「♪ 私あなたの車を見かけたの 秋の風の中で〜」ーーーちょうど今くらいの季節だろうか。8thオリジナル・アルバムのオープニングを飾るインパクト抜群のナンバー、アルバムタイトルに絡む作品でもある。作詞が阿木燿子さん、作編曲が川口真先生。

 

 1980年の前半だと思うが、何かのラジオ番組に宏美さんが出演され、アルバム曲を3曲流したことがあった。よく覚えているので恐らく録音しながら聴いていたと思われる。ライブ盤から「なごり雪」、直近アルバムから「通りゃんせ」、そしてもう1曲がこの「スリー・カラット・ダイヤモンド」だった(『30TH ANNIVERSARY BOX』にも選ばれているので、宏美さんのお気に入りなのは確か)。

 

 その時、宏美さんはこの曲について触れ、「とにかくイントロが長い」「『万華鏡』の時にシングル候補だったが、スバルレオーネとのタイアップがあったので、この曲のタイトル、内容が他社さんのイメージということもあり…」と仰っていた。ダイヤモンドということで、三◯さんか。

 

 この曲がシングルだったら、どんな感じになっていたのか興味はある。だが、「万華鏡」は宏美さんの歌手活動史上の重要な楽曲なので、「万華鏡」がシングルでなかったら、と言うことはやや考えにくい。

 

 歌の内容はと言うと、偶然見かけた彼の車の助手席で艶やかに笑っていた女性は誰なのか?主人公は疑いと嫉妬に苛まれる。そして(泣いたりしないから お願い教えてよ……)と彼に迫るのだ。歌詞も曲も、若干濃い目の作りになっているように思う。

 

 曲に目を向けると、宏美さんの言われる通り、まず同じモチーフの繰り返しを多用した長大なイントロ(1分弱!)が耳に残る。中でも、「B-D-E-F♯、F♯-E-C♯-F♯」のモチーフ(譜例1)を執拗に繰り返す。16ビートのハイハットが、ハイスピードで車を飛ばすような疾走感を煽り立てる。

 

 

 歌のAパートは、メインボーカルもバックコーラスも、基本同じモチーフを4回繰り返す(譜例2)。しかもバックコーラスのモチーフは、イントロで用いられたものと全く同一(赤枠)である。これは、整理がつかずグルグルと同じ思考を堂々巡りする主人公の心情を表しているかのようである。

 

 

 Bパートのブリッジの部分に入ると、「♪ そう 偶然は時々心に悲しみを運ぶわ〜」からは若干平行長調に傾斜するが、明るくなり切れず、再び恨み言を繰り返すのである。「♪ 3カラットのダイヤモンドの嘘ね〜」からのサビは、ハーモニーが重なって来て、いっそう哀しく響く。

 

 2コーラス目が「♪ 私の愛をはじいているわー」で終わると、バックのメロディーが半音ずつ上がり、ベースが半音ずつ下がるインパクト抜群のフレーズ(譜例3)が鳴り響く。まるで車が大きくハンドルを切って別のルートに乗り換えるように。その後、ノーコードからワンコードで、エレピのようなインプロビゼイション(後半)と共に不可思議なハンドクラップが16小節も続く。

 

 

 すると、今度は譜例1のモチーフに「♪ 泣いたりしないから お願い教えてよ」という歌詞が乗せられ、4回繰り返した後、クライマックスでサビが戻って来る、という凝った作りになっているのだ。この間奏に至っては、何と1分を超える長さである。

 

 

 このとにかく濃くて不思議な歌を、まだ二十歳になったばかりの宏美さんが見事に自分のものとして消化し、歌っているように聞こえる。だが、ライナーノーツによれば、当時は「言葉を理解する時間自体なかった」し、「わからないのが沢山あるから、リズムに乗って歌うことに専念し」ていたとか。「でも、当時の録音を聞くと、まるで理解しているように歌っていて、(中略)感心します(笑)」と宏美さんご自身も仰っている。まさに「天賦の才能」と言うしかないであろう。

 

(1979.10.5 アルバム『10カラット・ダイヤモンド』収録)

 

P.S.昨日放送された「らじるラボ」の聴き逃し配信を今日聴くことができました。Baby Boo の皆さんとのア・カペラのコラボ、「思秋期」「残したい花について」最高でしたね❣️😍