堺正章さんの1973年のヒット曲である。テレビドラマ『時間ですよ』の挿入歌であった。マチャアキは、若い世代にはその後の司会者などのイメージが強いかも知れないが、スパイダース時代、その後のソロ活動と、実力も実績もあるボーカリストである。私の母も好きで、家にこの「街の灯り」や「さらば恋人」のレコードがあった記憶がある。作詞:阿久悠、作曲:浜圭介で、その年のレコード大賞作曲賞受賞、紅白歌合戦にもこの曲で出場している。

 

 

 宏美さんは、この歌を二度レコーディングしている。1981年の『すみれ色の涙から…』(編曲:萩田光雄)と、2014年の『Dear Friends Ⅶ 阿久悠トリビュート』(編曲:上杉洋史)である。ライナーノーツにも書かれている通り、宏美さんはマチャアキの歌が好きで、「さらば恋人」もカバーされている。

 

 最初『すみれ色の涙から…』の「街の灯り」を聴いた時、マチャアキの歌に慣れていた私は、多少物足りなさと言うか、違和感を覚えた。すぐその正体に気づいたのだが、それは宏美さんの歌い方があまりに端正すぎる、ということだった。この曲は8分の6拍子で、8分音符がいくつも並ぶのだが、マチャアキはそれを微妙に抑揚をつけて伸ばしたり縮めたりするのだ。宏美さんは基本的に8分音符を均等に歌う。

 

 しかし、何度か聴くうち、宏美さんはこれで良いのだ、と思うようになった。持って生まれたよく伸びる声、天性の歌心やフレージング。特に小細工をしなくても、譜面通りに歌うだけで、その歌の持つ情景や情感といったものが美しく伝わるのだ。

 

 

 そう言えば、関連することを思い出した。YouTubeに「崩し方の少ない歌い方による聖母たちのララバイ」という動画が上がっている。演歌・歌謡曲系の歌手は、曲を歌い込むにつれ、少しずつ歌い方を崩すというか、ためたり、ちょっと遅らせたりして歌うようなことをよくする。上手く使うと、そこに想いが感じられたりして効果的ではある。ただ、それが過剰になると、常に伴奏から遅れているような歌い方に聞こえ、落ち着かないことがある。

 

 宏美さんはあまりそういうことをするタイプではないのだが、「思秋期」「聖母たちのララバイ」などでは、若干そのような部分もある。「聖母…」では、2コーラス目の「♪ あなたのその涙」など、近年その傾向が強い。恐らく、「崩し方の少ない〜」をアップされた方は、あまりそれをよしとされていないのであろう。

 

 この「街の灯り」は、『Dear Friends Ⅶ』では、キーは1音下げて(Cメジャー➡️B♭メジャー)のレコーディングであった。近年の音域を考えるとベストチョイスであろう。歌い方自体は、ほとんど崩しておらず、宏美さんらしい端正な歌い方で、私は好きである。

 

 

 この『Dear Friends Ⅶ』バージョンの「街の灯り」を、谷村新司さんとデュエットしている動画が見つかったので、最後にご紹介しよう。CDもこの動画も、昨日の「Hello ! Hello !」と同じ、いつメンが演奏しているのだが、レコーディングの時には演奏していらした渡辺茂さん(Bass)のお名前が、この動画のテロップにはないことが淋しい。

 

 

(1981.11.5 アルバム『すみれ色の涙から…』収録)