またしても昭和歌謡界の巨星墜つーーー。今日の昼休み、川口真先生の訃報を知った。朝書きかけていた原稿は後回し、急きょ川口先生追悼のブログに差し替えることにした。

 

 私などが改めてここに書くまでもなく、川口先生は日本が産んだ偉大な作編曲家のお一人だ。数多のヒット曲があるが、作曲作品で特に私が好きだったのは「手紙」(由紀さおり)、「弟よ」(内藤やす子)、「他人の関係」(金井克子)などだ。そして「ウルトラマンタロウ」の主題歌も忘れられない。

 

 

 宏美さんのシングルでは「熱帯魚」がある。他にも「夏のたまり場」「幸福号出帆」「スリー・カラット・ダイヤモンド」等、B面やアルバム曲でも心に残るものが多い。今日は、その中の一曲、『緋衣草』に入っている「さ・よ・な・ら」を取り上げることで、追悼としたい。タイトルも先生をお送りするのにふさわしい。

 

 

 この「さ・よ・な・ら」は、『緋衣草』のB面3曲目に収められている。作編曲はもちろん川口先生だが、作詞には聞き慣れない「上田成幸」という名前がクレジットされている。この「上田」さんは、実はあの「高校三年生」の舟木一夫さんの本名だそうだ。「上田成幸」で検索してみたら、10曲あまり舟木さんご自身の楽曲を作詞・作曲していらっしゃることが判った。宏美さんの楽曲の作詞をされることになった経緯は、ライナーノーツによれば「ディレクターの飯田(久彦)さんがいろんな方との接点の中で、あれこれお願いして下さったので」とのみ書かれている。

 

 同じくライナーノーツに「でも、この『上田成幸』さんが何故『舟木一夫』さんだと知ったかというと、タイトルが『さよなら』ではなく『さ・よ・な・ら』となっているのがすごく気になって『なんだか珍しいですね』と話していたらスタッフが教えてくれたんです」というエピソードも紹介されている。私に言わせれば、歌詞には「さ・よ・う・な・ら」と出てくるのに、タイトルが「さ・よ・な・ら」な方が不思議だが…。😜

 

 上田さんによる詞は、恋人との別離による孤独感と絶望感に苛まれている悲劇のヒロインの心情を歌ったものだ。春は逝き、旅(海、空)の果て、わたし(心)ぽつん、などの言葉がこれでもかと並び、救いがない。特に私に“死”をイメージさせるのが、2番のサビの「♪ こんなあかるい海でなら/沈むつらさもないようで」の部分である。

 

 曲はAマイナー。分かりやすい構成で、AA’BAA’×2+BAA’のツーハーフ。前奏・間奏・後奏の咽び泣くようなギターソロがたいへん印象的である。Aパートの部分は、宏美さんの歌い方は歌詞にも出てくる通り恨みがましくはなく、全体に諦観が漂う。ゆっくりな16ビートだが、サビのBパートではスネアが倍に増えて疾走感が出る。そこでは音域も上がり、

 

♪ 見つめすぎたとずくのが

♪ こんなあかるい海(み)でなら

♪ 責めるつもりはいのです

 

の太字にした音は、最高音の上のDである。1番3番はファルセット、件の2番の歌詞ではスクープして地声で歌い上げている。また、Bパートの最後でバックの音数が減るところのハンパな「♪ 遅すぎて/立ちつくす/さ・よ・う・な・ら」もとても耳に残る。それだけに、タイトルはやはり「さ・よ・う・な・ら」の方が自然だったのではないか、と思ってしまうのだが。

 

 

 川口真先生が宏美さんに書いてくださった楽曲の中で、ワタシ的にナンバーワンなのは、やはり何と言っても「学生街の四季」である。今晩はこれを最後に聴きながら、心から川口先生のご冥福をお祈りしたい。先生、たくさんの素晴らしい音楽をどうもありがとうございました!どうぞゆっくりお休みください。🥰

 

 

(1981.7.5 アルバム『緋衣草』収録)

 

【追記 2021.10.31】舟木一夫さんのファンの方から、この曲とほぼ同じ歌詞で舟木さんご自身が作曲された「END-FIN-FINE(ラストシーン)」という曲が、自作集のアルバム『WHITE Ⅲ』に収録されていることを教えていただきました。発売から40年を経て、この歌に出会えたことに感謝です。

 

 男性の舟木さんが、女性の言葉で喪失の哀しみを歌うこちらも、心に響きます。ツーコーラス後に半音上がり、よりいっそう切なさが増します。舟木さんの今後のさらなるご活躍を祈念したいと思います。