間違いない。昔、実家にあったLPは確かにこのジャケットだった。

 

 

 「堺正章 さらば恋人 LP」と検索したら、上の画像がヒットした。おそらく母が買ったのだろう。私も「さらば恋人」は大好きで、よく覚えている。小学校4年生の時である。

 

 作詞:北山修、作編曲:筒美京平。昨年10月京平先生が亡くなった際、あちこちのテレビ等でこの曲が流れた。そのせいもあるのか、YouTubeのコメント欄には若い方の声も多く、嬉しくなった。

 

 

 改めて歌詞を読んでみた。恋人を置いて、ひとり旅立つ主人公。理由は全く語られないが、「♪ いつも幸せすぎたのに/気づかない二人だった」というサビの歌詞が3度繰り返される。シチュエーションからはチューリップの「心の旅」を連想するが、「♪ 悪いのは 僕のほうさ 君じゃない」という潔さがあり、私はこちらの方が心情として理解できそうな気がする。

 

 榊ひろと氏の『筒美京平ヒットストーリー』から、この曲に関する部分を抜き出してみよう。

 

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(ソロ・デビューの)第1弾シングルがチャートの第2位まで上昇する大ヒットになった「さらば恋人」(71年5月)であり、堺はこの曲でレコード大賞大衆賞に輝いた。

 アコースティックな手触りを持つスケールの大きなポップ・カントリー風バラードで、堺の少し泣き節的なヴォーカルの特性を活かしたメロディーが秀逸だ。また、ティンパニとタンバリンをフィーチャーしたイントロが耳を引くが、歌が始まると通常の8ビートに変わってしまうアレンジに対して、セッションに参加したドラマーの石川晶から疑問が呈されたが、筒美は何の問題も感じていなかったという。イントロはあくまでキャッチコピー的なものと考える筒美らしいエピソードである。

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 確かに、イントロだけでなく要所要所で現れるティンパニの音は、インパクト絶大であり、子ども心によく覚えている。さすが、の京平サウンドである。

 

 構成はABA’×2+BA’のツーハーフとシンプル。サビのBパートは、歌詞の同じ音数に対して、Aパートの倍の小節数を割り当てている。これは京平先生ならずとも、曲作りではよく使われる手法である。必然的にAパートよりも長い音符が多く使われることになり、サビの部分を聴く者の心により強く焼きつけるのだ。

 

 

 さて、宏美さんは「マチャアキ大好き」と公言されているし、「街の灯り」もカバーされている。この「さらば恋人」も、『Dear Friends』の第1集に収録されていることから、その思い入れも分かろうと言うものだ。

 

 宏美バージョンのアレンジはギタリストの古川昌義さん。イントロは古ちゃんのギター一本で静かに始まるのが好き。間奏にオリジナルのフレーズをチョコチョコと引用しており、原アレンジへのリスペクトが感じられる。特に私はラッパ吹きの端くれとして、YOKANさんの洒脱でありながら温かいフリューゲルの音色がたまらない。

 

 宏美さんのお声は、眠っている恋人への甘やかな想い、その恋人を置いて出てゆく後ろめたさに満ちている。サビでは、音域いっぱいの高音の部分も、地声で歌い切っている。説得力充分ないつもの整った歌い方である。最後のハーフでは、控えめに宏美さんのセルフコーラスがダビングされていて、彩りを添えている。

 

 

 マチャアキもお元気で現役でいらっしゃることだし、この永遠の名曲をお2人のデュエットで聴かせていただけないものかしら。切に願う。

 

(2003.3.21 アルバム『Dear Friends』収録)