古くからの宏美ファンにとっては、もはや「神曲(かみきょく)」と言ってよい。「♪ 肩抱きしめながら今〜」の部分を思い浮かべてみていただきたい。神々しいまでに初々しい、一点の曇りもない声。まさに「天まで響け」のキャッチフレーズがピッタリの歌声である。デビュー曲「二重唱」のB面の曲で、宏美さんが「この曲を歌うたび『歌手になるんだ』と期待に胸を膨らませていた当時のことを思い出す」とよく言われていることや、あるコンサートでマイクトラブルがあり、そのままノーマイクで歌ったことが定着したことなど、今さらここで触れる必要はないであろう。この「月見草」を取り上げるのを躊躇うくらい、この曲については語り尽くされている感がある。

 

 

 では、あまり語られていない(と思われる)角度から一つ。サビで一番盛り上がる部分の歌詞を今一度引用しよう。「♪ 肩抱きしめながら今 誓い合うふたり」。あれ?と思われた方もいらっしゃるのではないか。最後の「ふたり」の部分である。それもそのはず。たしかに、オリジナルの録音では、バックコーラスが「♪ ふたり〜」と入っているが、ライブ盤や1999年の『Never Again 〜許さない』のバージョンには、このコーラスは入っていないのだ。だから、「♪ ふたり〜」に馴染みのないファンの方がいらしても不思議ではない。

 

 私はファン歴40年になるが、ライブでは「ふたり」の部分を聴いたことがない。80年代前半、ファニー・キャストが常時コンサートでコーラスをしていた頃でさえも、なかった。なぜだろうか。ここからは私の推測であるが、コンサートではノーマイクで歌われることが多かった「月見草」。水を打ったように聴き入っている会場のファン。たしかにそのシチュエーションで、コーラスの「♪ ふたり〜」は考えられない(笑)。まして、メインボーカルがノーマイクなのだから、余計難しかったのではないか。

 

 実はこのコーラス部分に拘るのは、少なからぬ思い出があるからなのだ。私が「月見草」を聴いた、或いは見た?のは、コンサート➡️ライブ盤➡️ヤンソンの楽譜(添付画像)➡️『あおぞら』の順である。コンサート、ライブ盤ではコーラス部分は歌われていないのであるから、知らなくても仕方がない。その次に、添付画像の明星付録ヤンソン(懐かしい!)を見たのだ。赤い四角で囲った通り、4分音符3つで「ふたり」とハッキリ書かれている。やはりオリジナルには「ふたり」という部分があるのだ、と思ってようやく購入したアルバム『あおぞら』を聴いたら、やっぱりないではないか!不審に思って弟に、「この楽譜も歌詞カードもヘンなんだよ。『ふたり』と書いてあるのに、レコードには入ってない」と言うと、「ふたり〜、ってコーラス入ってるじゃん!」と言われてビックリ。たしかによく聴くと聞こえるが、ヤンソンの楽譜と符割が違っていたのだ。(添付画像その2)譜面が読めない弟は先入観がないので聞こえたが、譜面通りに聞こえるはずと思い込んでいた私には聞こえなかったのだ。皆さん、聴き直して見ていただきたい。コーラスの「♪ ふたり〜」は、バックの演奏と同じメロディーで、紛れてしまっているのだ。

 

 

 

 

 閑話休題。今回のツアー(コロナ禍で休止中)で、私のようなコアなファンを喜ばせる出来事があった。久々にセットリストに名を連ねたこの「月見草」。件の「♪ ふたり〜」のコーラスはなかったものの、今回のアレンジでは「♪ ふたり〜」のメロディーを、ギターが「ポロロン」と、優しく奏でているのだ❣️古くからのファンは、皆私と同じ気持ちであろう。ギターの音色と共に、心の中でそっと「♪ ふたり〜」と歌っているのである🤣

 

(1975.4.25 シングル「二重唱」B面)