地元の整備工場さんからのご依頼。
強烈な変速ショックが起こるエクシーガがあるとの事で、ATF交換のご希望です。
しかし、スバル車で起こるこの症状は、ATF交換では直りません。
まずは診断機を接続して、トランスミッションに入っているDTCをチェックします。
案の定、検出されてきたDTC「P1710」を確認。
※他にも、P0705も同様の修理方法になります。
これはバルブボディ上部に取り付けられているタービン回転センサーの不良です。
私がこのトラブルに一番最初に当たったのは2021年でした。
元々はトラブル多発故案件故に保証延長もされていましたが、その延長期間を過ぎて後に発症するスバル5AT車もちらほら。
2021年に他の整備工場さんより相談を頂いた事に端を発し、そこからあれこれと調べ始め、どうにかタービン回転センサーに関する資料に辿り着きました。
そして、通常の方法で部品オーダーをしても注文が通らない&手配出来ない所を、別の方法での発注方法に辿り着く事が出来て、スバルのスタッフさんからの協力で2017年当時の資料まで手に入れる事が出来ました。
しかし、、、、
私はそれらの方法を同業者さんにお教えしたり、時には部品もお譲りしたりするばっかりで、何故かフリークにはこの修理が入って来ない(笑)
※誤解を招かないように補足しますが、この様な入手困難部品の入手方法をどうにか入手し、それを同業者さんに提供したりする事で、同様の症状でお困りの自動車オーナー様&整備工場様が問題解決の方法を知り、実修理に取り組める様にする事が私の生業だと思っています。スズキ車で多発中のセカンダリー圧センサー系統異常の対策部品もそのひとつです。今ではバルブボディASSYでの注文すら困難な状態になっていますが、そんな高額な部品代を支払わずとも、元凶となっている部品をピンポイントで入手可能にし、弊社に常に10個以上の部品を在庫する事で、全国の整備工場さんへの安定供給を行えています(交換要領書も付属)。
せっかく頑張って調べ上げたのだから、死ぬまでに一台はやってみたいなぁ~なんて冗談みたいな事を考えていましたが、この度とうとうフリークにもタービン回転センサー不良と思しき患者さんがご来店。
DTC調べるとドンピシャ!のP1710。
とうとう私にも触れる瞬間が訪れました。
それにしても物凄いショックで、ちょっと油断していたら本当にムチ打ちになります。
この症状は、
・レガシィ(BM/BR、BL/BP)
・WRX(GR/GV)
・フォレスター(SH)
・エクシーガ(YA)
上記の車両で主に多発しています。
そして、今回のDTCはP1710でしたが、先述した通り、P0705を検出する事もあり、そちらの場合も本来でしたらバルブボディ丸ごと交換案件ですが、このタービン回転センサー交換にて対応可能です。
ATFを排出。
比較用に少し採取しておきます。
現在の走行距離は84,500km。
おそらく今日現在まで交換歴は無いと思われます。
オイルパン取り外し。
スバル車ではこの5AT車のストレーナーすら部品として供給されていません。
5ATにも2種類ありまして、前期・後期モデル、
そして4ATにも前期・後期モデルがありますが、
その全てに於いてストレーナーは供給ナシです。
フリークのグループ会社であるフリークネットでは、これらの入手不可ストレーナーも取り扱っております。
スバル車では、上記5AT及び4ATに使われている全てのストレーナーを常時在庫し、現在では全国に400社以上あるお取引整備工場様や自動車部品商様へ納品させて頂いております。
オイルパンは無理すれば再利用できますが、オイルパン取り外しの際についてしまう傷や、ベタベタに塗られた液状ガスケットの剥離作業工賃などをトータルで考えると、新品交換する側に完全に軍配が上がります。
磁石にも大量の鉄粉が付着。
元凶となっているタービン回転センサーは、このバルブボディ上部に装着されています。
バルブボディ取り外し。
バルブボディの上側です。
細いハーネスが伸びて来て、その先に黒い部品が10mmボルトで取り付けられています。
これがタービン回転センサーです。
内部に溜まっている汚れたフルードを排出して行きます。
タービン回転センサーは、その他のセンサー類・ハーネス類とセットになった状態で供給。
どんどん汚れを排出して行きます。
オイル吸着シートにはドス黒いATFがどんどん流れだして来ています。
こちらはバルブボディ下側。
タービン回転センサー及び付随するセンサー&ハーネス類を取り外します。
新品部品に交換。
元凶となっていたタービン回転センサーもご覧の通り、新品に変わりました。
何だか、誇らしくそびえ立っているいる様に見えるのは私だけ?
・・・でしょうね。
バルブボディ装着。
この時点までに、ミッション側に残った液状ガスケットの残骸は綺麗に処理しておきます。
新品のオイルパン、そして新品のストレーナー。
話しちょっと脱線しますが、、、
スバル車でもそうですが、他の自動車メーカーでも、部品として供給されないストレーナー(フィルター)が結構あります。
百歩譲って金属メッシュタイプならまだ清掃可能ですから良しとしますが(それでも嫌ですけどね)、この5ATの様に不織布タイプで供給が無いっていうのはちょっと信じられないですよね。
ある一定以上で飽和状態を迎え機能しなくなる事は目に見えています。
その「ある一定以上」で不具合出て欲しいの?壊れて欲しいの?
長く大切に使う日本人の美徳は遠く昔の事となり、特に工業製品に於いては定期的に買い替えて貰う事が正しいとされています。
その事でその産業が成り立っているという一面は否定出来ませんが、、、
5年毎に新車に買い替えられる人には無縁の事かも知れませんし、そういう「いち工業製品」としての観点もありと思いますが、車ってちょっと違う一面も持っていますよね。
テレビや洗濯機が壊れたら買い替える。
これは分かります。
「この洗濯機は長年共に過ごして来た相棒みたいな奴なので、まだまだ元気に頑張って欲しいから、どうにかして直したい」という方って、あまり居られないように思います(居たらホントごめんなさい)。
でも車って、一般家電とはちょっと違った感情移入がありますよね。
大切にしたい、出来るだけ乗り続けて行きたい、最後の車はこいつで、など・・・
そういう思惑を持った人にもちゃんと寄り添ってくれるメーカーであって欲しいと、自動車整備をやっていて思います。
そして、このエクシーガは「直そう!」と思ってくれるオーナー様と知り合えて幸せ者だな、とも。
スバル5ATには隠し?フィルターがあります。
ま、有名な事ですが。
それにしても、何故にこの様な整備性の悪い場所に付けたんだか。
バッテリーを外したその奥。
交換の際はATFがボタボタと垂れます。
ATF漏れとの誤解を生んでしまう事が無いよう、事前にウエスを下に敷き詰めて、垂れて来るATFを全て吸着させます。
新品に交換。
このフィルターは純正供給あるんですよね~
トルコン太郎を接続して、ATFを初期充填。
エンジン始動。
エンジンをかけて油温を上げ、最初に油量調整を。
少ない状態、もしくは多過ぎる状態で圧送交換する事が無い様、適宜油量確認及び調整は必須です。
圧送交換開始です。
合計19リットル使い、ここまで綺麗になりました。
圧送交換は油量計測のシステム上、繰り返す回数が多くなればなるほどミッション内全体油量は微妙に減っていきます。
最終の油量調整は残った1リットルで行います。
見事なまでにドンピシャ!(自分で言うな!?)
油温がしっかりと上がった状態で、ATF量はぴったりHOTのフルレベルに調整完了。
最後にしっかり試運転をし、その後再び診断機接続して故障診断実施。
何もエラーが入っていない事、そして走行・変速フィーリングが絶好調な事を確認し、漏れの有無指差し確認にて全ての作業は終了です。
ご依頼頂きました業者様、オーナー様、ありがとうございました。
死ぬまでにやっておきたい事がひとつ、叶いました(笑)