されている。

17. Checking Out (Double Clutch)    4:50
  完全未発表曲

https://www.discogs.com/ja/Marvin-Gaye-Youre-The-Man/master/1524265
https://www.youtube.com/watch?v=2XqIwvorqK8&list=OLAK5uy_kSqiow3Icc4bUL_a-0HBGP20KWmRdfet8&index=4


全体的に01年の「Let's Get It On (Deluxe Edition)」に収録されていた曲が多いが、同曲であっても、19年の新作アルバム「You're The Man」のほうがミックスも筆者の好みではある。(I'd Give My Life For Youを除く)
「好み」というのは、「What's Going On」と「Let's Get It On」の間に出された作品として解釈したとして、時代の空気感とゲイの意図をより正確に再現しているように思えるのが後者だからだというのが理由だ。

ナズやフージーズ、エイミー・ワインハウスなどの作品で知られる有名作曲家でプロデューサーのサラーム・レミが3曲リミックスを担当しているが、筆者個人ははあまり好きではない。

音楽文化をこよなく愛する身として、故人の未発表曲をリメイクする場合は、その制作者個人の解釈や趣向を表に出すべきではなく、歴史的背景や原作者の意図を加味した上で、原作を忠実に再現するよう努め制作するべきであると考える。

この新作アルバム「You're The Man」に、SalaAM ReMiがRemixを担当した三曲を加えるのであれば、例えば各インストゥルメントのパートが存在しないのなら、当時の作風を研究して完全再現するべく新録すべきであったと考える。
正直言って、ゲイの47年ぶりの新作アルバムとしての当プロダクションに対して、軽薄な打ち込みドラムを採用したこの部分に関しては、極めて残念な結果をもたらしたと評価できるだろう。
この三曲はゲイの良さも、打ち込みサウンドの良さも相殺してしまったバッド・ケミストリーであったように感じる。


それにしても、歴史に「IF」はないと言われるが、これが72年に世に出されていたら、当時のゲイの評価もまた変わっただろうし、ひょっとしたら「Let's Get It On」以降の官能路線もなかった、つまりカーティス・メイフィールドのようなポリティカル路線をひた進んだかもしれない

この幻のアルバム以降、Trouble Man(72年)やLet's Get It On(73年)では政治色がまったくなくなってしまったのだ。



本日はここまで。

次回は楽曲「You're The Man」のリリックを読み解こうと思う。
ここに数十年間封印されたマーヴィン・ゲイの知られざる思想がある。

最後までご覧いただきありがとうございました。
また次回

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