生きる喜びを求めて | ぶなまつの昆虫的人生エッセイ

ぶなまつの昆虫的人生エッセイ

昆虫の「生活史」をメインに、裏山にて「ソロ虫活」を楽しんでいるシニアです。
読書と哲学と自然が大好きです♡
イハレアカラ・ヒューレン博士を心の師としています。
平和(^^)/は私から始まる。
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  季節の変わり目の夜
         生きることの不安に襲われ
           胸苦しく過呼吸になる
 
 
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   崩れそうな曇り空
   ドライブをしながら秋を探す
   後の席に妻ひとり
   虫に興味はなし
   高山の葉色は緑薄く
   夏の終わりを感じさせる
 
  
   晴天の下
   タチヤナギの枝を囓るヒメオオクワガタ
 
  多くのクワバカたちにとって、これが採集のラストとなる
  
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   道沿いのヤナギを両手で揺らしてみると
   頭上から小さな黒い塊がポトポトと落ちてきた
   まるで今日の空模様のように
   漆黒の雨粒がひとつふたつとアスファルトに音を立て
  
 
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    アカアシクワガタ
   標高500メートルほどの高地に生息する
   小集団で活動する高山種
 
   ハッとする漆黒と赤色
   日本刀のように細く曲線的な大アゴは
   鎧をまとった足軽に似ている
 
 
   「息子が小さいころまでこの場所は多産地だった
     随分と少なくなってきた」
  
    そんなことを思いながらアスファルトの数頭を拾う
 
    やがて本物の雨が身体を濡らし始めた
 
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   崖下から聞こえてくる谷川の音
  
    この場所は初めて息子と
  
    ヒメオオクワガタを発見した思い出の場所
 
      アカアシクワガタ
 
    スジクワガタも同時に見れる
 
 
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    斜面に沿いながら根を張り続けるタチヤナギ
 
   気持ちが高ぶり童心に還る
  
    ここは身体の危険も伴う場所
  
    藪こぎをする前に大きく深呼吸
 
   慎重に藪を押しのけじっと目を凝らす
 
 
   まとわりつく蔦や石で身動きがとれず
  
   首筋や手のひらがかぶれてくる
  
   藪下を見ると捨てられた家電ゴミや空き缶類
 
   「天空のクワガタの生息地にゴミなんか捨てるな!」
 
   そんな気持ちになりながら再々藪漕ぎを繰り返す
  
   何度つまずいても
 
    何度尻餅をついても
 
    天空のクワガタ求め立ち上がる
 
    汗びっしょりの衣服にヤナギの匂いが染みつく
 
   「それほどまでしてお前はヒメオオクワガタを見たいのか?」
 
    心の声が聞こえてきた
 
   「こんなことをして何になるのか?」
 
   それは俺もわからない
 
    でもヒメオオクワガタを見たい
 
    あきらめられない
 
    あきらめたくない
 
   馬鹿な気持ちだけではだめなのか?
 
 
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    藪の中の枝を慎重に見ていく
 
   薄暗い雨雲がヤナギの葉色を薄影に染める
 
   新しい囓り痕も見つからず
 
   頭上に昇るクワガタの気配もなし
 
     藪の陰にひっそりと隠れているのだろうか?
 
   静かに息を吐いて間をとる
 
   「・・いた」
 
   藪の中じっと動きを止めながら茎を囓る♂と♀
 
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   「落ち着け 
            まずはカメラだ・・」
 
   首にかけているデジカメを取り出し急いでシャッターを押す
 
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    だめだ・・
 
   このままでは身動きとれない
 
   バランスを崩しながらも捕虫網を持ち
 
   身体中に絡みついた蔦を外そうとしたその瞬間
 
   ポトッと落ちる音がした
 
   「わずかに目を離した瞬間に逃げられた・・」
 
 
   それでも捕虫網には1頭の♂が入っていた
 
   「1頭のヒメが網に入ったぞ
 
        今季もヒメオオクワガタに出逢えた!」
 
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    小さめの♂を追加し2時間半の採集が終わった
 
   採集数は2頭♂だけだが
 
   生存の確認ができたことは何よりも嬉しかった
 
   雨降る薄暗い高山を背にしながら妻と家路に向かった
  
    天空のクワガタ採集は
 
             確かな生きる喜びを与えてくれる
 
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         平成8年9月4日(日) 宮城県・・曇りのち雨 気温26℃