現時点での宏美さんの最新オリジナルアルバム『PRESENT for you * for me』2曲目に収められた、オールドファッションなナンバー。昨日リリースされた『LIVE BEST SELECTION  2012-2020 太陽が笑ってる』にも収録されており、この曲の魅力を再認識してブログで取り上げたくなった。

 

 この曲の話題性は、何と言っても阿久悠先生が遺された詞に新たな曲をつけた、ということ。宏美さんが阿久先生の作詞による新曲を歌うのは、「舞踏会」以来実に23年ぶりということになる。

 

 作曲の河口恭吾さんはシンガーソングライターで、2003年「桜」が大ヒット。由紀さおりさんや藤井フミヤさんなど、他のアーティストにも楽曲を提供している。

 

 そして編曲の光田健一さん。2013年の宏美さんのオリジナル・アルバム『Love』の時に、作詞・作曲・編曲の「プロポーズのとき」(後に「時の針」のカップリング曲としてシングルカット)を提供している。『Love』の特典盤によると、光田さんとは河口湖ステラシアターで開かれた『2012 イルカ with Friends Vol.8』というイベントでご一緒されたという。光田さんは江原啓之さんのサポートピアニストで出演されていた。その時にディレクターを通じて依頼、出来上がったのが「プロポーズのとき」だとのこと。

 

 宏美ファン、音楽ファンの皆さんには、改めてここに記すまでもないことだが、「あかぺら」つまりア・カペラは、元々イタリア語で簡素化された教会音楽の様式を指す。転じて、通常は無伴奏で合唱や重唱を行うことである。

 

 

 曲のタイトル通り、宏美さんご自身の多重録音によるア・カペラが、フィンガースナップを伴って曲は始まる。自らも4人組のア・カペラ・グループ「ザ・ハモーレ・エ・カンターレ」を主宰するという、光田さんならではのアレンジ。もちろん、宏美さんのハーモニーも完璧だ。「山下達郎さんに聴いてもらいたい!」とは、宏美さんご本人の弁である。

 

 そこにピアノの音が入ってきて、昔懐かしいジャズのコンボ・スタイルである。この曲はベース(木村将之)、ドラムス(宮川剛)、ピアノ(光田健一)+ビブラフォン(香取良彦)が入り、いっそうジャジーに聞こえる。ドラムスのブラシの音も良い。それに宏美さんのコーラス&ボーカルが加わった、最強のクインテットである。

 

 阿久先生が「あかぺら」という言葉に託した想いは、比較的解り易い。大切な話は、ア・カペラのように、飾り(伴奏)なしで、素直な思い(自分の声)を伝えて欲しい、ということであろう。余計なものを取り去ると、ものの本質が見えて来るものだ。

 

 この歌を、歌唱力抜群で類稀なる美声を持った宏美さんが歌うのだから、説得力抜群である。「PRIDE」のブログでも触れた通り、伴奏の音数が少ないほど、宏美さんの歌唱力は際立つと思うからだ。

 

 昨日発売の『LIVE BEST』は、予想を遥かに超えて良かった。スタジオ録音の新曲「太陽が笑ってる」は入っているものの、他のライブ音源はほとんどすでにDVD化され手元にあるので、新鮮な感動はさほど期待していなかったのだ。しかし、映像を見ながら聴くのとはずいぶん印象が違ってくるものだと気づいた。「音」に集中して聴く2枚組は、聴きごたえがあった。

 

 この「あかぺら」もそうだ。多重録音のア・カペラのコーラスは、もちろん生では再現不可能だ。そこだけトラックの音源を流し、ピアノの入りから生演奏に切り替わる。スローな4ビートのバックに身を委ねながら、宏美さんの無駄な力の抜けた歌声が、この上なく心地よく響くのだ。ビブラフォンはないが、その分ストリングスが加わり、間奏や後奏では、コーラスに代わって彩を添える。ライブ感はあるのに完成度は高い、素晴らしい演奏である。

 

 もうとうに天国にお引越しをされた、阿久先生のお耳には届いているだろうか。

 

(2018.8.15 アルバム『PRESENT for you * for me』収録)

 

P.S.昨日の大阪フェスティバルホールでの『残したい花について』ツアーファイナルは、感染拡大の中で無事に終了した。私の予想通り、ヨシリンが登場して「にがい涙」をお二人で歌い、さらに何と宗次郎さんも出演され、オカリナバージョンの「月見草」まで披露されたとか。生で聴けなかったのは本当に残念だが、DVDの発売を楽しみにするとしよう。

(anax-hiromiiさん、情報ありがとうございました😊)