昨日のブログ「アメージング グレース」が、Amebaブログの#岩崎宏美ハッシュタグが付いた投稿の、記念すべき2,000投稿目をゲットした。地味に嬉しい。😊先日私は500投稿を達成したので、#岩崎宏美ハッシュタグのうち4分の1は私の投稿と言うことになる。われながらよく書いたものだ。

 

 

 本日のお題「ジェラシーの鍵貸します」は、通算で言うと16枚目のオリジナル・アルバム『cinéma』に収録されている快作。タイトルを見た途端、オールドファンならビリー・ワイルダー監督の名画『アパートの鍵貸します』(1960,米)を思い出すだろう。

 

 『アパートの鍵貸します』は、ジャック・レモン扮する主人公が、出世のため複数の上司に、愛人との密会用に自分のアパートの部屋を時間貸しするロマンティック・コメディである。上司の愛人に本気で惚れてしまい、最後は会社も辞めて彼女に告白する。名作の誉れ高き映画である。

 

 明石家さんまさんが、『男女7人夏物語』(1986)の今井良介役を、この『アパートの鍵貸します』のジャック・レモンを意識して演じていたと語っているそうである。テニスラケットでスパゲッティの湯を切るシーンは、そのまま引用している。後にその続編の『男女7人秋物語』(1987)で、そのさんまさんと宏美さんが共演することになるのも不思議な巡り合わせである。

 

 

 「ジェラシーの鍵貸します」は、作詞:松井五郎、作曲:中崎英也、編曲:奥慶一。このアルバムに於ける松井さんの詞の世界は、一つひとつ艶やかな完結した世界を描きながら、短編映画のようなそれぞれの色彩感を持って迫って来る。紳士録、螺旋模様、天然色などの言葉の選び方もお洒落この上ない。この曲の内容は、多くの紳士を手玉に取る妖艶な女性が主人公だが、「♪ わるいけど誰のものにもならないわ」などの歌詞もあり、誇り高さを感じさせる。宏美さんの脂の乗り切った艶やかな声が、そんな矜持を自然に表現している。

 

 松井さんの使う言葉で一つ気になったのが「かどあかす」である。リリース以来36年間、私の中で棘のように引っかかっているのである。辞書的には「かどあかす」は存在せず、「かどわかす(勾引かす・拐かす)」が正解。だが、同じく『cinéma』収録シングルの「月光」も松井さんの詞だが、こちらには「かどわかす」と正しい仮名遣いで現れるのだ。なので、この「ジェラシー〜」の方がミスプリでしょう、と片付けたいところだ。

 

 だが、ことはそう簡単ではないのが宏美さんの発音である。こちらは「ジェラシー〜」「月光」共、ハッキリ(♪ かどあかす)と聞こえるのだ。これは宏美さんの思い込みなのか、発音のクセなのか、はたまた歌詞・楽譜に誤って記載された「かどあかす」をそのまま歌ってしまったのか…。今となってはこの謎を解くのは難しそうだ。と言うか、こんなことに拘っているマニアックな人間は私くらいだろうか。

 

 私が子どもの頃はテレビで毎日のように時代劇が放映されており、当時の話し方そのままではもちろんないだろうが、単語レベルでは江戸時代に多く使われていたであろう「和語」を聞くことができた。病気、誘拐、放火、裁判と言わず、やまい、かどわかし、火付け、裁き、という具合に。だが、時代劇がほとんど消滅してしまった今、このような和語を耳にする機会はほとんどなくなってしまった。強いて言えば、あと落語くらいだろうか。従って若い方は「かどわかす」という言葉に馴染みがないかもしれない。

 

 

 脱線はこれくらいにし、曲の方に目を向けよう。ライナーノーツの宏美さんの言葉からも推測されるが、この曲は恐らく打ち込みを駆使したアレンジと思われる。イントロからAパートにかけて耳に残るのが、ベースとスネアの音に聞こえる以下に示したリズムだ(譜例1)。さらに、Aメロの合間とサビのバックで、ハンドクラップを模したような電子音もずっと鳴っている(譜例2)。

 

(譜例1)

 

(譜例2)

 

 そしてこの、基本16ビートに乗って刻まれるリズムの上に、Aメロはほとんどが2拍3連である。なんと、私は「2拍3連が効果的な宏美さんの歌ベスト20❣️」のブログの際、迂闊にもこの曲を見落としていた。気づいていれば間違いなくベスト3には入れていたであろう。

 

 Bメロ「♪ 恋はショウタイム 熱いグッドタイム〜」はメロディーもバックもリズムパターンが変わる。だが、後半の「♪ なやましげに/あちらこちら かどあかす」では再び2拍3連が登場する。加えて6th、7thの音が時折り半音下がって同主短調に傾斜し、夢幻的な雰囲気を醸し出す。

 

 サビのCメロ「♪ I Love You Love Me More〜」は、三たび2拍3連のように聞こえる。だが、譜例2で示した後半赤枠のリズムと、2拍3連のリズムというのは、実は非常に近いリズムなのだ。打ち込みならいざ知らず、ボーカルの場合、この2種類のリズムの正確な歌い分け、聴き分けはかなり困難だ。

 

 打ち込みの手拍子音がこのリズムだと、歌メロの譜面も、譜例3の下段のようだった可能性もある。まぁこれもややマニアックな拘りであり、どちらでも良いのであるが。😜

 

(譜例3)

 

 いずれにしても、この曲は噛めば噛むほど、聴けば聴くほど味が出る名曲である。どうしてもアルバムを初めて聴いた時は、「シンデレラ・ラッシュアワー」「星に願いを」などキャッチーな曲に耳が行く。だが聴き込むにつれ、この曲や「そのとき彼女はジーンセバーグ」のような曲がジワジワと沁み入って来るのである。

 

(1985.11.21 アルバム『cinéma』収録)